次なる未知へと。⑤
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シエリアたちは、名残惜しそうに……それでも笑顔で、出発した。
俺はそれを見送り、砂丘の向こうへと見えなくなった彼らに向けて、またな、と呟く。
この第一陣で、半分近くのトレージャーハンターたちがいなくなった。
……今日も太陽はじりじりと肌を熱するので、俺たちは白いローブを頭から被り、次に出発する第二陣の輪へと顔を出す。
体感調整バフを手当たり次第に投げれば、そこかしこで驚きの声が上がった。
うんうん。
すごいだろ、バフは!
……そして、次に出発するのは……。
「ハッハァ! 来たか大盾! 戦え!」
「うるせぇよ! 戦わねぇよ!」
「どっちもうるさい。……そろそろ落ち着いたらどうなんだい、ガルニア」
ぎらぎらと獣のような紅い眼を光らせ、獰猛な魔物のような殺気を纏った黒鎧の大剣使い、ガルニア。
そして、黒い革鎧に、真っ赤な髪を首の後ろで緩く束ねた小柄な女性……バフが使えるヒーラーのリューンだ。
最初、爆風――そのときはスレイと名乗っていた――と一緒に、真っ赤な大蛇の魔物、ヤンヌバルシャについて調べていた裏ハンターである。
こいつらは、出会ったとき、少年エニルとその保護者のようなふたり、アマルスとヤヌの三人と揉めていた。
……俺としては、裏ハンターとしての務めがどういうものなのか、考えるきっかけとなった出来事である。
結果論だけど、事態は丸く収まったから……こいつらをどうこうしようとは思わない。
仲がいいかと聞かれれば、そんなことは全くないんだけど、挨拶くらいは……と思ったのだ。
「おい、あんた……バッファー」
すると、リューンから話しかけられた。
「なに」
「十人」
「は?」
「十人まで、バフを広げられるようになった」
「…………お、おお。そうなんだ」
思わぬ内容に、感心したような困惑したような変な声が出る。
リューンは目を細めて……ああ、眼が悪いからたぶん見えないんだろうけど、ふんと鼻を鳴らした。
「……もっと、なにかないのか」
「え、うん? なにかってなんだよ」
「だからっ、もっと広げるコツだよ!」
「いや、お前……人にものを頼む態度じゃないよな……」
思わず突っ込んでから、俺は唸った。
前にも聞かれた気はするんだけど、コツと言われても、俺に出来るのはバフを広げてみせることくらいだ。
「魔力感知、魔力感知」
リューンにバフを投げ、俺は右手を上に上げる。
「……見てろよ? ええと。肉体硬化」
できるだけ、ゆっくりになるように。
俺は練り上げた魔力を渦巻かせ、傘のように広げていく。
まだいける。
もう少し。
ぐんぐん広がっていくバフを、リューンが眼を凝らして見詰めるのを確認して、俺は深く呼吸した。
八十人は入るかってくらいまで広がったバフに、俺は歯を食い縛る。
俺の先生的な存在である重複のカナタさんは、百人は囲めるだけのバフを使うことができるわけで。
まだ広げられるはずなのだ。
「もう、少し……」
ぐるぐると円を描くようにして、バフの傘が広がる。
けど、もう無理だった。
「――ッ、ぶは」
吐き出した息とともに、俺はバフをかき消す。
これ以上は、まだ広げられそうにない。
あー、せめてこのまま使えばよかったな。
無駄にしてしまった。
俺はふーっと息を吐き出し、顔を顰めているリューンを見る。
「どうだ?」
「どうだって……くそ、あんた教えるの下手なんだよ!」
「はあ? 俺だって手探りだっての!」
「魔力を渦にしながら練り上げたって、そこまで広げるのは簡単じゃないだろ! 最初から全力で流したら使う魔力が多すぎるしッ……もっと、最初は少なめとか、最初が多めとかさぁッ」
「ええ? ……そういや、一回で八十人入るとして、何回分の魔力使ってんだろうな。八十回分?」
「~ッ、知るかよ! 自分で確かめろ! このへたれバッファー!」
「へたっ……へたれってなんだよ!?」
ぎゃーぎゃーしていると、グランが呆れた声をもらした。
「……お前らのほうがうるせぇよ……」
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とにかく。
リューンには、バフのことならアイシャに行ってカナタさんに聞けと言っておいた。
重複のカナタ。俺のバフの先生的な存在である。
丸投げするのは気が引けるけど、カナタさんなら大丈夫だろう。
ちなみにこいつらは、このあとアルヴィア帝国の研究都市ヤルヴィに帰るそうだ。
――さて、あとは。
俺たちは、第三陣で発つ予定の嫌味な男を探した。
ひー、なかなかペースが戻せません、すみません!
よろしくお願いします。




