正義とは何です。④
身体中の血が、かっと熱くなったような気がした。
……俺は、ボーザックに五感アップがかかったままであることに気付く。
研ぎ澄まされた感覚で、左腕はかなりの激痛だったはずだ。
……不甲斐なかった。
同時に、何かが、俺の中で燃え上がる。
「……肉体強化」
バフを、広げた。
「肉体強化、肉体硬化」
ボーザックは治癒活性と合わせて4重、グラン、俺、アマルスとヤヌには3重。
「速度アップ」
ディティアは肉体強化をひとつ速度アップにした3重にする。
「威力アップ、肉体硬化、反応速度アップ」
ファルーアにもバフを投げて、俺も腰を落とし、双剣を構えた。
彼奴は、危険だ。
それを見た黒鎧の男は、眉をひそめる。
グランが、白薔薇の大盾を構えたまま、ゆっくりと口を開いた。
「……答えろ。お前達は、何者だ?残りの2人はどうした」
「ふん、答えてやる必要もねぇだろう?…………俺を楽しませろ!!」
「……ッ!!」
ガゴオオオッ!!
グランの大盾に、黒鎧の男の大剣がぶつかる。
「おおおっらあ!!」
グランがその大剣を弾き上げ、そのまま殴り付ける。
直ぐさま引き戻された大剣でガードし、男はその勢いを利用して間合いを取った。
「ひ……ああ……」
それを見て腰を抜かしたのか、アマルスがへたり込む。
ヤヌは辛うじて盾を構え、震えていた。
「しっかりなさいアマルス。……ヤヌ、エニルを背負っていて。……最悪、貴方達を逃がすことくらいは何とかするわ」
「ガオウッ」
ファルーアとフェンが空洞の入口で構えてくれる。
……後ろは大丈夫だ。
俺はファルーアに頷いて、前を向く。
「は、ハハハァッ!そりゃあ何だ!バフが重ねられるのか!?それだけじゃねぇ、その盾は何だ?堅ぇじゃねぇか!!」
眼を見開き、男の口から笑いが漏れる。
心底面白い、楽しいとでも言いたげな口調に、俺の怒りはさらに燃え上がる。
「ハルト、ティア」
その時、ボーザックが小さく囁いた。
「どうした」
「はい」
応えると、ボーザックは前を見据えたまま、続ける。
「彼奴の気配じゃない、何か変なのが別にあったんだ。……もしかしたらあとの2人はそっちを追ってるのかもしれない」
「……それなら、私達であの人を止められれば……」
「アマルス達は逃がせる、ってことだな」
ボーザックは頷くと、左腕をゆっくり持ち上げて、大剣に添えた。
「まだ無理するなよ?俺のバフ……そこまで万能じゃないからな、ボーザック」
思わず眉をひそめると、ボーザックは口元ににやりと笑みを浮かべる。
「平気、無理はしないよ。カバーしてくれるんでしょ、逆鱗のハルト?」
「……言ってくれるな。……任せろ、不屈のボーザック」
俺達は、そっと拳を突き合わせた。
「なら、先陣は私が行きます」
疾風のディティアはそこに自分の拳を割り込ませ、さらりと言うと、再びぶつかるグランと男を見据えた。
俺とボーザックは顔を見合わせて、苦笑する。
格好良く決めてるっていうのに、流石と言うか何と言うか。
悔しいけど、ディティアの方が余程格好良かった。
******
「ハハハァッ!いいぞ、中々やるな大盾!」
「うるっせぇんだよ!……さっさと聞かせろ!戦う意味がねぇかもしれねぇだろ!?……っらあ!!」
ガキィンッ!!
ギシギシと鬩ぎ合う、力。
盾越しに男を睨む。
男は、大剣越しにこちらを値踏みしているようだった。
……まるで、猛獣。
こいつは、命のやり取りに躊躇いが無い。
さっさと宥めねぇとヤバイかもしれねぇな。
グランは歯を食いしばり、鼻を鳴らした。
「おい、答えろ……お前達はっ……裏ハンター、かっ!?それとも……ただの……!」
言いながら足を踏ん張る。
バフがかかった身体は、人ひとりの力になど押し負けるはずがない。
グランは、そう信じていた。
言ってもわからねぇなら、まずはねじ伏せるしかなさそうだ!
……しかし、その瞬間。
「ちっ……!」
男は舌打ちすると後ろに跳んだ。
盾を振り抜いたが、空を切る。
同時に、グランの横を一陣の風が吹き抜けた。
「はあぁっ!!」
「くそっ、邪魔するな小娘!!」
疾風のディティアだ。
彼女は臆することなく、黒鎧の男に肉迫すると、踊るような剣戟を繰り出す。
「この!……!?」
「……ティアだけにかまけてると後悔するよ!」
ガキイッ!!
ディティアがくるりと後方に下がる。
横薙ぎに振られた大剣を、入れ替わりに飛び出したボーザックが大剣で受け止めた。
「ハルト!!」
ボーザックが呼ぶ。
「おおおっ!!」
その大剣の死角。
隠れるように身を低くしていたハルトが踏み切る。
「……お前がっ……誰でも!!俺は!!」
双剣が、男の脇腹へと振り抜かれる。
入りが少し甘いのは、恐らく致命傷になるのを避けているからだ。
グランはそれを読み取って、見届けることを選んだ。
「あんなっ……行いは……!!許せないんだよ―――ッ!!」
「ちぃっ……!」
「言い訳は後で聞いてあげるよ」
剣を引こうとする男を、ボーザックが更に間合いを詰めて阻止する。
……仕留めた……!!
グランは、頼もしい仲間に息を呑んだ。
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