貴方のことは嫌いです。②
「気になること?」
聞き返すと、アーマンはゆったり掛けていた身体を起こし、テーブルに肘を突いてこっちを見た。
きらり、と蒼い眼が光っている。
「そうだ。入れ、リューン」
がちゃり。
アーマンの声と殆ど同時に応接間の扉が開く。
入ってきたのは、真っ赤な長い髪を首の後ろで緩く束ねた女性。
黒い革鎧を見るに、兵の中でも斥候とかそういう立ち位置なのかも。
見ていると、眼が合った。
可愛らしい……と言うには少しキツメの顔立ちだけど、きっと美人な方だろう。
ディティアは可愛いから、どっちかというとこの女性はファルーア寄りかな。
そう考えてる間も、視線はまだ交錯している。
紅い眼には長い睫毛が掛かっているけど、しっかりとした意思を感じた。
……うん、何か……敵意?
「彼女はトレージャーハンターだ。今回、私達帝国兵がトレージャーハンター協会を通して出した仕事を請け負ってもらっていたんでね。ちょっとした報告が彼女からあった」
リューンと呼ばれた女性はアーマンの隣まで来ると、その場で立ったまま腕組みして俺達を見回す。
「……片目を潰したのは誰だい?」
「……ッ!!お前!!」
俺は、その声に。
ガタンと椅子を鳴らして立ち上がっていた。
頭がかっと熱くなって、歯を食いしばる。
「まあ、まずは話を」
アーマンはその瞬間には右手を俺に向けていて、制止していた。
「お前……エニルを斬った奴の仲間……あの時のバッファーだろ!?」
俺はそれを無視して、そのまま女性を睨み付ける。
リューンと呼ばれた女性は俺を見て微動だにしない。
つまらなそうにしているだけだ。
それが余計に神経を逆なでした。
「ハルト君……」
隣に座っていたディティアが、そっと俺の袖を引く。
「……ッ」
俺は、ガタンッと派手に座り直す。
不安そうにこっちを見ている彼女を少し見て、俺は深く息を吐き出した。
「……大丈夫、ディティア」
グランも、ボーザックも、ファルーアも。
足元に座っているフェンも、少し緊張した空気を滲ませている。
そして、ディティアが俺にしっかりと頷いて、言葉を紡いだ。
「……片目を潰したのは私です。貴女は……いいえ、貴方達は、裏ハンターですか?」
凛とした空気。
しっかりとした声が、自然と皆の気持ちを奮い立たせるような。
疾風のディティアは、リューンと呼ばれた女性を、座ったまま静かに見据えた。
「……リューン」
「ああ、わかってるよ。……思ったより骨のある奴等だったようだね」
「ふん、あんだけ大口叩いて仕留められねぇとは滑稽だな」
グランが言う。
リューンは漸く椅子を引き、どかりと座った。
腕を組んだまま、こっちに不躾な視線を這わせている。
「あたしらに必要なのは情報だけだったからね。それが受けた仕事さ。元より討伐するつもりはまだ無かったんだよ。それをスレイの奴が勝手に……ったく。で?あの坊主は生きてんの?」
「それは、斬り伏せた方々にお答えする必要はありません」
ぴしゃりとディティアが『拒否』する。
空気が、ぴんと張り詰めて……俺は自分が怒っていることも忘れて身を固くした。
「はあ……これだから困るんだよねお子様は。おい大盾。あんたはずっと問い掛けてきてたね。教えな、あの坊主とその仲間、どうした」
ディティアがそれに驚いた顔をする。
グランは顎髭をいつもよりじっくりと撫でた。
「答えてやってもいい。だが、此奴らは子供じゃねぇし強えぞ。それに、先に答えるのはあんただろう?裏ハンターなのか?お前達は」
「……もう、本当に面倒な奴等だね。そうだよ!あたしもガルニアもスレイも裏ハンターさ。ほらよ」
リューンは、胸元からポイと何かを投げた。
……平べったく加工された宝石……のような、透明な丸い石だ。
「これが、その証だ。あたしを認めた帝都の審査官から貰った」
「……」
何となく、そうじゃないかとは思ってたさ。
けど、納得はしたくなくて。
俺はじっと、その石ころを見ていた。
これが、証じゃない確率だってあるかもしれないじゃないか、と。
グランはそれをまじまじと見詰めて、低い声で俺を呼んだ。
「ハルト」
「……わかったよ」
「ディティアも、いいな」
「……はい」
しゅんと肩を落として、ディティアも頷く。
「子供は何とか治療をしている。連れの2人も一緒だ。それで?何故お前らは彼奴らを攻撃した?」
グランはそう言うと、リューンではなくアーマンを見た。
「アーマン。俺達はそこの女とその仲間が、子供を斬り伏せたのを見た。門で見た背負われていた子供がそれだ。……俺達に何を言いたい、何が聞きたい?」
「ちょいと、あたしを無視して……」
「リューン」
「……ちっ」
アーマンは優しそうな顔でにっこりすると、ゆったりと腰かけ直した。
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