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逆鱗のハルトⅡ  作者:
80/308

正義とは何です。⑤

******


両手に衝撃があって、俺は息を詰まらせた。


「…………そこまでだ」

「っ……!!」


ひと言で表すなら、影。

黒いローブに身を包み、口元まで引き上げられた布と目元を覆う仮面。


俺は黒鎧の男を狙って振り抜いた双剣が、そいつに受け止められたことに驚愕した。


こいつ……何処から来た!?


声からすると男。

その手には、双剣が握られている。


「遊んでる場合じゃない。『来るぞ』、ガルニア」

影のような男が、静かに言う。

「ここにか?……おいおい、邪魔ばかり入ってきやがる」


俺の剣はその影のような男に完全にいなされていた。


「……負け惜しみかよ」

それでも、俺は瞬時に殺気が消えた黒鎧の男に悪態をつく。


「あぁ?」

ギロリ、と上から睨まれるが、俺は歯を食いしばって睨み返す。

切り払われたエニルの姿が、はっきりと浮かんだ。

……許せるはずがない。


「やめろ、ガルニア。……君も今は剣を引け。今からもっとデカいのが『来る』ぞ」

仮面を向けて、俺を見る影のような男。


「ちっ……わかったよスレイ。……おい、大盾」

ガルニアと呼ばれた男が、構えたままのボーザックや俺には目もくれずに、さっと剣を引き、グランに向き直る。

「勝負は後だ。その首、洗って待ってろ」

「……あぁ?何でだよ、嫌に決まってるだろ」

グランは眼を細め、眉間にしわを寄せた。


「……もう!よくわからないけど後にしましょう!!何か来ます!!ファルーア!アマルスさん達を連れて少し離れて!」

ディティアが暗闇に視線を走らせながら叫ぶ。


「ハルト」

「わかってる」

ボーザックが右手で俺の肩を握り、俺はゆっくりと双剣を引いた。

俺達は、男達から慎重に離れる。


その時だ。

茂みから、黒ローブがもう1人飛び出してきた!

「…………下だ!……肉体強化!肉体強化!」

……っ!

あの女……!!


女は大声を上げながら、ガルニアと呼ばれた黒鎧の男と、スレイと呼ばれた影のような男にそれぞれバフをかける。

……広げて同時にかけることは出来ないのだとわかった。


「気張れよ野郎共!狩りの始まりだ!!」

その号令と共に、俺達の間、地面から凄まじい勢いで何かが飛び出してくる。

俺は思わず、腰を落として双剣を構え直した。




ドゴアァァッ!!




バラバラと小石や砂が降り注ぐ。

凄まじい音を立てて飛び出した『そいつ』に、グランとディティアがすぐ俺とボーザックの傍まで駆け寄ってくる。


「……大蛇……!?」

ボーザックが息を呑む。


そう。

それは、巨大な鎌首をもたげ、ちろちろと舌を出し入れしながら俺達を見下ろす、真っ赤な蛇型の魔物だったのである。


太さはグランと同じくらいはありそうだ。

長さは……地表に出てる部分だけでは予想できなかった。


地面の中に潜って移動する奴なのかもしれない。

だから、ボーザックが『変な感じ』と言っていたんだろう。

こいつが現れて、ガリラヤが平原に移ったんだ。


「さて、乗り掛かった船とやらだ。一緒に狩るか?……終わった後なら、話を聞いてやる」

影のような男が、全く表情の見えない仮面をこちらに向けてくる。


「……グラン、どうする」

魔物と男達を見ながら、俺はグランに聞いた。

グランは大盾を構えたまま、唸る。

「俺達にはエニルがいる……時間を取られるのは恐らく致命的だろうよ」


それが聞こえたのか、何なのか。

黒ローブの女が、吐き捨てた。


「邪魔だね、さっさと消えな」


「……っ!」

思わず言い返そうとした俺を、グランが止める。


……そして、ひと言。

「お前らの正義は、何だ」

低い声で、問う。


それを聞いて、女が口元を緩ませた。

フードを被っているので、それ以上は隠れて見えない。


「それは、お前達にそのまま返してやるよ」

「…………」


……グランは、無言で踵を返した。

「ちょ、グラン!?」

「行くぞ」

「え、い、いいんですか!?」

慌てるボーザックとディティアに、グランは言い切った。


「大丈夫だ、放っておけ」


******


真っ暗な山道を歩くことになってしまった。


離れていたファルーアは、俺達が魔物を放置してきたのを見て怪訝な顔をしたけど、グランが何か言うと頷いて、炎の球を浮かべる。


ボーザックが先頭、その後ろにヤヌとアマルス。

ディティアとファルーアが続き、俺、グランで夜道を進む。


後方の戦闘の音はやがて聞こえなくなった。


「……」

エニルを背負うヤヌは、青い顔で無言。

アマルスに至っては口を引き結んで何かを考え込んだまま。

……グランがガルニアって奴に問い掛けたのを、アマルス達は聞いているはずだ。

裏ハンターか?と。

自分達が疑われているかもしれないことに気付いているだろう。


俺は、全員に五感アップと脚力アップを重ねていた。

もう隠す必要は無かったし、何より、あの女の言葉が気になっていたからだ。


『お前らの正義は、何だ』

『それは、お前達にそのまま返してやるよ』


あれはどういう意味だろう。

俺達の正義って?


そう思うほど、アマルス達の様子も気になってしまう。


「……グラン」

俺は、殿のグランに声を掛けた。

グランは髭を擦って、ため息をつく。


「アマルス、ヤヌ。聞かせてくれ。お前達に、襲われる理由はあったのか?」

先頭を歩くボーザックは、聞こえているはずだけど振り返らない。


「……アマルス」

ヤヌが、声を絞り出す。

アマルスは、しばらく間を置いてから、ぽつりと言った。


「無い……殺される理由なんて、俺達には……無いよ、そうだろ……?」


本日分の投稿です!

よろしくお願いします。

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