幽霊船は震えます。⑤
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「おい、カタール。説明しろ」
「す、す、すんません……」
お怒りのグランに詰め寄られ、グランよりでかいはずのカタールは小さくなった。
「お前ら、仲間の命を守るんだろ?あと違法なハンターを狩る裏ハンターとやらだ。そうだな?」
「は、はい……その通りっす」
「で?この状況は何だ??」
……幽霊船に降り立った俺達は、とりあえず甲板の荷物の影に身を潜めた。
木製の箱は黒く変色していて、変な臭いがする。
これ、中身なんだろう?
ちょっとはみ出ているのは黒っぽい布切れだった。
触るのはやめておくか……臭そうだし。
ひっそりとした船上には、今のところ魔物の気配は無い。
そこで、一緒に降り立ったカタールを問い詰めているところだ。
「幽霊船の後ろからは付いてきてるっす。……その、実は、船長は切り札というか……」
「意味がわからないわ。そうだとして説明しないのはどうなのかしら?」
「それは……すんません……」
益々小さくなるカタールに、俺達はため息をついた。
「まあでも、最悪は海に飛び降りても拾ってもらえるってことだよね?」
ボーザックが言うので、俺は頷く。
「そうだな。ここでカタール詰めてても何にも解決にならないし?」
「め、面目ないっす……ただ、その、試練ってこともあるのと、その……サポート役として、自分が来たっすよ」
「……全く。ナチとヤチといい、サポートとやらがずさんすぎるのよ」
ファルーアが肩を竦めた隣で、ディティアが苦笑する。
「まあ……飛び降りちゃったからには調べないとだね」
グランはそれに頷いて、言った。
「おいお前ら。仕方ねぇ、何にせよ中は調べるぞ。……乗り掛かった船だからな」
「わあグラン、確かに乗り掛かっちゃってるけど!ギャグかます余裕はあるんだー……あいたっ!」
ボーザックが叩かれて、俺達は意識を切り替えた。
…………
……
先頭はカタール。
自分がサポートする必要があり、船に慣れていて適役だからと申し出たのだ。
俺達もそれに同意して、カタールの後ろにボーザックとディティア、俺とファルーア、殿はグランという形。
船の構造を予測出来る副船長は、鈍器は背中に背負ったまま小さなナイフを手にゆっくりと進む。
船内は狭く、確かにあの鈍器は振り回せないだろう。
窓からは月明かりがこぼれて、思いの外船内は明るいように感じた。
「客船……に見えるっすね。そうすると、この先に食堂か広間があるかもしれないっす」
「今のところ何もいないけど……不気味だね」
ボーザックは大剣を抜き放っているけど、ここは狭いから、あれはとりあえずの盾にするんだろう。
攻撃はディティアが担うはずだ。
「船長室に向かうっす。航海日誌を手に入れれば、この船がどこの何かわかるっすよ」
「わかった、任せる」
グランが応えて、俺達はさらに歩みを進めた。
傾いた絵画、足元に崩れた客室のドア、壁に掛けられていたのであろうランプが散乱した様は、幽霊船と言うに相応しい。
……けど、それだけだ。
「カタール。今まで幽霊船に遭遇したトレージャーハンターは、皆逃げ帰ったのか?中を見た人達は?」
思わず聞くと、カタールは首を振った。
「それが……わからないんす。襲われたとは言ってたみたいっすけど、そこまでっす。何にどうやって襲われたかはわからないっす」
「何だよそれ……」
「記憶の混乱があるっすよ。助かった人達は……海に飛び込んで、仲間に見付けてもらえたケースばかりっす」
「成る程な。だから船長は早く見付けられるよう後ろを付いてきてくれてるんだ」
「えっ?……ああ、それもあるっすね」
「煮えきらないなぁ……」
そんな会話をしている内に、カタールの言うとおり広間に到着した。
広い場所で、テーブルがいくつも転がっている。
奥には何かのケースが飾られているが、割れて中身は空っぽだ。
掛けられていた巨大な絵画が床に落ちていて、描かれた貴婦人は天井を見詰めている。
「何か情報がないか、少し見てみるっす」
カタールが、慎重に壁沿いを歩いてくれる。
「……これ、見てください」
その時、辺りを探っていたディティアが指差した。
見てみると、転がったテーブルに何か傷が付いているのがわかる。
十字になっていて、結構深い。
抉れた木片は既に黒ずんでいるから、最近の物ではないようだ。
「戦った痕だな。……あっちにも」
この広間にも木箱があり、その側面にも傷が付いていた。
それなりに動ける広さがあるから、ここで戦いになったのかもしれない。
けれど、それ以上は何もなかった。
俺達はさらに奥へと進んだ。
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やがて……。
「ちょっといいかしら」
「どうしたファルーア」
応えると、ファルーアは慎重に辺りを見回した。
先頭のカタールも止まってくれて、こっちを振り返る。
狭い廊下だ。
俺達はぎりぎり擦れ違える程の空間で、息を殺す。
「魔力が高まってきているわ」
「確かに、流れが濃くなってきてる気がする」
ディティアが言うと、ファルーアは杖を握った。
「それだけじゃなくて、小さな塊がいくつか出来てる。段々大きくなっていっているみたいね」
「え?そうなのか?」
魔力感知バフは切れていないけど、さすがメイジ。
魔力の流れを感じるのに長けている。
「魔力感知!」
俺は肉体硬化が切れているため、すかさず魔力感知を2重にする。
「……こりゃ……ちとまずくねぇか?」
グランが髭を擦った。
うん……俺達でもわかる。
小さな塊が、いくつもいくつも出来ていく。
それは段々と大きくなって……。
やばい。
「カタール!この先に広い場所はあるのか!?」
「わ、わからないっすけど……よくある造りなら、たぶん食堂が……!」
「そこまで行くぞ!急げ!」
「あ、アイサー!」
グランが指示を出し、カタールが動き出す。
この先にも魔力の塊はいくつかある。
恐らくその辺りが広い空間だろう。
この、気配とはちょっと違う感じは覚えている。
レイスのそれと、似ているのだった。
本日分の投稿です。
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