次なる未知へと。①
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次の日。
……シュヴァリエと話したことを、皆には朝食のときに伝えた。
――飯食いながらあいつの話をするのは不本意だったけどな。
シュヴァリエの協力者が、アルヴィア帝国にある研究都市ヤルヴィのトレージャーハンター協会支部長、ストールトレンブリッジであったことも勿論話してある。
ボーザックが騙されたねーとからから笑い、グランとファルーアは渋い顔をする。フェンは黙って乾し肉を囓り、ディティアはあはは、と苦笑してみせた。
それから、俺たちは各々散らばって、拠点を片付けているところだ。
「ふあ……あぁ~」
大欠伸をした俺に、グランが苦笑した。
「お前どんだけ夜更かししたんだよ……ほら、きびきび運べ~」
「わふ」
その足下にはフェンがいて、彼女は畳んだ布を背中に乗せて運んでいる。
俺たちは洞窟の拠点に使っていた衝立の一部を、ふたりで運んでいるところだ。
「ディティアと話し込んじゃったからなぁ……」
ぼやくと、グランはふっ、と鼻で笑う。
「お前の元気があるのはディティアのおかげだろうよ」
「まあ……うん。それはある」
「……なんだ、素直じゃねぇか?」
「そう? ディティアにはかなり怒られたけど」
「あぁ? いや……なんとなく想像はつくが、なにやらかしたんだよ」
「え? 別に変なことは――」
――俺がとつとつと話すと、グランは盛大にため息をついてみせた。
「成長したのか、してねぇのか……」
「はぁ?」
眉をひそめた俺にグランは苦笑して、衝立にかけた手の位置を変えながら言った。
「まぁいいさ。とりあえず運んじまうぞ」
◇◇◇
撤収作業は順調で、拠点にしていた洞窟の広場は、ほとんど岩肌を晒すだけとなっている。
ただし、まだこの洞窟に未調査の空間があることを懸念したトレージャーハンターたちが、何組か残ることになった。
そこに、砂漠に降り立った俺たちに仕事を斡旋してくれた兄妹、ゴードとアーラも交ざるそうだ。
「……まあ、俺たちにかかればなんら問題はないですよ!」
そう言って胸を張る丸鼻のゴードの隣、アーラは肩を竦める。
「正直、ナーガ姐さんと白薔薇の皆が知り合いだったことには驚いたよね」
「俺たちも、アーラたちがナーガの従姉妹って聞いてびっくりしたよー」
ボーザックか笑うと、アーラも笑った。
「あははっ、そうだよね! ほんと、お兄さんたちと会ってからいろんなことが起こった気がする!」
「そうね。あっという間だった気はするけれど」
ファルーアがふふっと妖艶な笑みをこぼすと、ゴードはなんだか照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。
「……俺もアーラも、皆さんには本当に感謝してます。また、会いに来てください」
「おう。アーラと仲よくしろよ!」
グランが、顎髭を擦る。
……ゆっくり整える時間があった今日、その顎髭は綺麗に切り揃えられていた。
すると、アーラが俺のそばにやって来る。
「そうだ、逆鱗のお兄さん」
「ぶっ、それ、やめろって……」
噴き出して応えると、アーラはにこにこしながら、ほかの皆に聞こえないようこっそりと囁いた。
「ティアお姉さんを大切にね! あんな素敵な人、いないよ?」
「え……」
……俺はたぶん、数回、瞬きしたと思う。
「ゴード、アーラ! ふたりとも、元気でね!」
答えられずにいるあいだにディティアが笑いかけたんで、アーラは俺にばっちりと片目をつぶってみせてから、ディティアのところに行ってしまった。
呆けていた俺の足を、フェンの尾がぱしりと叩く。
しっかりしろって言われた気がした。
「うん、わかってる……フェン。悪いな」
……言われなくても。任せとけ、アーラ。
小さく呟いた俺に、フェンが満足げに「ふすぅ」と鼻を鳴らした。
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切りが悪くなっちゃうので、短めです!
よろしくお願いします!




