大蛇討伐です。③
「……教えな!」
「は、はあ?」
リューンは俺に詰め寄ると、俺の顔を見上げた。
「あたしにも、それ、教えなって!……思ってたんだ、1個じゃ効き目も足らないし時間も短いバフの効果を高められたら、危険が減るだろ!そうすればヒーラーが足りない時でも……」
「……」
たぶん、俺はぽかんとしていたと思う。
必死な顔でそう言ってくるリューンは、俺の胸ぐらを両手で掴んで……まあ、背が低いからあまり格好はつかないけど……口を引き結んだ。
その手首には大きめの水晶のようなものがついた腕輪が填まっていて、もしかしたら杖の代わりにしているのかも、と思った。
因みに、俺達バッファーと、ヒーラーやメイジの違いはそこにもあったりする。
バフは自分の魔力をちょっと違う形にして相手に渡すイメージだから、変換させる媒体……杖みたいなものが要らない。
ヒーラーやメイジは、魔力から全く違うもの……火とかを生み出す時に、媒体を使う必要があるのだ。
よく見ると、彼女は俺達を子供扱いしていた割にだいぶ若い気がする。
むしろ年下なんじゃないかこいつ……?
「……何だその顔は。意外そうにしやがって!失礼だろくそガキ!」
「って、お前それものを頼む態度じゃないだろ!?」
突っ込むと、リューンは手を放して腕を組み、俺を見上げたままふんっと鼻を鳴らした。
「教えてください。これでいいだろ」
「無理、重ねられる理由わからないし」
「はあ!?お前っ……教えられないなら大口叩くんじゃないよ!!そ、それとも……信用出来ないから教えないとか言うんじゃないだろうね」
それを聞いて、見ていたグランが笑い出す。
隣にいたボーザックも、肩を震わせた。
リューンはそれに気付いたらしい。
真っ赤になって怒鳴った。
「何だよ!いい加減ちょっとは信用したらどうなんだい!」
「安心なさい、貴女の知っている通り、バフを重ねられる奴なんて殆どいないわ。特殊なのよ、うちの逆鱗のハルトは」
流石にかわいそうになったのか、ファルーアが、妖艶な笑みを浮かべながら言った。
いや、逆鱗の~とか付けなくていいんだけど。
心の中で突っ込んでおく。
リューンは眼をぱちぱちした後、ばっと俺に背中を向けた。
「ふん!ならそう言えよ!」
「……とりあえず、範囲バフなら教えられるけど」
「っ!!早く言うんだよそういうことは!!」
リューンはまたも、俺に詰め寄るのだった。
******
昼飯を済ませた後、俺がバフの広げ方を説明している間に、作戦は練り込まれていた。
まずはヤンヌバルシャを誘い込んで、肉体強化を重ねたグラン、ボーザック、ガルニアを中心に戦う。
俺の双剣が突き刺さった時にかけていたのは腕力アップ3重と肉体強化だったから、元々腕力があるだろう3人は肉体強化で十分かもしれないからな。
様子を見ながら切り替えればいいだろう。
その後は、グランとガルニアで大蛇の口を開いたまま『固定』して、ファルーアが魔法をぶち込むわけだ。
その『固定』が難しそうだけど、ファルーアはふふっと妖艶な笑みを溢して、龍眼の結晶の杖をくるりと回した。
「試してみたい魔法があるの。頼むわね」
ヤンヌバルシャは朝の内に、平原側にやってくるらしい。
なので、討伐は明日になった。
…………
……
リューンは手の上に練り上げたバフを広げようと奮闘していたので、俺はディティアとスレイのところに行った。
一向に広がらないっていうか……練り上げたバフを、傘みたいに広げるってのがぴんとこないらしい。
俺の教え方が悪いんじゃなく、リューンの要領が悪いんだろうと思うことにする。
「まだ双剣の話?」
「あ、ハルト君!うん、スレイは物識りなの!」
話し掛けると、嬉しそうな彼女は眼をきらきらさせ、濃い茶の髪をふわりと揺らして微笑んだ。
それを見て、相変わらず仮面のスレイが笑う。
「中々、ここまで双剣の話が出来る若者はいないからな」
若者って……こいつ何歳なんだ?
白髪混じりの黒髪だけど、そこまで年上って感じもしないんだけどなぁ。
そんなことを考えていたら、ディティアがぽんと手を打った。
「そうだ、ハルト君の双剣、少し見せて」
「うぇっ!?……あ、ええと」
「?」
…………しまった。
そうだ、俺、ヤンヌバルシャと戦った後、ちゃんと磨いてないぞ……。
「ハルト君?どうしたの?」
「あ、あー……はい、ごめんなさい」
諦めて、おずおずと双剣を差し出す。
「え?……あ、ああーっ!?き、汚い!ハルト君!!磨いてないでしょう!?」
「これは……酷いな」
「はい、すみませんでした」
その後、俺はディティアとスレイに散々突かれながら、双剣を磨き上げることになる。
グラン達……ガルニアですら、全く近寄ってこなかったのであった。
******
そうして、翌日。
大蛇討伐が始まった。
14日分です!すみません……
本日分は別途投稿予定です。
いつもありがとうございます。




