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逆鱗のハルトⅡ  作者:
295/308

志を抱くもの。⑥

ずだあぁんっ!

「ぐ、はっ……!」


殴られた反動で床に転げたロディウルが、空気を吐き出す。


ごろごろと転がったその体に、俺はすかさず走り寄った。

真横に立ったまま身を屈め、その胸ぐらを掴む。


「生贄になんか、させないっ……俺たち白薔薇は、そのためにここに来たんだ……!」

「せやかて、逆鱗のハルト。わかるんや。ここに、アルバスの意志がある。俺はこれからこいつを押さえ込んで、災厄を鎮めなあかんのや」


彼の胸元に少しだけめり込んだ紅い結晶が、その言葉に呼応して、脈打つかのごとく明滅する。

――それが、たまらなく許せなかった。


「こんな塊、俺たちが粉々にしてやる! なにが志を抱くものだ! お前自身が抗えよ! 生きる志はないってのか!?」


「……!」

目を見開いたロディウルの、深緑色をした髪が揺れる。


「お前が同化したからって、誰も救われない! そんなことに命を賭けるなんて認めないぞ……!」

「……は、甘ちゃんやな……ほんまに」


吐き出された言葉は、しっかりしていた。


大丈夫。

ロディウルは、まだ「ロディウル」だ。


災厄なんかじゃない。

同化はしていない。


なら、間に合うんじゃないのか。


「……離れろ、逆鱗のハルト」

けど、掠れた声が、俺の耳を打つ。


「――まだそんなこと……ッ!」

言いかけた俺を、紅い眼がじっと見つめる。


ロディウルは胸ぐらを掴まれたまま、ゆらりと立ち上がった。


魔力感知に上書きし、肉体強化を三重にした俺の胸元に、その腕が伸ばされて……。

「っ、う、わ!」

浮遊感とともに、世界がぐるんと一回転した。


投げ飛ばされたんだと理解するのと同時に、ゴツゴツした岩肌に叩きつけられる。


「ハルト君!」

俺の横、すぐにディティアが駆け寄ってきた。


「つぅ……」


打ち付けた腰がズキズキしたけど、すぐ前に立っているロディウルを見て、俺は目を見開いた。


『はっ、仕返しや! その賭け、乗ったルわ……逆鱗のハルト』


――笑ってる。

ロディウルが、にやりと不敵な笑みをたたえ、笑っていたのだ。


その声は、心なしか二重になっているような音に聞こえる。

少しずつ、体が蝕まれているからかもしれない。


オレは鼻を鳴らして、立ち上がった。


「ふん、賭けなもんか! 俺たちが勝つのは決まってるんだからな」

「ははっ! よく言ったぞハルト!」

「さっすが! ハルトの逆鱗に触れるなんて、ロディウル、やっちゃったね!」

そこに、場違いなほど明るい声で、グランとボーザックが応える。


ついでとばかりに、ふたりに背中をど突かれて、俺は前のめりに蹌踉めいた。


「いっ……!」

ただでさえ投げ飛ばされたんだ。

少しは加減してくれよと思ったけど、同時に、気持ちが滾る。


「うちのバッファー、こう見えて諦め悪いのよ?」

「うん。……ハルト君がこう言うなら、覚悟してもらわないとね。ロディウル」

「ぐるる……」

ファルーアとディティアが俺の横で武器を構え、その足下、神々しく美しい銀の毛並みを光らせたフェンが唸る。


「うん、やはり若者はいいな!」

さらには爆風がひらりとやってきて、シャンッと双剣を打ち鳴らしたところに、

「はは、頼もしいね。……僕も参戦させてもらおう」

そんな言葉とともに爽やかな空気がぶわぁっと振りまかれ、俺は顔を顰めた。


「いや、お前はいいよシュヴァリエ……」

「閃光の、と付けてくれてもいいよ。逆鱗の」

「あー……疲れる……」


「ほっほ、では、儂らも参戦かのう? 祝福の」

「まあ、うちの大将が動くからなぁ」

「えっと、僕たちもいいでしょうか……ハルト君」

「なんだいシエリア! もっと堂々といこうじゃないか! ……ところで、爆炎のガルフ。ご無沙汰してます」

「ほっ! 相変わらずゴツイのぉ、雄姿のラウジャ」


見回せば、シエリアたちや、ゴードとアーラ、殺気を滾らせたガルニアに、バフが使えるヒーラーのリューン、そしてストーまで集まっていた。


――ああ。なんだかんだ、多くの人と出会ってきたんだな。


胸の奥が、熱くなる。


『……あカんな。敵ばっかリやで、カムイ』

ロディウルが、やはり二重になっているような声で吐き出す。


それを聞いたカムイは盛大に鼻を鳴らした。

「悪いなァ、ロディウル。俺らも、やらせてもらうでェ」


その隣ではセシリウルも、ものすごく恐い顔をしている。

「ええ。簡単に許されると思わないでください。ロディウル」


少し落ち着いたのか口調を戻し、冴えたナイフのような声で続ける彼女に、ロディウルが苦虫をかみつぶしたような顔をする。


俺たちが構えると、ロディウルは胸元に刺さったままのナイフを引き抜いた。


『……災厄を、仕留めルか……俺の同化が先か……見せテもらうでェ、白薔薇』


……彼の言葉は、幼さを残した少年のような、ともすれば少女のような、そんな複雑な音となってこぼされた。



水曜分となります。

よろしくお願いします!


感想など、いつもありがとうございます!

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