助けたいと思うのです。④
途中歩いたり休憩を挟んだりしながらどれくらい走ったか……昼頃に、街へと辿り着いた。
大きな門があって、ぐるりとレンガの壁で囲われた立派な街だった。
その門は開け放たれているけど、門番らしき甲冑2人が待ち構えているのが見えて、どっと疲れが押し寄せてくる。
何となくホッとしたって言うか。
「……流石に、寝てないのはキツいな」
グランが呻く。
「そ、そうですね……とりあえずトレージャハンター協会に行きましょうか……そしたら、宿へ……」
ディティアも肩を落として、ふらふらしている。
「……止まれ」
門番のひとりが、こちらにやって来る。
甲冑はシンプルなもので、装飾は殆ど無い艶消し銀。
腰に下げているのは長剣で、もう1本、短剣を装備していた。
この街の騎士……とかなのかも。
「お前達、何処から来た?」
「えぇ?もちろん砂漠から山脈越えて来たけど……どうかしたの~?お兄さん」
ボーザックが眼を擦りながら、ふわふわと答える。
俺も、男性っぽい声のお姉さんだったらどうするんだろう、とか、変なことを考えるくらいには頭が働いていないみたいだ。
門番は律儀に兜まで被っていたけど、もうひとりと顔を合わせてから答えてくれた。
「平原に魔物が出るようになった為、こちら側は現在通行禁止令が出ていてな……」
……え?
一拍遅れて、俺は言われたことを理解する。
「……はあ!?まさか、通れないのか?」
思わず大声で言うと、甲冑2人は慌てて手を振った。
「ああ、悪い、そうじゃあない。そっちから入るのは勿論かまわない。中から出ることに許可が必要なんだ。……ただ、魔物の情報が欲しくてな」
俺達は顔を見合わせた。
「……知りたいのは、赤い蛇の魔物のことか?」
顎髭を摩りながらグランが言う。
甲冑2人は、がちゃりと鎧を鳴らした。
「知っているのか!?」
「その前にひとつ、教えてくれ。俺達の前に、3人組は来たか?」
「……む……」
門番達は何かを思案するように、お互いを見遣る。
グランが、眉をひそめた。
「途中まで一緒にいたんだ。……そいつらを先に逃がすために、俺達は魔物と戦った」
俺が付け足すと、門番達は少し俯いた。
かちゃり、と、甲冑が鳴る。
「来たんだが……ひとり、子供が背負われていてな。……あまり良くないように見えた」
「…………」
アマルス達、ちゃんと辿り着いてたんだな。
皆とお互いに頷いてから、俺は言葉を続ける。
「そいつら、何処に行ったかわかるか?」
「ああ。この街には治療所があるから、そこに。ここを真っ直ぐで、突き当たりを左だ。看板がある」
それを聞いて、グランが言った。
「わかった。魔物の話は後でいいな?俺達はパーティー白薔薇。治療所で魔物の話ってのは気が引けるしな……またここに来るんでいいか」
彼等はそれを聞くと、すぐに頷いてくれた。
「我々はここ、ヤルヴィに常駐している帝国兵だ。もしここに私達が居なかったら、兵舎がある。アーマンを呼んでくれれば、私が行く」
「ありがとうございます」
ディティアが丁寧に頭を下げる。
それを見て、彼等は俺達を門の中に促しながら、ひと言、付け足した。
「……トレージャーハンターは、パーティーという言葉は基本的に使わない。この国には、アイシャを良く思わない奴等もいる。……気を付けて行くといい」
「あ……そう、なんですね。……わかりました、気を付けます」
「忠告、恩に着るわ。また後で必ず」
ディティアがしっかりと頷き、ファルーアが妖艶な笑みを溢すと、甲冑の兜の中で、彼等は表情を緩めただろうと思う。
俺達は、ヤルヴィと彼等が呼んだ街の中へと、漸く踏み入れたのだった。
******
街はかなりの賑わいを見せていた。
レンガ造りの街並みで、何処にこんなに人がいたのかってくらいたくさんの人がいる。
ここまで来る途中で誰ともすれ違わなかったから、不思議だったんだけど……まさか通行禁止になってたとは。
兎型の魔物、ガリラヤ狩りも、一時的に中断しているんだろう。
門から伸びていたのは広い通りで、左右には店がずらりと並んでいた。
装飾品、ドレスのような煌びやかな服、小さな鞄、帽子等々……どうやら、冒険者にとってはあまり立ち寄ることの無い類のものばかりだ。
そういえば、歩いてる人もトレージャーハンターっぽい服装はしてないな……。
通りもレンガを敷き詰めて造られていて、全体的に赤茶色が多い街並だった。
「あれが治療所のようね」
ファルーアが金色の髪を肩からはらって前を見る。
街並を眺めていた俺は、視線を移した。
「本当だ、看板があるよ。あれは……薬瓶かな」
入口の上に掲げられた看板には、薬瓶らしき画が描かれている。
ボーザックが言って、あふーっと大きな欠伸をした。
……早くアマルス達に会って、エニルの無事を確認したい。
それで安心したら、休もう……。
「行こう」
俺はそう言って、皆と一緒に診療所へと歩を進めたのだった。
******
診療所の中では、色々な人がごった返している。
普通の服の人、冒険してますって感じの服の人。
その中でアマルス達を探すけど、見付けられないでいた。
そこに、怒声が響き渡る。
「どうしてこんなになるまで放っておいた!!おい、手の空いたヒーラー達は俺を手伝え!!」
思わず首を竦めて振り返ると……そこには。
怒鳴られているアマルス達と、怒声を上げたらしき、つるつる頭のお兄さん?が……いた。
4日分です!
いつもありがとうございます。
寒くなるようですので皆様ご自愛くださいませ!




