珍しい魔物です。④
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夜は、昼にも出た平たく焼かれた丸パンのようなものと、肉、それから砂牛の乳で作ったというスープだった。
このパンみたいなのは、昼間、シャーラさんが捏ねていたやつだと言う。
薄いのにもっちりした食感で、芳ばしい。
肉を挟んでも良し、スープに浸しても良しで、やっぱり旨かった。
「それで、明日には立とうと思う」
グランは出された酒をひとくち飲むと、切り出す。
一緒に食べていたナーラさん、シャーラさんは驚いたようだ。
「え?もう立つのかい?ゆっくりしてもいいんだよ」
「そうよ。貴方達が見付けた遺跡の話も聞きたいのに」
有り難い言葉だけど、宿だけじゃなく、こうやって俺達の食事まで提供してくれる好意に、いつまでも甘えるわけにもいかないし。
何より、爆風のガイルディアを早く追い掛けないとな。
「遺跡の話なら、俺とティアでするよ。グランとハルトが流砂みたいなのに沈むところから、どれだけ心配したかも交えてね!」
ボーザックが言うと、ディティアがお酒を飲もうとした手を止めて、眼を見開いた。
「ええっ!?わ、私はそんな。……ファルーアもいたし……」
「私はお話はそんなに上手くないわね。見ててあげるわ」
ふふっと笑みを溢されて、ディティアが眉をハの字にする。
「……それから、俺達が砂漠の街ザングリで受け取り損ねた固定報酬なんだけどさ、この村で使ってほしいんだ。ゴードとアーラにもたくさん助けてもらったから」
俺がそう言うと、ナーラさんが咽せてしまった。
「んぐっ、ごほごほ、いやいや、逆鱗のハルト君、それは……」
「あははっ、そこでハルトの2つ名付けちゃう?……あいてっ」
左隣のボーザックが笑ったので、肩に1発かましてやる。
「宿の御礼と、ゴードとアーラ、それからサルーヤ達にも世話になったからな、俺達から出来ることは少ねぇが、これくらいはさせてくれ」
「欲の無い人達ねぇ……さあさ、飲んでくださいな」
そう言ってグランが乾かした杯に、シャーラさんがどぼどぼと酒を足す。
「……ありがとう、白薔薇の皆さん。流石、ナーガの仕える人の友人達だ。それじゃあせめて、今夜は楽しんでいってね」
……決して友人ではない け ど な!!
俺は言葉を酒と一緒に呑み込んだ。
その夜は、遺跡発見の話に花が咲いたのだった。
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朝。
砂漠の向こうから昇ってきた太陽が、建物に陰を生み出そうとする頃。
俺達は準備を終えてダルマニを立った。
村外れ……と言ってもそこまで距離は無いんだけど、サルーヤさん達ベテランパーティーとナーラさん、シャーラさんが見送りに来てくれたんだ。
「気を付けて!」
手を振るナーラさんに、俺達も手を振り返し、北西へと進路を取る。
砂漠はダルマニを境にして終わり、乾いた地面の割れ目から茶色っぽい草がちょこちょこと生えた荒野を歩く旅だ。
「何か、地面らしい地面って久しぶりだ」
ボーザックがぴょんぴょんと跳ねる。
砂漠じゃないってだけで、気温の上がり方も緩やかな気がした。
もう白ローブは要らないらしいから、俺達はダルマニにそれを置いてきていた。
空気も、砂漠ほど乾いてない気がするんだよな。
「砂に比べたらかなり歩きやすいわね」
ファルーアも言いながら、杖の先で地面を突いている。
「明日には山脈の麓まで行くぞ。山越えの前にしっかり休む」
『おー』
グランに言われ、俺達は返事をする。
霞む荒野の先に、まだ山脈は見えない。
見通しは悪くないんで、俺はバフはかけずに進むことにした。
「そういえば、私達だけで旅するのも久しぶりだね」
ふと、ディティアが口にする。
再会した頃と同じくらいの長さになった濃茶の髪が、歩く動作に合わせてふわふわしていた。
「そういやそうだな」
「あおん」
グランとフェンが応えると、先頭のボーザックが笑う。
「あははっ、久しぶりだけどしっくりきすぎて気付かなかったー!」
「そうね、確かに」
ファルーアも笑う。
俺はそれを眺めながら、ちょっとだけほっとしていた。
……意外と、砂漠で「死ぬんだ」と感じたことが尾を引いてるっていうか。
ふと、思い出すっていうか。
たぶん、グランもそうなんじゃないか?
そう思ったら、グランが振り返った。
「……何だハルト、変な顔してるぞ」
「はっ?……変な顔って何だよ」
「お前が今してる顔だよ」
「…………」
全然感じてないのかなグランの奴。
思わず眉をひそめると、紅髪紅眼の厳つい大盾使いはにやりと笑った。
「安心しろ、たぶん同じだ」
「……!な、何だよ、性格悪いなぁ!」
「えー、何ー?何の話ー?」
ボーザックに、俺は応えた。
「何でもない!……そういやガリラヤっていう兎型の魔物、どれ位大きいんだろうな?」
無理矢理話を変えると、ファルーアが反応してくれる。
「ナーラさんに聞いておいたわ、ボーザックの半分くらいらしいわね」
「でかいな!」
思わず突っ込むと、ボーザックはフェンを見ながら唸った。
「でも、そしたらフェンの方が大きそうだね」
確かに、美しい毛並みの銀狼は、今やかなり大型になっている。
「わふ?」
不思議そうな顔で鳴くフェンに、グランが心配そうな顔をした。
「…………フェンの毛皮の方がよっぽど高級だろうな」
俺達は顔を見合わせて、フェンに言い聞かせた。
「フェン、俺達からあんまり離れちゃ駄目だぞ?いいな?」
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