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逆鱗のハルトⅡ  作者:
81/308

正義とは何です。⑥

ヤヌはアマルスの言葉に、嗚咽を漏らした。

「……どうして。こんなことに……」

握り締めた拳が震えている。


暗闇の中に、俺達の足音が溶けていく。


アマルスがそれを見て、項垂れた。


******


物心付いた頃には既に独りぼっちだった。

周りにいたのは似たような孤児ばかり。


両親?兄弟?そんなの俺には最初からいなかったように思う。


大きな街で、アマルスは大人から盗みを働いて生きていた。

勿論、失敗して捕まった事もある。

殴られ、蹴られ、顔が、手足が、ぱんぱんに腫れ上がった事もある。

赤紫になって熱を持った打撲に、呻きながら2日間転がっていたことも。


……けれど、アマルスは殺されることは無かった。

アマルスも、お金や食べ物を盗むことはしたが誰かを殺めることは無かった。


何故家族が居ないのか、何故自分がこんな生活をしているのか……気楽な顔をして、親に手を引かれて歩く同年代の子供を見ながら、いつもいつもいつも思う。


どうしてなんだ?と。


トールシャが広い広い大陸だと知ったのは何時だったか。

外に出れば、何かを変えることが出来るだろうか。


アマルスはトレージャーハンター協会に足を運んだ。

誰が造ったのかも全く知らないが、登録を行えば仕事が貰える場所。


対価は、生きて行くには少ないジール。

リスクを孕んだ仕事を考えると割に合わないけれど、こんな街で、独りぼっちで朽ちるなど、考えられなかったのだ。


アマルスは、トレージャーハンターになった。


…………

……


共に仕事をする仲間は、その時々で変わった。

アマルスが子供であることを理由に、分け前を減らそうとする輩も多かった。


そんな時、気が付く。


何故、多くジールを渡さなければならないんだ?と。

これは、正当な報酬なのに。


アマルスは生きるために学んだ『欺く』という方法で、自分の取り分を増やした。


ある時には、見付けた宝をこっそり盗み、隠した。

盗まれた男は仲間を疑うが、誰からも……勿論、アマルスからも宝を見付けることは出来ない。

途方に暮れる男とその仲間達と一緒に『励まし合いながら』仕事の完了報告をして、後に宝を換金した。


ある時には、魔物をわざと呼び込んで、その混乱に乗じて金を盗んだ。

『共に死線を越えた』仲間達は、そんなことも気付かずにまた会おうと言って去って行った。


……そんな時、間抜けそうな顔をしたヤヌと出会った。

簡単な内容だから、ふたりでの仕事。

にも関わらず、ヤヌはアマルスに心を開かない。


こっそりと舌打ちした。


拒絶されていちゃあ、『欺く』ことも出来ないからだ。



「なあお前、そんな顔してるといい運気が逃げちまうぞ」


「なあ、楽しくやろうぜ兄弟」


「なあ、ヤヌ」



話し掛けても話し掛けてもヤヌはアマルスを見なかった。

それでも、アマルスは声を掛けた。


意味が分からない。


こいつは、どうして俺を見ない?

俺は、どうしてこいつを構う?


「なあ、兄弟」

「いい加減、諦めてくれないか?俺に家族はいないんだ」


それは、突然。

拒絶は、初めてだった。

家族がいない男……ヤヌが、アマルスを見た。


「貴方はお節介なのか?気持ちが悪い」

本当に、気持ちが悪いと顔に書いてあるようだった。


その瞬間、アマルスは笑ってしまった。

心の底から、可笑しくて。


「俺からしたら、お前の方が気持ちが悪いね。家族がいないのは俺も一緒だってのに、お前、欺くことを知らないのか?」


ヤヌは眼を見開いて、口を半分開けっ放しで、言った。


「……欺くって、何を」


******


それからヤヌはアマルスと一緒に、生きるために『欺く』ことを学んだ。


それなりに自我が形成されてから孤児になったヤヌには、アマルスは眩しい。

家族がいなくなったのに、何故笑っているのだろうか。


俺もそうなれるのだろうか?


……夢を語れば、アマルスは膝を叩いて笑った。

「すげぇな!ヤヌ!お前には向いてる、こんなに飯が旨いんだからな」


ずっと見ていれば、わかる。

アマルスは、本気でヤヌを弟みたいに扱ってくれていた。


そして、アマルスの『欺く』ことには、決まり事がある。

人は殺めない。

……それが、自分が……自分達が殺されないための決まり事だったのである。


…………

……


それからしばらくして。


エニルを助けた時、アマルスも、ヤヌも、何故か思った。

此奴は、俺達といてはいけない。


……きっと、わかっていたんだ。


自分達の行いが、決して良いことではないと。


そこに、エニルを巻き込む訳にはいかない、と。


だからアマルスは見せた。

人を『欺く』ところを、エニルに。

こっちには、来るなと。


「これでも、一緒に来るか」


それなのに、エニルは眼に涙をいっぱい溜めながら、言い切ったのだ。


「一緒に連れて行って」


……アマルスはその日、エニルが寝入った後、肩を落としてヤヌに言った。


「すまねぇな……ヤヌ。本来なら、お前も……」

「馬鹿言うな、アマルス。俺は、自分でそうしたいから一緒にいるんだ」

「……そうか……そうだな。ありがとよ」


その時から、『欺く』ことを、止めようと決めたんだ。

けれど、今回……このガリラヤ狩りで……それは奇しくも訪れた。


倒れたガリラヤ。

血のような物が飛び散っていて、布っきれが落ちていた。


地面には大きな穴が開き、暗闇が満ちている。


「何だ、こりゃ……」

「ね、ねぇ、これ、何?血??」

エニルが怯えた様子で、そろそろと穴に近寄る。


「……誰も、いねぇな」

アマルスは、唸った。


目の前に倒れている、ガリラヤ。

ここには、誰もいない。


ガリラヤを狩ったはずの、人間も。


……ごくり、と。


アマルスは、咽を鳴らした。



27日分の投稿です。

遅くなりました、だいぶ!


よろしくお願いします!

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