嘘みたいな本当です。⑤
******
その後、助けた6人と合流してから俺達は1度砂漠の街ザングリへと戻った。
ボーザックが斬り飛ばしたダハルイータの脚は持ち帰ることになり、恐らくは過去最大の大蜘蛛として語られることになるとアーラが言う。
その脚を見てボーザックは嫌そうな顔だし、ディティアは近付かないし……結局アーラが持っていったんだけどな。
助けた6人はオアシスへと向かった4組の内の2、3組目。
本来は合計13人居たそうだけど、最初の流砂でやられたり、落ちた後にダハルイータにやられたりして結局6人しか残らなかったそうだ。
憔悴しきった顔は、受けた衝撃の酷さを物語っている。
彼等は、助かったにもかかわらず惨事を思い出しては飛び起きたりして、休めていなかった。
そんな疲れた状態で砂漠を歩かせるのは難しく、彼等の希望で精神安定バフを付加した程だ。
それから、恐らく、1組目は流砂でやられていると言う。
2組目のパーティーが、俺達とは別の場所で、流砂と荷物を見付けたらしい。
後は4組目だけど、実は俺達が戻るのと時を同じくして、水瓶を背負ってザングリに戻ってきた。
この人達はベテランパーティーで、流砂に気付き東回りでぐるりと迂回してオアシスへと辿り着き、同じ道で帰ってきたそうだ。
「……今回は本当に、何と言ったらいいか……」
アーラの兄、ゴードは報告を聞くと唸った。
「古代都市遺跡、流砂、崩落……恐らくは地盤が緩んできていて、そこから大規模な地殻変動があったのでしょうね……」
肩を落とす兄を見て、アーラはどう思っただろう。
グランが見かねて、アーラの頭をわしわしと撫でた。
それは、俺達白薔薇の総意でもあると、俺は思う。
「ゴード。アーラは良くやってくれた。俺達が生きてるのはこいつの機転のおかげだ。とりあえず労ってやってくれねぇか」
「……!厳ついお兄さん、それは別にあたしのおかげじゃないんだけど……んむ」
その口元に人指し指を添えて、ファルーアが首を振った。
「胸を張りなさい、アーラ。ねぇゴード。貴方の妹はそんな絶望的な場所で私達を助けてくれたわ。1番背負ったのは彼女よ?何かあるわよね?」
有無を言わさない、ファルーアの言葉。
ゴードは眼を見開いて、腹に巻いた布をぎゅっと掴んだ。
それは、アーラの上半身に掛かる布と同じ模様のもの。
ぱっちりした黒眼に困惑の色を浮かべるアーラの背を、ファルーアはそっと押した。
「……アーラ。ごめんな、俺を許してくれるか。まずは仕事、本当に感謝する。彼等を連れ帰ってくれて、俺は嬉しい」
ゴードは、深々と頭を下げる。
それは、心からの謝辞。
心からの、評価だ。
アーラは、息を止めて、それを見ていた。
「……アーラ」
ファルーアが、そっと声を掛ける。
「あ……ええと……や、やだなぁ、ゴード兄!そんな、大袈裟な……」
そう言った小さな少女の眼から、こぼれ落ちる光。
俺達は、戻った人々でさえ、思わず微笑んだくらいだ。
「……砂漠は、残酷だ。それをお前だけに背負わせて悪かった」
ゴードはそんなアーラの肩を、そっと抱いたのだった。
******
翌日、新しい遺跡調査のためにトレージャーハンターの募集が開始された。
とは言え、トレージャーハンター協会のザングリ支部を訪れる者はそう多くない。
誘われたけど、俺達はそれを断ることにした。
同じく旅を続けるという砂漠に慣れたパーティーがいたので、同行させてもらうのだ。
「俺達は、これから爆風のガイルディアを追い掛けないとならないからな」
俺が言うと、ディティアが首を竦めた。
「えっ、でも、それは……」
「あははっ、いいんだよティア!俺も会ってみたいんだよね」
ボーザックが、慌てる彼女をフォローしてくれる。
俺もグランも、眼を合わせて頷く。
「ふふ、本当に仲良しだよね、白薔薇は!……大丈夫、ここは任せて。あたしも一緒に頑張ることにしたから。こんな嘘みたいな本当の話を見せられたんだもん、もしかしたら、まだ救える命があるのかもしれないって、あたし、思えるようになったんだ……!」
それを、アーラが笑って見送ってくれた。
握った彼女の手は、小さくて柔らかい。
けれど、とても強く握り返されて、俺は思わず微笑んだ。
…………
……
俺達はこれから、オアシスからさらに北、ゴードとアーラの故郷であるダルマニという村を経由して、そこからさらにカーマンって街に行く。
これは、爆風のガイルディアと同じ道程のはずだ。
彼の足取りはこの先聞いていくとして、俺達はまず奇蹟の船ジャンバックへと向かう。
今度こそ、暫く会うことも無いはずだからな。
「よお!」
「あ!白薔薇じゃないっすか!まだいたんすね!」
声を掛けたグランに応えたのは、ジャンバックの副船長、笛吹のカタール。
グランよりもさらに大きい男は、2つの木箱を軽々と両肩に載せて運んでいるところだ。
晴れた空から刺すような強さで降り注ぐ日の光に、白いローブを被って対抗する俺達とは反対に、彼はタンクトップで黒く焼けた肌を曝していた。
俺達は旅立つことを話し、改めて礼を告げる。
カタールは慌てて船長と船医を呼びに行こうとしたけど、俺達が断った。
「また、話す機会があるだろうよ」
グランが言うと、カタールは肩を竦める。
「全く……皆さんは冒険を楽観視しすぎっすよ。……どうか、気を付けて」
俺達は彼と、気がついてくれた何人かの船員に、大きく手を振った。
本日分の投稿です。
21時から24時を目安に毎日更新しています!
よろしくお願いします。




