第1話 のくちゃん、追放される
「追放だ」
「へ?」
僕たちのパーティーは、森の外れで、野営をしていた。
石がゴロゴロしている場所で、
勇者アレルは、突然言葉を漏らしたんだ。
「追放ってあれかい? 女性向け活字サイトで流行っている」
「違う!! リアルでの追放だ!!」
「マジか」
僕たち、火を囲んで座っていたんだ。
夕飯はシチュー。
鍋がグツグツいっていて、もうすぐ出来そう。
いい香りがするんだ。
「で、誰を追放するんだい? やっぱり女剣士のメリルかい?」
「いや」
「なら、男戦士のルイスかい?」
「それも違う!!」
「そうか、わかったよ。アレル自身が追放されるんだね。でも、アレルがいなくなったら、僕たちのパーティーは勇者パーティーじゃなくなるね。なら、何パーティーていうんだろう」
僕の言葉に、メリルとルイスが、う~んとうなった。
僕も一緒に考えた。
なにパーティーって名付けようかな。
「あたいは、女剣士メリルとブ男パーティーがいいな」
「おいおい、ふざけるな。なんで、お前に主導権があるんだよ。やっぱり、ここは力持ちの俺が中心となった男戦士ルイスと愉快な仲間たちだ!!」
「それだと、語尾にパーティーがつかないじゃないか。却下」
「お前らふざけるな!!」
アレルが怒鳴った。
「そもそも、なんで俺が追放だって言っておきながら、自分が追放されなきゃならんのだ。追放されるのは、俺以外の奴だ!! そいつは、クソみたいな職業についている奴だ!!」
「「「クソみたいな職業?」」」
僕たち三人はハモった。
僕たち、仲良しだね。
「お前らの悪い頭ではまだヒントが足りなかったようだな。そいつは、パーティーで最年長の奴だ。もっとヒントをやろう。年は51、ちびで、デブで大飯食らい。武器は素手で、魔法は使えず、へんてこな技―――『こもる』だとか、『逆切れ』だとか、『人見知り』だとか、『頭突き』しか使えないカスだ!!」
「誰だか、心当たりあるかい? ルイス」
「いんや」
「あんたは、のくちゃん?」
「う~ん、僕は、やっぱりアレルのことだと思うな」
「ふざけるな!! このゴミクズどもが!!」
勇者アレルは、聖剣―――デッキブラシを抜いた。
あの先っぽのもじゃもじゃがすごく強力なんだよね。
あれで、多くのモンスターを瞬殺してきたんだ。
「よしわかった。いまから、その追放者に、俺はこの聖剣のもじゃもじゃを向ける。そいつは――――」
ゴクリ。
「お前だ!!」
うえ~~~~~~!!
僕?
もじゃもじゃが、僕に向いているよ。
嘘だよね。
「アレル、僕だなんて嘘だよね。実は、アレル自身をさそうと思って、さし間違えたなんてないよね」
「そんな、アホみたいなことはせん」
「あっ、聖剣のもじゃもじゃちょっとへしゃげている。アレル、実は地面をさしていたんだな」
「・・・つべこべいうな。俺はお前をさしたんだ」
アレル、なんで、そんな冷たい目をするの?
僕たち仲間じゃないか。
「ぼ、僕は年長者だぞ!! その僕を追放するだなんて」
「たしかに、年長者だが、役立たずだ」
「うっ、そんな・・・」
僕はメリルに視線を投げかけた。
メリル・・・助けて。
「アレル、のくちゃんを追放なんてひどいよ。確かに、のくちゃんは、まんまるしていて、あたいの膝くらいしか身長はないよ。でも、マスコットデブじゃないか」
「メリル、お前の気持ちは痛いほどわかる。だが、これは勇者である俺の決定だ!!」
「アレル・・・」
メリルはアレルに屈してしまった。
僕は、ルイスに視線を投げかけた。
ルイス・・・よく一緒にけん玉で遊んだよね。
「アレル、あんまりじゃね~か、のくちゃんだって、俺たちのパーティーで壁になるくらいの頑張りをしてきただろ。それを突然、追放だなんて」
「確かに、壁にはなってきた。だが、大飯食らいだ!! 俺たちのパーティーは赤字なんだよ」
「マジかよ。なら、しょうがねえな」
ルイスゥ~~~~~!!
・・・・・・、
二人とも、アレルに説得されちゃった。
ぼ、僕、どうしよう。
「本当に、僕をパーティーから追い出すのかい? あんなに、僕を仲間にするのに一生懸命だったのに」
「あの時の俺はバカだったのさ。エルダの酒場で、特殊な職業であったお前に引かれちまうなんてさ。だって、仕方がないだろ。『引きこもりニート』なんて職業は見たことも、聞いたこともなかったんだし、ニートをチートだって、誰だってそう思うだろ」
「でも、僕は特別だよ」
「あれかい? 生まれ変わりだって」
「ああ、前世で、世界の救世主―――『引きこもりニート』だったんだ。それをこの世界でも引き継いだんだ。僕を追放したら、絶対に後悔するよ」
「後悔しないさ」
「なら、僕の最後の頼みを聞いてくれないかい?」
「ああいいぜ」
「僕が、アレル、君に勝ったら、追放しないでくれ」
「俺と? いや、俺たちと勝負するのかい?」
え?え?え? なんで、メリルもルイスも立ち上がっているの?
それに、武器まで構えて。
「そんな、ずるいじゃないか。三対一だなんて」
「ずるくない!! 俺たちはパーティーだからだ」
グヘッ、ウゲッ、グポッ・・・ガガガガガ。
こうして、僕は、三人にボコられた。