貴方のことは嫌いです。③
「彼等は、ガリラヤの毛皮を持っていたそうだ。それは、本来のトレージャーハンターに『返す』ものだろう」
「……本来のトレージャーハンター?」
そのまま話し始めたアーマンに、グランが訝しげに聞き返す。
「ここ、ヤルヴィに自力で辿り着いたり運び込まれたトレージャーハンター達だ。一部は……帰ってすら来られなかったがね」
「つまり、ガリラヤを残してやられちまった奴も、逃げ延びた奴もいて、彼奴らがそのガリラヤを見付けた……そういうことか?」
グランが聞くと、アーマンは頷く。
……もちろん、俺達は、それを知っている。
アマルス達を信じるなら、それは『返す』ものなのかどうか怪しい気もした。
そりゃ、持ち主が見付かったなら当然なのかもしれないけど……アマルス達から聞いた状況では、もう持ち主がいなくなっている可能性だって考えて当然だろう。
気持ちの良い話じゃないけどさ……。
「あのさ、わからないんだけど……じゃあそのガリラヤは、元々仕留めた人達の物ってことになるの?放棄扱いにはならないってこと?」
ボーザックが首を傾げる。
「ああ。倒したことが証明出来るのであれば、仕留めた者達の物となる。実際、今回は証明出来るため、彼等は法を犯したことになる」
「あら、それはどうやってなの?」
黙って聞いていたファルーアが聞き返す。
「あたし達が見てたんだよ。大蛇追ってる時に、戦ってるトレージャーハンター達をね。だからあの惨状を後で見た時、ガリラヤの血の跡を追った。負傷者が出ているかもしれないだろ?」
答えたのはリューンだった。
俺は、思わず唇を噛んだ。
「じゃあ何だよ……だからって……お前らは彼奴らに斬り掛かったのか?あの子供は死ぬところだったんだぞ?……裏ハンターはそんなに偉いのかよ?他に方法あるだろ!?」
リューンは「はっ」と嘲笑して、俺に向かって指を突き出した。
「軽々しく言うんじゃないよ。じゃあ何?大蛇に喰われた奴が必死に守った『形見』を、勝手に持ち去るのが正しいっての?そもそも、あいつらがトレージャーハンター達を殺してないって、どうして言えるんだい?」
俺は、手を握り締めた。
違う。そんなことが、言いたいんじゃない!
俺が重ねて口を開こうとした瞬間、ひやりとするような声が発せられた。
「あら、その理屈で言うなら、彼等が大切にしている『家族』の命を狩ることは正しいのかしら?まずはガリラヤを返させるべきだわ?……それをせずに貴女は逃げ出したじゃない。私達はちゃんと聞いたわよ?お前らは何だ、斬り伏せた理由を言え、とね」
「……ふん、知りもしないで言うんじゃないよ」
「私達を子供扱いするほどですもの、かなりのご年齢なのよね?年増はよく吼えるのね。私達は恐くないわよ?ほら」
「はあ!?おまっ……」
リューンはファルーアが妖艶な笑みを浮かべたまま優雅に足を組むのを見て、口を噤んだ。
「あら、どうしたの?吼えてもいいわよ?」
……何て言うか、イライラしてたのがさーっと冷める。
恐い。
ファルーアが恐い。
横をちらと盗み見ると、ディティアが口を引き結んだまま、小さくふるふると震えていた。
……そうだよな、恐いよな……。
グランも視線をテーブルに落とし、変な汗をかいている。
ボーザックに至ってはフェンに手を伸ばして戯れていた。
「ぶふっ……はは!リューン、やめておけ。彼女の方が上手だ」
その空気に一石を投じたのは、アーマン。
思いっ切りぶふっと噴いた割に、彼は優雅に金の髪をさらりとかき上げて、言った。
「種を明かそう。彼女、リューンはバッファーじゃない。あと、そう。気になったんだが、バッファーって言い方はトールシャではあまり馴染みが無いから気を付けて。……彼女はバフが使えるヒーラーだ。本来、彼女は斬り伏せて動けなくなった敵を、動けないけど死なない程度に保ちながら協会まで連行してくるのが仕事だ。……まあ、裏ハンターの裁量によっては、もっと酷い結末もあるわけだが」
…………はあ?
俺は眉をひそめた。
何だよ、じゃああの場で回復しようと思えば出来たってことか?
またふつふつと怒りが湧き上がってくるのを感じて、頭を振る。
……落ち着かないと。
「それじゃあどうして逃げたんですか!危険な子を放置して!!」
その時、ディティアが珍しく声を荒らげて言った。
すると、リューンは被せるように怒鳴る。
「うるさいよ、仕方ないだろ!『見えなかった』んだからさあ!」
「…………あ?」
グランが、頬を引き攣らせる。
俺達は、そこで初めて聞かされた。
リューンは、視力が相当弱く、普段は五感アップで微妙に底上げしてやり過ごしているということを。
******
許せることではない。
でも、何となくやり場の無い気持ち悪い感情が、胸の奥で燻っているわけで。
俺は甲冑の兵が新しく持ってきてくれた香りの良いお茶をがぶがぶと飲んだ。
正直、そんな話を聞いたって、今も俺はリューンもその仲間も好きになれない。
「だから、ガルニアから聞いてせめてヒールくらいしてやろうかと思ったけど、スレイが『子供の傷は治っていた』っつーから……」
「あぁ?どういうことだ」
「ふん、スレイはすげーから気付かなかったんだろ。あの後すぐ、うちのスレイがお前達の様子を見に行ってるんだよ」
「え、嘘。全然気付かなかったけど」
ボーザックが信じられないって顔をする。
俺も五感アップはかけていたけど……そんなこと出来る人間だとしたら、あの影みたいな奴、相当たぞ。
「とにかく!ヒーラーがいるんだって思ったんだよ!だから少しでも休ませてやろうと思って……あの時先に行かせただろう!?文句言うんじゃないよ!!」
リューンはバンッとテーブルを叩いた。
あの時っていうのは、最初に大蛇と出会した時のことたろう。
グランが唸った。
「お前……頭悪いって言われねぇか?」
「はあ!?うるさいよ、黙れ!」
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