過去の栄光です。⑧
ハルト達が砂に呑み込まれ、我に返ったボーザック。
その言葉を受けて、ファルーアはアーラに砂漠の地下に空洞が無いかと問い掛けた。
……アーラはその問いに思わず立ち上がった。
休もうと思ってフェンリルの背を借りていたものの、落ち着かないのだ。
ウロウロしながら少し考えて、思い至る。
遠い過去。
まだ、ここがこんなに大きな砂漠じゃなかった時代があったという。
その頃、砂漠の下には大きな街があって、王様がいたそうだ。
つまり……国だったということ。
その国の民は色白で黒髪に黒眼……アーラやアーラの兄であるゴードと同じ容姿。
つまり、アーラ達の祖先だったらしい。
今は砂漠に『呑み込まれてしまった』という国。
アーラ達の遠い故郷が、砂漠の何処かに今も埋もれている……。
そんな風に祖母が語ってくれた夢物語があった。
実はあれこそが、真実だとしたら。
もしかしたら、そこが空洞になっているのではないだろうか?
「……過去の栄光が、砂漠にあるって言われてるんだよね」
アーラは、どきどきする胸を押さえて、言葉を紡いだ。
「過去、この砂漠の下にはあたし達の祖先が暮らしていたっていう国があって……そこは砂漠に呑み込まれて滅びたんだって話があるの」
「……つまり、この下って可能性はあるわね?」
ファルーアが冷静に返すと、アーラは暗い空の下、足元に白っぽく浮き上がって見える砂を少し蹴った。
「……そう……だね。……確かに、この辺で昔の食器が掘り出されたりしたことがあるし……」
けれど、それは砂漠で亡くなった者達の遺物かもしれない。
アーラはその言葉を呑み込んだ。
ファルーアは一瞬眉を寄せたけど、すぐに気持ちを切り替えたようだ。
「そうと決まったらアーラ、その街には入口があったはずよね?心当たりはあるかしら?」
「入口……?ええと、ええと……流石にそこまでは……」
「珍しい物が目印になるとかないかな?……目立った地形とかはない?」
ちゃんと食べなくちゃならないから、と、料理を始めたディティアが会話を挟む。
アーラはそれを聞いて、はっと顔を上げた。
「ある……物見岩!」
「ものみ、いわ?」
そこで大剣を研きながらボーザックが繰り返す。
彼がそうしているのは、いつでも、ふたりのために剣を振るえるようにしておきたいからだった。
「そう。魔力を込めると光る岩が、どーんと立ってるの」
興奮で、息が荒くなる。
アーラは拳を握り締め、爪が食い込んで傷になった場所がじくりと痛むのを感じた。
……もしかしたら。
あのふたりを助けることが出来るのではないだろうか、と。
期待は高まるばかりで、手のひらの痛みはこれが夢ではないことを証明してくれているようだった。
******
そうして。
食事を済ませ、物見岩へと移動した頃には、夜はとっぷり更けていた。
突き立つ岩はディティア2人分くらいの高さがあって、ファルーアが少し触れて魔力を注ぐと、一部がぼんやりと蒼く光る。
それは、魔力供給をやめるとゆっくりと消えていった。
確かに、これなら目印になるだろう。
もし予想が正しかったなら、入口はこの辺りに埋まっているはず。
だから、まずはファルーアの魔法で砂を掘らなくてはならない。
ボーザックは、すぐにでも動きたいのを堪え、判断を下す。
「今からやっても、暗いから警戒が難しいと思うんだ。それに、俺達も少し休まないと。……ファルーア、頑張ってもらうことになるから、見張り番は回さないからね。その代わり、しっかり休んで。ティア、フェン……一緒にお願い出来る?」
「任せて。ありがとうボーザック……さすが、頼りになるね!……ファルーア、私もちゃんと警戒頑張るから……お願いします」
「もちろんよ、任せて」
「がうっ!」
それを聞いていたアーラは、心からすごいと思っていた。
不安でも、恐くても、彼等はちゃんと自分達のことをわかっている。
何より、仲間を助けようと必死に行動する様は、裏ハンターに恥じないものであることが重く伝わってきていた。
……ゴード兄も、誰かのためにここまでするのかもしれない。
そう思ったら、自分が、少しだけ恥ずかしいような気がした。
******
「それでさ、何回も何回も魔法を撃って、この扉を掘り出したんだ。この扉、魔力を注いだら開く仕組みだって、開ける前にファルーアが言ってた。アーラの祖先達は、きっとメイジだったんだね」
ボーザックは俺達が落ちた後の話をしてくれて、扉をゴツンと叩く。
しかし。
その言葉に俺とグランは顔を見合わせた。
「何だと……」
グランが呻く。
俺達の5重バフは何だったんだよ……。
そんな俺達を見て、銀色に光るボーザックは笑った。
「で?ふたりはここ、5重のバフでどうしてたんだって?」
「うるさいぞー」
俺が応えると、彼はますます破顔する。
グランはそんなボーザックに、声を掛けた。
「……ったく、骨折り損の何とやらだぜ。そしたらお前も過去の栄光とやらを見て来いよ。あと、出て壁伝いに右に行くと、横穴が2つある。奥の横穴に入って行くとその先に俺等の荷物があるから取ってきてくれ」
落ち着いたのか、ボーザックは頷いて立ち上がった。
「うん、わかった。……本当、早く動けるようになってくれないと困るよねー」
俺達を見下ろしてにやりとした大剣使いに、俺達は眼を逸らす。
「耳が痛ぇ……」
「はあ……そしたらちょっと寝ようぜグラン。早く回復するかも」
「あははっ、じゃあおやすみ!行ってくる!」
銀色の光が細い道の奥へと遠ざかり、見えなくなる。
俺達は真っ暗な中、仕方ないので本当に寝ることにしたのだった。
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