海は広いです。⑤
その後も色んな露店で話したんだけど、収穫無し。
結構常連らしき商人がいるのに、奇蹟の船ジャンバックは謎に包まれたまま。
船員に聞くのは怪しまれるか?って考えだったけど、ここまで情報が無いとは思わなかった。
海の生物についても、この船くらいだと、やれでっかいタコだとか海龍だとか、よくある話しか聞けなかったし。
……まあ、どっちの魔物であっても、生きた心地はしないわけで。
結局、菓子白薔薇を勧めてナンデスカットに貢献しただけ。
ノクティアのアナスタ王宛に王家の印を押した手紙を書いて、菓子白薔薇の値引頼む!とお願いをするだけなんだけどさ。
そもそも値引の許可なんてとってないけどな。
「駄目だな……」
グランが髭を擦りながらぼやく。
どうでもいいけど、超高級髭剃りセットを手に入れたグランは、毎日念入りに手入れをしている。
その甲斐あってか、顎髭は前よりもさらに綺麗に切り揃っている気がした。
「襲われたことも無いみたいだし、本当に大丈夫なのかなあ」
ボーザックがトントン、と、つま先で床を叩く。
俺達の足元よりさらに下、深く潜った場所には変わらず巨大な気配があるものの、どうしようもない。
「あと20日近くあるのに、呑気にもしてられないわよ」
ファルーアはくるりと龍眼の結晶の杖を回す。
太陽は傾き始めたところ。
もし、夜に活発化する魔物だとしたら……と思うと、ぞっとする。
「仕方ないですし、もう船員さんに当たってみましょうか」
ディティアも足元に視線を落としていて、不安そうだ。
「それなら、笛吹のカタールがいいんじゃないかな」
「笛吹のカタール?」
ボーザックに聞き返すと、彼はうんうんと頷いた。
「毎晩、船首で笛を吹いてる陽気な船員でねー、おしゃべりそうだから何か聞けるかも。結構仲良くなってるしね」
「そっか、ボーザック甲板のお仕事手伝ってたもんね」
ディティアに笑い返して、ボーザックは船内に向かって歩き出した。
「この時間なら、たぶん休憩してるんじゃないかなー。ねえハルト。俺、そろそろ酔い止めのバフが欲しいんだけど」
「酔い止めじゃないって……精神安定!」
俺はちょっと憤慨しながら、ボーザックにバフを投げてやるのだった。
…………
……
商人や冒険者達が泊まる部屋がある階より、さらに下の階に船員達の部屋がある。
ボーザックはすいすいと進んでいき、時折すれ違う船員達から気さくに声を掛けられていた。
「お前……ほんとすごいな」
「うん?何が?」
「人見知りとはかけ離れたところにいるわよね」
思わずこぼした俺に、ファルーアが呆れた声で同意してくれる。
ボーザックは笑って、そうかも、と答えた。
そんな感じで何人目かの船員とすれ違った時、笛吹のカタールがいる場所を教えてもらえた。
……医務室である。
医務室は誰でも利用出来るけど、船員が行くのは珍しいそうだ。
多少の怪我や病気くらいなら自分達で何とかする。
つまり……何かあったんだろう。
すぐに医務室に移動すると、並べられたベッドのひとつに寝かされたでかい男が眼に入った。
意識は無さそうだ。
まさかとは思うけど……?
「彼が笛吹のカタール」
ボーザックが言う。
うわあ、やっぱりか。
……笛吹のカタールなんて言うから、もう少しひょろっこいのを想像してたんだけどなぁ。
皆を見ると、ボーザック以外は神妙な顔をしていた。
うん、やっぱりそうなるよな。
ベッドから足の先がはみ出ているのを見るに、グランよりでかいかもしれない。
「今日は慌ただしいね。次は誰だい?」
そんな空気の中、医務室の奥から出てきたのは白髪を高い位置できつく縛ったばあちゃ……ご年配の女性だった。
「先生、カタールが医務室に居るって聞いて来たんだけど、どうしたの?大丈夫なの?」
「おや、ボーザックかい」
って、ボーザックお前船医とも知り合いかよ!
内心突っ込みつつ、黙っておく。
ファルーアの冷たい視線を感じるのだ。
(余計なこと言うんじゃないわよ?)
ファルーアの視線が声となって聞こえてくる気がする。
「平気だよ、カタールは……どうも薬を飲んだみたいでね。船長が訪ねた時には床に突っ伏してたらしいよ」
「薬って……っていうか船長が見付けたの?」
「そうさ。あたしの見立てではあと1日は起きないね。死にゃあしないさ、ただの眠り薬だ」
「ただのって……船員が眠っちゃ困るだろうに」
グランが思わずといった様子で口にすると、船医は豪快に笑った。
「はっはぁ!全員が1日眠っても困るのは食事係がいないことくらいさ!なんたって奇蹟の船だからねぇ!」
「……それでも遅れないのか?」
訝しげに、グランが聞き返す。
「勿論さ。なんたって守護神がついてる」
俺達は、顔を見合わせた。
「あれ?婆ちゃんはもしかして、この船に詳しかったりする?」
「誰が婆ちゃんだ!」
俺が問いかけると、瞬時に返される。
ついでに、ファルーアから足を踏まれた。
ヒールは痛い。
本当に痛い。
「……っ!!す、すみません、つい」
「婆さんなのは事実だけどせめてお婆さんと呼びな!!」
「えっ、そういうもの?」
船医のお婆さんはふんと鼻を鳴らして、話してくれた。
「ジャンバックには守護神がついてる。船員は皆知ってるよ。……船長以外はね」
グランは唸ると、俺達に頷いた。
俺達も頷き返す。
この人なら、教えてくれるかもしれない。
まあそもそも船員に聞けば良かったのかもしれないんだけどさ。
「実はな、俺達は船のことを調べてた。……船の下に船よりでけぇ何かがいる。魔物に襲われねぇ保証が欲しい」
それを聞いた瞬間、船医のばあちゃ……お婆さんは、ギラリ、と眼を光らせた。
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