砂の海は初めてです。④
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男の名前はゴード。
彼は「すんませんっした、俺、小さいんで舐められないように最初は偉そうに行くことにしてます!」と、もう一度頭を下げた。
……うん、逆効果な気もするんだけど……。
ディティアと眼が合うと、あははと苦笑している。
皆も似たようなことを思ってるかもしれない。
ゴードは、妹のアーラと2人でこのザングリ支部を任されているそうだ。
ゴードは裏ハンターで、余程小さな支部でなければ1人は必ず裏ハンターが職員として配属されていると教えてくれた。
どうやって他の裏ハンターを見分けるのか聞いたら、斡旋の時に自分達で名乗るんですよと言われた。
なので、名乗らなければ裏ハンターの仕事が回ってくることも無いらしい。
……そりゃそうだよな。
何だか拍子抜けした気もするけど、当然だろう。
ゴードはついでに「皆さんは臭かったからわかりました」と余計な事を言って、ファルーアとディティアから冷たい空気が滲んだ。
砂漠に面した街はいくつかあるけれど、このザングリはその中でも1番小さいと言う。
ただし、海にも面しているのは、ここだけ。
そのため、貿易の拠点となっているらしい。
まだ砂漠は見ていないけど、この街を出てすぐ眼前に広がっているそうだ。
砂牛と呼ばれる家畜を使って、荷物を運びながら砂漠を越えることを生業にしている人達も多いとのこと。
「ジャンバックが運んでくる商品の中には、真水もあります。ザングリでは井戸が無いので、水は本当に貴重です。普段はメイジに仕事として水を作ってもらったりもしています」
「そんな仕事があるの?……メイジだったら簡単に稼げちゃうってこと?」
ボーザックが思わずと言った感じでファルーアを見た。
すると、彼女は首を振る。
「一瞬なら出来るけれど、それ程の水を作るにはかなり魔力も必要よ。簡単な仕事ではないわ」
「その通りです。……で、残りは砂漠のオアシスまで汲みに行くんですが……」
ゴードはそこまで言って、項垂れた。
「……戻らないんですよ、仕事を斡旋したトレージャーハンター達が」
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詳しい話はこう。
砂漠では宝とも言える真水は、海路以外ではメイジに頼むか、砂漠を越えてオアシスに汲みに行くしかない。
ザングリではトレージャーハンターへの仕事としてこの水汲みがある。
トレージャーハンター達は戦闘専門と探索専門の混合チームを組んで、大きな水瓶を背負い、10日ほどかけてオアシスへと向かうんだけど、今回、数日おきに4組が出発したにも関わらず、ひと月しても誰ひとり戻ってこないらしい。
4組の内2組は何度も水汲みをしたことがあるベテラン達のため、誰も帰ってこないのはまず有り得ないんだそうだ。
何かあったんだろうというのがゴードの見解だった。
とは言え、独りで砂漠に出るわけにも行かず、有志を募るために町中を走り回ったが収穫ゼロ。
仕方なく支部に戻ってきたところで、俺達に出会したって流れだ。
「考えられるのは流砂が起こったか、魔物が出たかです」
「流砂?」
聞き返すと、ゴードは深々と頷いた。
「原因はよく分かってないですが、砂漠の一部が海や河みたいになるんですよ。沈んでしまったら最後は見付けてすらもらえません」
「さ……砂漠ってそんなに恐いところなんですか……?」
ディティアが不安そうな顔をする。
「大丈夫です。僕やベテラン達は見分けがつきますし……慌てなければ助けられます」
「へえ、でも海みたいってことは泳いだりして対応出来るのか?」
言ったら、ファルーアが眉をひそめた。
グランも髭を擦りながら眼を閉じて、眉間にしわを寄せている。
「水じゃなくて砂よ?きっとそこまで填まったら動けないわ」
「その通りです。……ただ、それを助けるために、大量の水を注ぐと水溜まりのようになって抜け出せるとか。その方法は試せたことはないんですけど」
ゴードはそう言って、持ってきた地図を広げる。
樹海の地図と同じ、ある程度の広さを拡大したものだ。
地図の右下にここ、ザングリがあり、真ん中にオアシスらしき図柄、そのオアシスを挟んで、ザングリの丁度反対側くらいに、別の町があるようだ。
「流砂は、この辺で起きていることがよくあります」
言いながら指したのは、地図の左下。
「ベテラン達もいるので、万が一流砂が起きていても、突発的じゃない限りは対応出来るはずです。なので、全滅しているってことはまずありません。その場合は、普段流砂が見られない東側をぐるりと迂回すれば、彼等もそうしているはずなので、いつか出会えます」
ゴードは、ザングリから東を回りこむように指を這わせ、オアシスへとなぞった。
「そうすると、時間が掛かってるだけの可能性もあるんだな」
俺はそれを見ながら、ゴードに応える。
ぐるりと回れば、2倍近く時間が掛かってもおかしくない。
しかも、流砂への警戒で慎重になってるはずだ。
ゴードはそれに満足そうに頷いた。
「はい。その通りです。……ただし、流砂ではなくて魔物だった場合は厄介です。……サンドワームって識ってます?」
「あー、本で見たことあるよ!でっかいイモムシみたいな奴だよね?牙とかいっぱいの」
ボーザックが言うと、ディティアがあからさまに身体を引いたのが分かった。
彼女は、虫型の魔物が苦手なのだ。
何か言って和ませてあげようかと思ったら、先にゴードが言った。
「そうです。イモムシみたいな……と言っても、大きすぎて龍みたいに見えますから、それ程気持ち悪くはないと思いますよ」
丸い鼻を掻きながらのはにかんだ表情も相まって、何となくほっこりしたんだろう。
ディティアは明らかにほっとして、笑い返した。
「そうですか……!」
そのやり取りに何となくむずっとしたような、変な気持ちになった。
……まあ落ち着いたならいいか。
でも……龍みたいって……そっちの方がやばいんじゃないか……?
また間に合いませんでした……13日分です!
目安は21時から24時なのはかわらずですが、大変申し訳ないです。
どうぞよろしくお願いします!




