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逆鱗のハルトⅡ  作者:
93/308

貴方のことは嫌いです。⑥

アマルス達を帰し、俺達は改めてアーマンと支部長と話をした。


「いやいや、お見事です裏ハンター殿」

支部長の声音は思ったよりかっちりしていたけど、黒縁の丸眼鏡の内側に光る翠の眼は慈愛に満ちている。

彼はストールトレンブリッジという名前で……うん、覚えられる気がしない。


「世辞はいらねぇよ。……甘い処罰だろうと思うからな……」

グランはそう言って、自分の両手を開くとまじまじと見た。

「けどな、やっぱりいきなりぶった切るってのは好きじゃねぇ。そいつがどんな悪党かってのにはよるんだろうが」

俺はグランを真似て、そっと手を開く。


たくさん旅してきた手のひらは、そんなに綺麗じゃない。

でも、それは俺にとって悪いことじゃなかった。


この手を、誰かを傷付けるために使いたいわけじゃないんだ。


……うん。


「俺も賛成。この手は……そんなことするためにあるんじゃないって思うから」

口にすると、隣でディティアが笑った。


「ふふ、ハルト君格好良いねぇ」

ふわりと揺れる髪に、俺も笑って、手を伸ばす。

「うんうん、こうやってディティアを撫でたりする方が大事だしな」

「ええっ!?何でそうなるの!?ハルト君!?」


「……ハルト……折角格好良かったのに」

ボーザックがはあー、とため息をつく足元で、フェンも一緒に、ふすーっと鼻を鳴らした。


「何だよ、変なこと言ってないだろ」

堪能していると、ディティアはテーブルに突っ伏して動かなくなってしまった。

「言っているしやっているというか……うう、ハルト君って本当にハルト君だよね」


「全く……ほらハルト。遊ぶのはやめなさい。それで、ストールトレンブリッジ。話を続けましょうか」

ファルーアが額に手をあてて首を振る。


俺は素直にディティアから手を退けた。

恨めしそうなエメラルドグリーンの眼が俺を見上げている。


支部長はストーと呼んでくださいと柔らかく笑うと、話を戻した。


「アーマン隊長から聞いています、ヤンヌバルシャ討伐の仕事を受けてくださるそうですね」


「ああ。詳細が知りたい。ついでに俺達は帝国は初めてでな、知識も無いんで情報があれば教えてくれねぇか」

グランが髭を摩りながら言うと、アーマンが笑った。

「はは、そんな感じはしていたな。……では、我々帝国兵のことも知らないのだろうか」


どうでもいいけど、その兜、屋内では脱いでもいいんじゃないか……?


「ヤルヴィに常駐してる兵は交代制で、今は第五隊、アーマンは隊長だってことは治療所の所長さんが教えてくれたよ」

ボーザックが答えると、アーマンは両手を少し持ち上げて、肩を竦める。


「所長か……彼は気難しくてな、たまに兵が世話になるが……ああ、しかし彼は魔力結晶の研究では優秀な成績を収めているそうだよ」


『…………』

俺達はお互いに目配せをした。


訪れた一瞬の沈黙に、アーマンはどう思ったのか、甲冑の上から髪をかき上げるような仕草をする。

「いや、安心してくれ。腕は本当にいいんだ」


「あ、あぁ、そうか。ならいいが……とりあえず、仕事の話をしちまおう。この国の話は後でも聞けるだろ……ッ!!」

グランが髭を摩りながら取り繕うと、ファルーアが妖艶な笑みを浮かべて言う。

「そうね、まずは目の前のことを片付けたいわ。ヤンヌバルシャの情報、持っているのよね?アーマン」


……あれ、抓られたか踏まれたかだな。


グランはふるふるしながら、頬を引き攣らせて笑っていた。


「……情報はあるが、実はちゃんとした報告は受けていないんだ。で、相談なんだが……彼等を呼んでも?」

アーマンはがしゃり、と音を立ててテーブルに腕を置く。


誰のことかはすぐにわかったけど……。

俺は思わず顔を顰めてしまった。

「……はあ?」


「はは……やはり難しいだろうか」

「……いや、呼ばなきゃならねぇならそうしてくれ。ハルトだってわかってる」

アーマンに、グランが苦笑してみせる。

俺はふんと鼻を鳴らしたけど、情報がいるってことくらいわかってるわけで。

腕を組んで頷くと、支部長が微笑んだのが見えた。


……カナタさんみたいなせいか、ちょっと落ち着かないんだよなぁ……。


******


「大盾、まさか自分から首を持ってくるたぁやるじゃねえか!」


ドカァン!と。


蹴破るかの勢いで部屋に入ってきた巨軀に、俺は思わず身を硬くした。


現れたのは、エニルを斬り伏せた大剣使い、ガルニアと呼ばれた男だった。

「うるせぇよ……寧ろお前が来たんだろうが……」

呆れたグランが手をしっしっ、と振りながら呟くと、聞こえたのか聞こえてないのか、大男は凶悪な顔で嗤ってみせる。


今日は長めの茶色い髪を後ろに撫でつけていて、黒い鎧すら脱いでいるが……シャツから覗く胸板は恐ろしくムキムキだ。


ぎらぎらした紅い眼も健在だったけど、グランは真っ向からガルニアを見ていた。


「お前、あの大蛇の眼を潰したんだろう?」

「……あぁ?」

「馬鹿言ってんじゃないよガルニア!そっちの小娘がやったって言ったろ……な、何だよこっち見るんじゃないよ!」

その後ろからリューンが入ってきて、ファルーアと眼が合った途端にガルニアの後ろに回ってしまう。


……何なんだよこいつら……。


こいつらのことは嫌いだ。

けど、これだけ頭が悪そうだと……なぁ。


思わず呆れていると、すぐ後ろから声がした。


「ふむ、いい双剣だ。手には馴染んでいるようだな」


「なっ……!?」

びくりとして、振り返る。


ディティアも、同様だった。

ガタンと飛び退いた彼女は、既に両手を双剣の柄に当てている。


「おお、悪かった」

後ろにいたのは、スレイという影のような男だった。


こいつは黒いローブで、布を鼻まで引き上げて、目元は仮面のまま。

本当に、全く気付かなかった。


ディティアはごくりと喉を鳴らして、「……いえ」とだけ言うと、椅子に座り直す。 


……俺はそれを見ながら、思っていた。

こいつ、ヤバイ、と。




本日分の投稿です。

21時から24時を目安に毎日更新しています。


皆様のおかげで、星球大賞の二次に残りました!

いつもありがとうございます。

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