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逆鱗のハルトⅡ  作者:
296/308

命ついえるときには。①

******


ロディウルは、恐ろしく強かった。


災厄の核以外……つまり、体を大きく傷付けるわけにはいかず、立ち回りが難しいってのもあるけど……それだけじゃなくて。


災厄が起きる、そのときのため……ずっと繋いできた『血』のせいなのか、まるでバフを重ねたようなんだ。


相手の大きさが自分たちと変わらないとなると、もう戦うのに人数はほとんど必要ない……というか、多いとかえって邪魔になる。


そのため、すでに俺たちを見守る側となり、壁伝いに並んだトレージャーハンターや冒険者、自由国家カサンドラの治安部隊を横目に、俺たちは代わる代わるロディウルへと仕掛けた。


正直、ロディウルが同化すれば戦いは終わるのかもしれないけど……誰も文句を言わないでいてくれる。

絶対に俺たちが勝つって信じてるけど、それが心強い。


「肉体強化、肉体強化!」

何度目かのバフを広げて前衛の強化を継続させ、俺は、自分が踏み出す瞬間を見逃すまいと腰を落として構えた。


「ちょこまかするんじゃねぇ!」

グランが怒鳴りながら大盾でロディウルを牽制し、その影から、ボーザックが大剣を振り上げるようにして閃かせる。


それを、信じられないことにナイフで受け流し、ユーグルの「ウル」が言った。


『災厄やっテ、必死なんヤから、仕方ないやロ?』


心なしか、アルバニアスフィーリア……アルバスの声に聞こえる、二重の音。


唐突に隙が生まれるのに、次の瞬間にはその空白を埋めるような凄まじい速度で攻撃を仕掛けてくるロディウル。

彼の言葉通りなら、アルバスの意志を抑えながら、自分が同化することも拒んでいる状態なのだろう。


「行きます!」

グランとボーザックが下がるのと入れ替わるように、疾風が吹き抜ける。

ディティアの濃茶の髪がぱっと跳ねて、踊るような足取りと体捌きのなか、双剣が閃く。


ギ、ギ、ギィン!


ロディウルのナイフは一本。

繰り出される剣戟を右腕だけで受けるロディウルが、だんだんと歯を食いしばる。


「はぁあっ!」

ディティアは攻撃の速度をどんどん上げていき、威力を載せた左の剣でナイフを弾き、右の剣で「核」を打った。


ガチンッ!


確かに紅い石を捉えた双剣が、短く音を響かせる。



『――どうしテ、邪魔を、スるの?』



「!」

ロディウルの声じゃない。

アルバスの声だと……そう思って、背中が冷えた。


『アタシ……が、必要ナイ――ちゃう。暴れなくてええんヤ』


続いた声に、ディティアの目が見開かれる。


一瞬だけ動きを止めた彼女の「隙」を、ロディウルは見逃さない。

「っ、ディティア!」

俺は咄嗟にゴツゴツした岩を蹴り、飛び出す。


ヒュンッ


ナイフが空気を切り裂いて、咄嗟に上半身を仰け反らせた彼女のすれすれを抜け……。


ギィンッ


――下から上へと、弾かれる。


首を振って距離を取ったロディウルを追わずに、そいつは手にした細い剣をゆるりと下ろし、不敵に笑った。

「気を抜くとは、感心しないね。疾風の」

「……!」

俺は、思わず顔を顰めてしまった。

飛び出したのもあって止まるのも気が引けたんで、「気を抜いたとはいえしっかりとナイフを避けきったディティア」と「そいつ」の間に割り込んでやることにする。


「え、えぇと……」

ディティアがぼやくのが聞こえるけど、とにかくいまはこいつだ。


「やあ逆鱗の。どうかしたかい?」

「どうもしないけど。とりあえずディティアから離れてくれるか、シュヴァリエ」


放っといたらまた「我がグロリアスに」とか言い出すに違いない。

シュヴァリエは目を細めて、面白そうに笑った。


「ふ。閃光の、と付けてくれてもいいよ。逆鱗の?」

「絶 対 に、付けないからな」

言い返して、鼻を鳴らしてやる。


「……ちょっと。あんたたちいい加減にしなさい? 消し炭になりたいの?」

「……うっ」

そこに、ファルーアから氷のように冷ややかな言葉が飛んできて、俺は思わず首をすくめた。


「閃光のシュヴァリエ様を一緒にするのは許しません」

「はぁ……? あなたも黙りなさい? 状況をわかっているのかしら?」

噛み付いたナーガもばっさりだ。


――っていうか一緒にするなってのは俺の台詞なんだけど?

いや、確かにシュヴァリエと遊んでやってる場合じゃないんだけどさぁ。


「はは。手厳しいね、光炎の」

シュヴァリエは優雅な仕草で一歩下がると、そう言って微笑んだ。


くそ。余裕綽々な顔しやがって。


「この状況で遊んでいられるとは、なかなかやるじゃないか。逆鱗」

そこに、笑いながら爆風が歩みでてくる。

けれどその眼はぎらぎらと強い光を湛え、ロディウルを見たままだ。


「……」

俺は応えずに、その横顔に見入る。


――獣のようだと思った。


露出した腕や頬に、薄らと残る絡み付いた蔦のような痣が、薄暗い洞窟のなかでもはっきり見える。

爆風は胸の前で腕を交差させるようにして双剣を構えると、ゆっくりと一度、瞬きをした。


「お相手願おう。ユーグルのウル」


対するロディウルも、大きく肩を揺らし、応える。


『おっと。やるなら、核にしてくレるンやろなア?』

「俺が仕留めてしまっては面白くないだろう?」

『は、言うヤんか』


邪魔できない雰囲気だった。

俺は……いや、誰もが、ユーグルのウルと伝説の双剣使いの対峙を、息を詰め、見守った。




木曜分です!

いつも素敵な感想をありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします。

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