大蛇討伐です。②
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翌日。
許可を得て、南側……つまりは砂漠方面の門を通してもらった。
アマルス達には討伐に出ることを伝えてある。
必ず戻れと何度も念を押された。
広がる草地の平原。
その真ん中を街道が続き、空はすっきり晴れた蒼。
大きな雲がゆったりと流れていく様は、何とも雄大だ。
まだ昼前なので、太陽はこれからまだ高くなる。
閉鎖されているためヤルヴィから来る人がいないから、誰かに会うことはまず無いだろう。
リューンとガルニアは先に行かせて、俺達はスレイの案内で合流場所へと向かうことになってるんだけど。
「……ねぇ、何でスレイは仮面なの?」
「……ん、傷を隠している場合もあるから聞かない方がいいこともある」
「ってことはスレイは傷を隠しているわけじゃないんだねー」
「ああ、そうなるな」
「リューン達とは長いの?」
「いや、大蛇の情報を集める仕事で初めて組んだ」
「えっ、そうなの!?」
ボーザックが話し掛けて、それに応えるスレイを見ながら思う。
本当に謎である。
「スレイさんは、双剣を使うんですよね?」
「そうだ。スレイでいい。君の双剣はだいぶ見事だな」
「!、……は、はい!……ええと、ありがとうございます」
ディティアは双剣の話がしたいのか、ちょっとうずうずしているみたいだ。
少し後ろから遠慮がちに声を掛けたのを見て、思わず笑みが零れる。
スレイの戦い方はまだ見たことがないけど……相当強いことは予想出来たからな。
それまでスレイと話していたボーザックはそれに笑うと、フェンと一緒に、前へと駆け出した。
ディティアに気を遣ったのか、長くなりそうな話だから逃げたのかもしれない。
「スレイは、その、どんな双剣を使っているんですか」
ローブで見えない双剣のことを聞き始めた彼女を後ろから眺めていると、グランから肩を叩かれた。
「楽しそうにしてるじゃねぇか……。ハルトも混ざったらどうだ?」
「え?いいよ、あれ、多分めちゃくちゃ専門的な話になるやつだから」
「いや、そうじゃねぇよ……お前、いいのかそれで」
「うん?」
「グラン、諦めなさい。ハルトよ?」
ファルーアが杖をくるりと回す。
「はあ?何だよそれ」
返すと、ふたりは笑って見せる。
龍眼の結晶が、きらりと光を散らして輝いた。
まあ、ディティアとスレイの話が双剣を磨ぐための砥石の選び方に移ったところで、グランとファルーアは眉をひそめたんだけどな。
恐るべし、双剣愛。
そして、スレイの謎は深まるばかりだった。
……今日のバフは、全員に五感アップをかけている。
見晴らしは抜群だけど、前回のように地中にいるであろうヤンヌバルシャを早く見付けたいのもあったからだ。
リューンとガルニアと合流するのはもう少し先だけど、警戒しておいて損はしないだろう。
……そうは言いつつも平和な時間を、俺達は過ごしたんだけどさ。
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「ハハハァッ!来やがったな、おい!大盾!まずは手合わせからだ!!」
「しねぇよ!何だよお前!!」
真っ黒な大剣を振りかざして、吼えるガルニア。
グランは大盾を背負ったまま、構えもせずに怒鳴り返す。
やはり獰猛な魔物そのものであるかのような黒鎧の男は、今日も紅い眼をぎらぎらさせていた。
「ガルニア。もう少し殺気は隠すべきだ」
スレイが坦々と指摘する。
「逆だろう!俺は戦いたいからな!」
しかしガルニアはまるで聞くつもりは無いらしい。
「どっちでもいいさ……面倒臭い」
リューンは呆れ顔で地面に胡座をかいている。
合流場所は山脈の麓。
大きな木が1本、どんと聳えている所だった。
かなりの高さまで伸びた木は枝葉をぐるりと広げて、陽の光を思い切り浴びている。
この木はヤンヌバルシャが苦手な物質を生成しているらしく、この近くにいれば安全なんだそうだ。
先行してヤンヌバルシャの居場所を探っていたリューンとガルニアは、その枝葉が落とした影の中、待っていたというわけ。
……とりあえず、昼を少し回っているし昼飯にするだろうな。
俺はそう思って準備をしようと踏み出した。
しかし。
「そうだ、おいそこの。逆鱗とかいうひょろい坊主」
「は!?」
いきなり話し掛けられて、俺は思いっ切り引いた。
殺気がこっちに向いたせいか、ぶわあっと鳥肌が立つ。
ガルニアがグランにあしらわれたせいで、俺に話し掛けてきたのである。
っていうか、逆鱗とかいうひょろい坊主って何だよ!
お前なんかただの筋肉だろ……。
「お前、あれだ、バフ重ねてやがったろう?いくついける」
「…………」
「はあ?馬鹿言うなガルニア。そんなこと出来るわけないだろうさ。2個目のバフは上書きしちまうんだ」
急すぎて頭が追い付かずに黙っていると、リューンが話に入ってきた。
五感アップがかかってるのか、リューンは眼を細めることなく俺の方をじろじろと見据える。
「……バフ使ってもどうせ強くないだろうしな、お前」
「っ!、なん……」
思わず声を上げようとした俺を、ボーザックが止めた。
「まあまあハルト。……ねぇリューン、ハルトはさあ、ガルニアに痛手を負わせるところだったんだよー。スレイが止めてくれたんだけどさ?それでも強くないとか言えるの?」
「はあ?お前、何言って……」
リューンは言い掛けて、言葉を呑み込んだ。
ガルニアが仏頂面で黙っているのに気付いたんだろう。
「おい、嘘だろう……スレイ?見たのか?」
「彼等の話は正しいぞ、リューン。他にもバフを重ねるバッファーを、俺は知っているからな」
スレイが頷いて、肯定してくれる。
にやりとするボーザックに、俺も口の端を持ち上げた。
ホント、お前格好良いなボーザック!
「ついでに、こんなのも出来るけど?……五感アップ」
練り上げて広げた範囲バフ。
リューンはとうとう、眼を丸くして口をぽかんと開けた。
「な、う、嘘だろ……」
本日分の投稿です!
いつもありがとうございます。
漸く平原に出ました。
早くヤンヌバルシャ戦に……とは思っています。
よろしくお願いします!




