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逆鱗のハルトⅡ  作者:
301/308

命ついえるときには。⑥

◇◇◇


「――シュヴァリエとなに話してたんだ?」


ディティアが砂丘を登ってきたので尋ねると、彼女は俺の隣に座って眉をひそめ、首を傾げた。


「……えぇと……うーん」

「どうした? なにか言われたのか?」

「『逆鱗と文通を始めるよ。そのときは君に、故郷の押し花でも送ろう。疾風の』だって。……ハルト君、文通するの?」

「ぶっ……おいこら! シュヴァリエ!」

思わず振り返ったけど、あいつはとっくに洞窟内に消えたあと。


絶対ほくそ笑んでるぞ、いまごろ!

あいつ、ほんっとーに腹立つな!


誰が文通なんてするか!


俺が唸っていると、ディティアがくすりと笑った。


「励ましに来たんだけど、大丈夫だった……かな」

「……励ましに?」

「うん。ハルト君、元気ないみたいだったし……。あと、ええとね、寒そうだったから!」

彼女ははにかむと、持っていた大きな布を広げてみせる。


それは複雑な模様が編み込まれた、彩り豊かな厚手の布。

砂漠の民族のものだろう。


「そっか。そんなに寒くはなかったけど、ありが……へっくし……おお」

「あはは、狙ったみたいなくしゃみだね! はい、これ被って」

「……ディティアだって寒そうだけど」

「私は大丈夫だよ、さっきまで洞窟の中にいたし」

「まったく理由になってないよな、それ。……じゃあ、ほら」


俺はディティアから布を受け取って半分被り、右手でもう半分側の裾を持って広げた。


「一緒に被ろう」

「……え……ええっ!?」


ディティアが跳び上がるけど……そんなに意外か?

首を傾げると、彼女はおずおずと口にした。


「あの、ハルト君。それは、その、ちょっと恥ずかしいかなぁ……と」

「? いつも一緒のテントだし、いまさらじゃないか?」

「あー、テント……。これは、テント……テントかぁ」

ディティアが項垂れる。


あれ。もしかして、実は同じテントってのは無理してたのか?


考えが顔に出ていたのか、ディティアが首を振った。

「えっと、テントは大丈夫なんだけど。……たまには、ハルト君が照れてもいいと思うなぁ」

「うん? なんで?」

「……むー」

ディティアは抵抗を諦めたのか、大人しく少し俺に近寄る。


肩が触れる距離に収まった彼女に布を被せ、端っこをその右手に渡して、俺は再び首を傾げた。

「一緒に寝起きしてるのに、そんなに照れるか?」

「もー! そうじゃなくてっ! 普通は、その、男の人……と、こんな密着はしないでしょう?」

ディティアが口を尖らせる。


あー。まぁ、確かにそうだな。

俺もほかの異性とこんな密着するような……こと……。


…………。


ディティアの息遣いすら感じられる至近距離。

彼女のエメラルドグリーンの眼に映る、俺自身が見えるほどで。


俺は、その距離感に思わず身じろいだ。


「……あ、えぇと……そっか。ご、ごめん……」


「えっ? ――もしかしてハルト君、いまさら照れてる?」

「てっ……照れては、いない、けど!」


あれ、ちょっと待て。なんか変だぞ。

意識したら、急に……。


慌てて左腕で口元をごしごしすると、ディティアが笑った。


「――そっかぁ! えへへ、そうだよね! 照れちゃうよね? ふふ!」

「な、なんで嬉しそうなんだよ……?」

「ふふー、知らない~」


上機嫌になった彼女の濃茶の髪を眺め、俺は思う。


彼女もシュヴァリエと同じだ。

強くて、俺が持っていないものを持っている。


だけど、あいつと決定的に違うのは――俺が、守りたいと……大切だと思っていること。

出会って、誰かのことをそんなふうに思ったり、誰かにそう思われたりすることは――きっと幸運なことだよな。


そう考えれば考えるほど、隣でにこにこしている双剣使いの女の子が、愛おしく感じた。

同時に、白薔薇の皆を誇りに思う。


俺は、彼女の左手首でちらりと瞬くエメラルドを見て、口にする。


「……俺、白薔薇でよかったと思うよ」


「えっ?」

顔を上げた彼女と、目が合う。


「皆のことも、ディティアのことも、すっげー好きなんだなーと思ってさ」


笑いかければ、彼女は二度、瞬きをした。


「例えば、アルバニアスフィーリアともっと早く出会って、たくさん話してたとしたら……結果は変わってたのかもしれない。でも……それは叶わなかった。あいつには、俺の思う白薔薇みたいな人がいなかったんだよな」


災厄と同化するために身を差し出し、命ついえるときに、彼女はなにを思っただろう。


答えは、わからない。――災厄は、もういない。

アルバスの意志とともに。


俺は、ようやく……それをちゃんと受け止められた気がした。



――しかし。

そのあと、星明りの下でもはっきりわかるほど真っ赤になったディティアに、こってりと怒られることになる。


「その流れの前に! その言葉は! 無神経です! ハルト君!」


彼女の絶叫は、砂丘の向こうへと溶けていったのだった。



本日分の投稿です。

いつもありがとうございます。

Ⅱはもうすぐ終わりの予定です。最後まで、どうぞお付き合いくださいませ。

よろしくお願いします!

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