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逆鱗のハルトⅡ  作者:
291/308

志を抱くもの。②

******


……災厄は、ちまちまと攻撃しては逃げる俺たちに痺れを切らしたのか、前にいるものを標的と決めたらしく、途中で獣の姿をとった。


……好機。


俺は全員のバフを速度アップの四重にして、一気に拠点まで駆け抜ける。


拠点は、壁伝いに衝立がずらりと並べられて薄暗く、気配は濃いのに静まり返っていた。


飛び込んだ俺は、その異様な空気に気圧されて速度を緩めてしまい――爆風に背中を叩かれる。

いや、叩かれるというか、思い切りどつかれたっていうか。


「止まるな、逆鱗」

彼の言葉に、俺は緩めた速度を再び上げる。


あの衝立の向こう側には、討伐部隊が所狭しと並び、息を殺しているんだろう。


広い部屋の中心あたりまで来た俺たちを、災厄の砂塵が牙を剥いて追い掛けてくる。

肩越しに確認すれば、ちゃんとグランたちの姿も見えた。


砂を取り込んで大きくなった災厄は、体高が俺の胸ほどまである巨大な狼の姿だ。

天井はそれほど高くないけど、獣姿の災厄が立ち回るくらいならさほど障害にもならないだろう。


「行くぞ疾風」

「はいっ、爆風!」


シャアンッ!


そこで、ふたりの双剣使いが刃を閃かせ、踵を返す。

俺も足を止めて手をかざし、バフを一気に広げた。


「肉体強化! 肉体硬化! 反応速度アップ! 速度アップ!」

速度アップを三つ書き換え、ひとつは上書きに。


同時に、届く範囲の『味方』にも、バフがかかったはずだ。


「お手並み拝見といくかの」

爆炎のガルフがほっほと笑う。


その隣、シュヴァリエが剣の柄に右手を添えて真っ直ぐに立ち、ちらと俺を見た。


「白薔薇の成長、見せてもらうよ。逆鱗の」

「ふん、言ってろ」


応えて、双剣を抜く。


「まあ、回復は手伝うぞ」

苦笑する祝福のアイザックと、無表情の迅雷のナーガを横目に、俺は踏み出した。


俺の前をいくふたりの風に合わせるように、ファルーアの練り上げた魔法が災厄の砂塵ヴァリアスへとぶつかって、派手な飛沫が舞う。


「はぁっ!」

最初にディティアが斬り掛かる。

災厄は彼女の双剣を、大きく身を捻るようにして避けた。


しかし、その先にはすでに爆風が回り込んでいて、力と速さを活かした強烈な蹴りが災厄の体を抉り、濡れた砂の塊が大きく弾ける。


爆風へと首を向けて牙を剥く災厄に、俺と、反対側からボーザックが肉薄。


一瞬だけ目を合わせ、俺たちはほとんど同時に飛び掛かった。


「やあぁっ!」

「おおぉっ!」


俺の双剣が災厄の脚を裂き、爆風を追い掛けていた大きな口がばくんっ、と閉じたところに、ボーザックの白い大剣が斜め上から振り下ろされる。


ザンッ!


濡れた砂に一本の『線』が刻まれて、爆風を狙った前脚の爪が三回、空を掻いた……その瞬間。


「いまです!」

おそらく、ストーの号令が轟いて――空気が、震えた。


「凍りなさい!」

「凍れ!」


ビュオアッ


前後左右から、氷の礫が衝立を吹き飛ばしながら……あるいは突き破りながら放出される。


洞窟の空気が急激に冷えていくのがわかり、俺は討伐隊の動きをじっと見ているグロリアスの近くへと引いた。


……このままだと巻き込まれそうだしな……。


炸裂した魔法は災厄の濡れた体を凍らせ、その表面をビキビキと音を立てて根のように広がっていく氷が、地面にも下りていく。


吐く息が急激に白くなり、露出した肌がぴりぴりと痛んだ。


「行くぞ! おらああぁッ!」

グランが声を響かせて、大盾を振るう。


殴られた災厄の尾の部分が、ガツリと硬い音を立てたかと思うと、派手に吹き飛んだ。


「おおおお!」

「わああぁ!」


それを合図にするかのように。

衝立の向こうから、鬨の声を上げて、討伐隊が飛び出してきた。


ビシビシッ、と災厄の体が軋む。

ぱらぱらと氷の破片がこぼれ、砂の塊なのに氷像のような災厄が震える。


「ハルト、怪我はないわね? ……爆炎のガルフ。こんなところで会うとは思わなかったわ……どうしてここに?」

そのとき、俺の近くに、いそいそとファルーアがやってきた。


グランとボーザックも一緒で、フェンはディティアと爆風のところへと向かっているようだ。


「俺は大丈夫だけど……」

「ほっほ。爆風の奴に連れ回されているところじゃよ」 

台詞を被せるようにして、ガルフが長い白髭を撫でる。


「アイザック、久しぶり~!」

「おうボーザック! 元気だったか!」

ボーザックは、とげとげしい杖に袖のない黒ローブの『祝福のアイザック』に声をかけていた。


……まあ、あのふたりは親戚らしいので、気が合うんだろうな。


その間にも討伐隊が災厄へと雪崩のように押し寄せる。

しかし災厄は、未だにぱらぱらと氷の礫をまき散らしているだけだ。


――俺は嫌な予感がして、群がっている討伐隊にバフを広げた。


「……肉体硬化ッ、肉体硬化!」


四重バフだった人の分は、速度アップと反応速度アップを上書きにして、五重にならないように。


杞憂ならいいんだけど……。 



そう思った瞬間、災厄が一際大きく震え――弾けた。




日付かわっちゃいました、失礼しました!

よろしくお願いします。

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