なぜここにいるのですか。②
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「あーっ、逆鱗のお兄さん!」
戻ってきた調査隊のなかから、明るい声が聞こえる。
俺は久しぶりに聞いたその呼び方にギョッとした。
「アーラ!」
ディティアが手を振ると、集団から離れて、ひとりの女の子とその兄がこっちにやってくる。
「久しぶりに会えて嬉しいよ!」
「ご無沙汰してます」
ふたりとも、色白の肌と黒髪黒眼。
女の子は髪をひとつに束ね、溌溂とした笑顔を弾けさせている。
服装は麻布の茶色がかったローブの下にタイツ。左肩から右の腰へと、不思議な模様の布が斜めにかけられて、ベルトに結ばれている。
彼女はアーラ。
男のほうはぱっちりした眼に丸っこい鼻、前よりは幾分引き締まって細くなったように見える体つきで、アーラが斜めにかけている布と同じものをベルトにしている。
彼はゴード。
彼らは兄妹で、俺たちが初めて砂漠を冒険したときに世話になったトレージャーハンター協会ザングリ支部の人間だ。
兄のゴードは裏ハンターでもある。
俺と爆風で旅をしていたときに、砂漠の地殻変動調査を依頼していたのが彼らだ。
そのままここに留まってくれていたんだろう。
「仕事が届いたときには驚きましたよ! 抜擢されたのは嬉しかったんですが、まあ、俺ほどのトレージャーハンターですからね!」
ゴードが言うと、アーラは冷ややかな視線を送った。
「ゴード兄、めちゃくちゃ緊張してたくせに。……それでそれで? 爆風のガイルディアは一緒じゃないの?」
言葉の後半はにこにこと言うアーラに、ゴードが口をへの字にしている。
俺は思わず笑いながら応えた。
「爆風はまだみたいなんだ。もしかしたら、樹海の双子と一緒かもしれないな!」
「なんだって……ですって? ちぇっ、樹海の双子にも仕事があったのか」
更にしかめっ面になったゴード。
そういえば、最初に会ったときは樹海臭ぇ! とか言われたんだったな。
もしかして樹海の双子……ナチとヤチとは仲悪いのかな?
アーラはふふっと笑った。
「ゴード兄はね、樹海の双子に敵対心を燃やしてるんだ! 自分と歳が変わらないのに、双子は裏ハンター審査官様だもんね!」
「ああ、そっかぁ。ゴード、ナチとヤチが羨ましいんだねー」
ボーザックがにこにこしながら言ってのけると、ディティアとファルーアがくすりと笑った。
ゴードは肩を落として、アーラを恨めしそうに見る。
「……アーラ。お前、少しは兄をたてようか」
「あはっ、無理無理!」
――仲の良い兄妹である。
放っておけばいつまでも話せそうだけど、そうもいかない。
俺たちは、彼らと調査隊の報告を聞くために、一緒に移動した。
ストーの部屋にはさすがに入りきらないので、広場みたいな場所だ。
魔力結晶を使った灯りがぐるりと設置され、全員の顔を確認できる程度には明るい。
誰かが声をかけたのか、拠点に残っていた人たちもぞろぞろと集まってきて、俺は心のなかで「へぇ」と呟いた。
……思いのほかたくさんの人がいたらしい。
「調査隊の皆さんは、隊ごとにまとまっていてくださいね。別々に報告を確認しますので」
ストーが真ん中で声をかけると、調査隊に参加していたらしい人たちがすぐに数組に分かれて整列する。
なかなかどうして、かなり統率が取れているんじゃないか?
「短期間でここまで動けるもんか、すげぇな」
同じように思ったのか、グランがぼやく。
「訓練でもしたのかしらね」
ファルーアが応えると、すぐ近くにいたラウジャが首を振った。
「いや、あれは国ごとに分けてるね。少なくとも帝国兵が一塊になってるよ」
「ラウジャ、わかるのか?」
感心して俺が聞くと、彼女は左頬の傷痕を意味もなく触った。
「勿論さ。帝国兵の統率は取れて当たり前。動きが違うんだよ。ほかの隊もそれに倣って、ああやってすぐに形になったんだろうね」
「ふーん」
頷いて、ぐるりと見回す。
どうやら隊は全部で六組。
交代で探索に出していたんだろう。
今回戻ってきた四隊はしっかりと装備を整えてあるから、すぐにわかる。
そこで、ふと気付いた。
……ガルニアが独立しているような気がするぞ……。
やっぱりあれだけ殺気を垂れ流すと扱いにくいのかも。
そうすると、あいつと一緒にいたヒーラーのリューンは来てないってことか。
バフを使う貴重なヒーラーだし、正直気に入らない奴だけど、ちょっと気になる。
考えていると、ストーがこっちを向いた。
「白薔薇の皆さんも、一緒に聞いてもらえますか?」
「ああ。……行くぞ」
俺たちはグランに続いて、踏み出した。
11日分です。
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