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逆鱗のハルトⅡ  作者:
303/308

次なる未知へと。②


昼になり、食事を作る担当の人たちが、大きな鍋を並べてぐつぐつとスープを煮込んでいる。

ごろごろとした肉や野菜が、赤と茶色が混ざった煮えるスープの表面から見え隠れしていて、涎が出そうなほどにそそられる香辛料の香りが漂う。


荷物運びをして働いた俺の胃は、早く寄越せと訴えてくるほどだ。


そんなわけで、俺たち白薔薇はいそいそと集まり、平たくて丸いパンとそのスープを受け取って、入口付近に陣取った。


「はー! お腹空いたーぁ!」

ボーザックがうきうきした様子でスープを覗き込む。

「俺も……。あー、美味そう!」

「冷める前に食べましょう、グランさん!」

同意した俺に被せるようにして、ディティアがグランのほうに身を乗り出す。


はは。だいぶ空腹なんだろうな。

食い付きそうな勢いに、俺は笑ってしまった。


そこに。


「ああ、豪傑のグランさん、白薔薇の皆さん。ここにいましたか」


「あ? ……ストールトレンブリッジか。お前、やってくれるなぁ」

「さあ、なんのことです?」

やって来たのは、シュヴァリエと繋がっていたという、アルヴィア帝国の研究都市ヤルヴィにあるトレージャーハンター協会支部の支部長だ。


とぼけてみせるストーに、グランは肩をすくめて苦笑してみせた。


「さすが、曲者だなんて言われるだけあるわねストールトレンブリッジ」

ファルーアは言いながらパンを一欠片ちぎって、邪魔だったのか左手で横髪を耳にかける。


ストーの話を聞きながら食べることにしたようだ。

確かに、待ってやる義理もないだろう。


「ふふ、私は冒険者寄りの帝国人ですからね。これくらいのことはしていても当然でしょう? 災厄についての情報は、さすがにほとんど持っていませんでしたけどね。それに……実は、ラナンクロストの守護神とお会いするのは今回が初めてなんですよ? 皆さんのほうがよっぽど知っていたはずじゃあないですか」


ラナンクロストの守護神とやらは、勿論、あの嫌味な男のことだろう。

思わず、ぶるりと肩を振るわせた俺は、あたりをちらと窺った。

……よし、グロリアスの姿はなさそうだ。


「――それで、なにしにきたの? あぐ」

ボーザックはそう言って、スープから突き出していた大きな肉を、自分の口に放り込んだ。


ちゃっかりと俺たちの輪に身をねじ込んで座ったストーは、ぽんと膝を打つ。


「はい。今後のお話をしなければと思いましてね!」


……ストーの話では、今回討伐に参加した者たちには、パーティーごとにストーとロディウルの署名が入った書簡が渡されるらしい。


各地のトレージャーハンター協会には、討伐についての報せが本部から成されていて、どこでも報酬が受け取れるよう計らわれているとのこと。


しかしストーは、眼鏡の縁にそっと触れながら「ただ、報酬額はあまり期待しないでください」と言い切った。


各国からの支援金などが報酬に充てられるが、それはほんの一握り。

多くは壊滅した町の復興に使用されるためだ。


その代わりの「災厄討伐を証明する名誉ある書簡」であって、希望すれば自由国家カサンドラの首都で、トレージャーハンター協会の会長であるマルレイユのサインも追記してくれるんだってさ。


――まあ、それはそれで需要もあるだろう。


それから、ソードラ王国に残っている討伐隊には、カムイとセシリウルが書簡を届けに行くそうだ。


……仲間を亡くして泣いていたあの少年宛てに、伝言を頼まないとな。

ちょっと格好よくはなかったかもしれないけど、災厄を止めることはできたって。


最後に、樹海やこの砂漠を持つカールメン王国だけは、どこまで伝達龍が到着しているのかは現時点で不明なままだった。

なにせ伝達龍を撃ち落とすなんていう恐ろしいメイジが配置されてるみたいだしなぁ……。


だから討伐隊が解散したあと、ユーグルが数名、カールメン王都に向かってくれる。


ロディウル自ら指揮を執るそうだ。


彼らとしても、各国の王や皇帝とは、もっと深い関係を築かなきゃならないところまできたんだろうし。 

あいつにはあいつのやるべきことが、まだまだあるんだよな、きっと。


あとで挨拶しないと。

シエリアたちも、故郷に帰るはずだし……そっちにも。


そういや、爆風はこれからどうすんだろう。


「どうするんですか?」


「えっ?」

あれこれ考えていた俺は、心を読まれたのかと思う言葉に、顔を上げた。


聞いてきたのはストーで、彼は意味深な笑みを浮かべ、俺たちをぐるりと見回す。


「白薔薇の皆さんは、これからどうするんですか? ……と、聞きました」


「……」

グランはちょうど頬張ったところで、もぐもぐと口の中のものを噛み砕き、ゆっくりと飲み下してから、紅い眼をストーへと向けた。


「まだなにも話せてねぇよ」

「そうなのよね。ここ数カ月は気を張っていたのもあるかもしれないけれど……先のことをゆっくり決めるような時間は、さすがになかったわ?」

グランの一言に、ファルーアが付け足す。


ストーはそれすらも意味深な笑みで受け止めて、言った。


「そうですよね。では、候補のひとつにアルヴィア帝国を加えてください」




木曜分です!

いつもありがとうございます。

よろしくお願いします。

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