貴方のことは嫌いです。①
とは言えども。
討伐に勝手に出るのはやめといた方がいいらしい。
そもそもヤルヴィから出るのに許可がいるとのこと。
門番も言ってたな、そういえば。
なので、既に仕事として出されている可能性もあるし、やはりトレージャーハンター協会には行く必要があるようだ。
それに、仕事として請け負えば、討伐人員ももう少し確保出来るかもしれないとアマルス達が教えてくれた。
……ちなみに、アマルス達は真っ直ぐここに来たんで、トレージャーハンター協会で罪の告白はまだしていない。
約束だから一緒に行って話すよ、と、笑った。
だけど、もうすっかり夜中。
今から行ってもトレージャーハンター協会は開いていないそうだ。
「ギルドと違って夜は閉まっちゃうんだね」
「地域にもよるんじゃないかな?」
ボーザックとディティアが話している。
つるつる頭の所長は俺達をじろじろと眺め、ふん、と鼻を鳴らした。
「……お前ら、アイシャの人間か」
「ああ?それじゃ不味いってのか?」
グランが腕組みして同じようにふん、と鼻を鳴らす。
後ろで見ていたファルーアが、ため息を付いた。
「……もう、グラン。いきなり喧嘩腰は失礼でしょう?……まさかそんな心が狭い人間が所長なんてやっていないわ。そうでしょう?」
うわぁ。
俺は首を竦めた。
物凄い嫌味に聞こえるぞ……。
ボーザックと眼が合うと、彼は俺と同じように「うわぁ」って顔だ。
所長はそれを聞いて眉を寄せ、はあー、と項垂れた。
「そんなこと言われて悪態のひとつでも付いてみろ……格好悪いだけだろう?とりあえず……ギルドとかそういう単語はいただけねぇな。気を付けろ、この国はアイシャに冷たい奴等が多いぞ」
「そういえば、門番さんにも言われましたね」
ディティアが小首を傾げる。
「なんだ、帝国兵が進言してくれたのか?珍しいこともあるもんだ。彼奴らが筆頭だぞ」
「そうなの?確かアーマンって人だったかなぁ」
ボーザックが唸る。
「アーマンって……ふうん、お前ら、運がいいな。……それなら兵舎に行ってみろ、夜間も開いているぞ」
「……どっちにしろ、確かに会いに行く必要はあるけど、何?そいつ有名なのか?」
思わず聞くと、所長は肩を竦めた。
「ここヤルヴィに常駐する帝国兵は期間ごとに隊が交代するんだ。アーマンは今いる五隊の隊長にあたる」
「隊長……」
所長はゆっくり頷くと、アマルス達を見た。
「とりあえずお前らの気持ちは汲んでやる。あとな、勘違いしてるようだから言っておく。元々そいつは治療に数日掛かる見込みだ。治療室が空いてねぇから通所に切り替えるだけだぞ。そこは譲らねぇ。金を積まれても部屋には置けないからな」
それを聞いたアマルスが、眼を見開く。
「はあー!?何だと、あんた出て行けって言ったじゃねえか!」
「間違っちゃねぇだろう?」
「わあお……これハルトが啖呵切らなくても解決してたんじゃない?」
ボーザックが続けて、俺はぐっ、と息を詰まらせた。
確かに、わざわざ首を突っ込んだ形だ。
「まあいいじゃないハルト君。どっちにしても討伐は出るつもりだったもん。そうですよね?グランさん!」
ディティアが笑う。
グランは顎髭を摩った。
「まあな」
それを聞いて、ヤヌが若干引いたのがわかる。
「あれともう一度戦うつもりだったのか?」
「ああ。片目は潰したが逃げられちまったしな」
「片目を?……生きてるだけマシかと思ったが、案外やるじゃねぇかお前ら」
「お前、失礼だな……」
グランは所長に溢すと、ふう、と息を吐く。
「まあいい、とりあえず腹が減った、兵舎に行くついでに飯だ。行くぞ」
それを聞いて、思い出したように俺の胃がきりきりと空腹を訴えた。
******
兵舎は治療所から真っ直ぐ行って、門からの通りをさらに越えた先。
適当に食事を済ませてから、俺達はそこへやって来た。
二階建てのレンガ造りで、窓からは灯りが洩れている。
入口は閉まっていたけど、その横に小窓があって、中に誰かいるようだ。
こんこん、と窓を叩くと、すぐに開けられて、艶消し銀の甲冑が覗いた。
「何用か」
うお、中でも兜被ってるのか。
俺は心の中で感心した。
帝国兵とやらは、相当きっちりしてるんだな。
ちらりと見える兵舎の中は小部屋で、もう1人兵がいる。
成る程、受付みたいな場所なのかもしれない。
「アーマンを呼んでくれ。門で会った白薔薇、と言えば通じる」
グランが言うと、兵は少し待てと言って、1人が出て行った。
……程なくして。
「待っていたんだ、さあ、中へ」
金髪に蒼い眼で、優しそうな顔立ちの男性が入口から颯爽と出てきた。
……っていうか、甲冑着てないのかよ!
歓迎すると言わんばかりに広げられた両腕は、中々筋肉質だ。
歳はたぶん……40前後だろう。
夜中なのにかっちりした白シャツと、黒いズボンという出で立ちで、もしかしたら本当に俺達のこと待っていたのかもしれない。
「……」
まじまじ見ていると、彼は眼をぱちぱちさせて、ゆっくりと広げた腕を降ろした。
「……あ……ああ、そうか、私だ、アーマンだ」
「いや、それはわかるけど」
「……む、そうか?」
ボーザックが突っ込んで、アーマンがさらに真面目に返すんだけど。
思ったより緩いな……。
俺は勝手に失礼なことを思った。
「遅くなって悪かったな。……甲冑着てくるかと思ったんだが」
「わ、私もそう思いました」
それを見て、グランとディティアが笑った。
…………
……
アーマン自ら俺達を応接間に案内してくれた。
そこに甲冑を着た兵がお茶を運んで来るという、何というか不思議なもてなしを受ける。
武骨な金属製のコップに並々注がれた不格好なお茶だけど、これがまた旨い。
「……美味しい」
ほー、っと、女性陣がため息を溢す。
アーマンは満足そうに頷いて、にこにこと微笑んだ。
「帝国では馴染み深いお茶さ。普通のお茶に、果物なんかを混ぜて作っているんだ。たくさん飲んでいってほしい」
俺達はそれぞれ礼を述べてから、お茶を飲んで話を切り出した。
「子供は治療中だった。俺達も寝てなかったんで休ませてもらったんだ。重ねてにはなるが、悪かったな」
まずはグラン。
アーマンは微笑んだまま、手を組んだ。
「それはかまわない。治療が上手くいくことを祈る。……それに、その間にちょっと気になることもあったんでな」




