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逆鱗のハルトⅡ  作者:
282/308

砂の下に眠るもの。⑦

「私も手伝います!」

セシリウルがこっちに駆け寄ってきて、頷く。


「頼む。……持久力アップ!」

俺が彼女にもバフをかけると、龍眼の結晶の杖をかざし、ファルーアはすっと息を吸った。


そのあいだも、グラン、ボーザック、ディティア、ラウジャが攻撃を繰り返す。


シエリアはラミュースを守り、カムイとフェンがセシリウルとファルーアの傍に立つ。


『人型』は槍を振り回し、ときには体を砂に戻すように霧散させることで、悠々と立ち回っていた。


「いくわよ」

「いつでもいけます!」


ファルーアの金色の結晶が煌々と輝き、セシリウルの手首の水晶がちかりと瞬く。


グランが槍を受けて後ろに飛び離れ、目配せする。

俺はその瞬間、叫んだ。


「いまだ! 撃て!」


「押し流しなさい!」

「凍れ……っえ?」


どばあっ


ファルーアが放ったのは、水の魔法。

対して、セシリウルは氷の魔法だ。


セシリウルは驚いたようだけど、ファルーアは妖艶な笑みを零した。

なるほど、先に湿らせて固めるつもりなんだな。


セシリウルはすぐに理解したようで、そのまま両手をかざす。


まるで何匹もの蛇が集まったような濁流が、先に『人型』へと直撃する。

渦巻く濁流に『人型』が呑み込まれ、その槍だけが渦から突き出ていた。


グラン、ボーザック、ディティア、ラウジャは『人型』を囲むような位置取りで己の武器を構え、いつでも追撃できる姿勢だ。


炸裂した水の魔法の上から、追い掛けるようにしてセシリウルの氷の魔法。

彼女の手元からは氷の粒が未だに噴き出して、吹雪のような勢いで、水を被った『人型』へとぶつかった。


ビュオオオォォッ


室温が一気に下がる。

「体感調整、肉体硬化、肉体強化、肉体強化!」


俺は『人型』を囲む四人へとバフを広げてかけ直し、あるいは重ねて、四重にする。

メイジとヒーラー以外の残りには、自分も含めて肉体強化をひとつ減らした三重に。


やがて濁流が消え、白く霜を被った氷像が顕わになった。


「やった……!」

「まだこれからよ! 気を抜くんじゃないわ、ボーザック!」

「うぇ……」


歓声を上げるボーザックに、ファルーアが龍眼の結晶の杖を再び光らせながらぴしゃりと告げる。


ビシッ……!


氷像からは無理矢理動こうとするような、軋む音が。


「行くぞ!」

グランが地面を蹴り、ボーザックとディティア、ラウジャも続く。


「うおおぉぉっ、らあぁっ!」


ガコォンッ!


「たあぁッ!」


左足部分、氷の壁を弾けさせた白い大盾の一撃に続き、ボーザックがグランの一撃が入った場所を正確に狙って、大剣を横薙ぎに振るった。


ギィンッ……! ビキィッ!


『人型』の左足に割れ目が走り、氷の礫が散る。


「次行くよ!」

ラウジャがその割れ目へと戦斧を叩きつけ、深く穿たれた傷に閃くのは……疾風。


「はあぁぁっ!」


ザンッ、ザンッ……!


双剣が『人型』の左足、その傷を広げ、最後に……彼女のエメラルドグリーンの眼が、俺を映した。


「――ハルト君!」


「任せろ! 脚力アップ! おおぉぉぉっ!」

駆け寄っていた俺は、踏み切って思い切り跳んだ。


「倒れ……ろおおぉぉぉっ!」


体を捻り、思い切り脚を振り抜く。

『人型』の左肩のあたりに炸裂した俺の蹴りは、脚力アップも相まって、かなりの威力を出した……はずだ。


バキン、と。

なにかが折れる音。


着地と同時に飛び離れた俺の目の前、ゆらり、と『人型』が傾ぐ。


折れた左足では自重を支えきれず、それはそのままゴツゴツした地面へと倒れ伏した。


ぐわしゃあんっ!


凍った砂粒が弾けるようにして飛び散る。

空気中に舞った破片が、蒼い光に照らされてきらきらと瞬いた。


「やったんかァ!?」

カムイが声を上げたその瞬間、フェンが咆えた。


「グアァウッ!」

吹き抜ける銀の風が、あっという間に『人型の残骸』を跳び越え、その向こうへと駆け抜けて――。


ガチンッ


フェンの牙が噛み合わさる。

俺は、一抱えはありそうな『なにか』がフェンの口に挟まっているのに気付く。


ところが。


「……!」

次に見た光景に、俺は息を呑んだ。


見る間にぼろりと崩れ落ちたそれから、分離された『大きなネズミ』が部屋の奥へと駆け抜けていくのである。


『ネズミ』は、濡れた砂の塊。

つまり、災厄はあんな大きさにもなれるのだと気付いてしまったのだ。


「グルル……」

「フェン、深追いするな」


口の砂を吐き、踏み出しかけたフェンを、グランが止める。

「ボーザック、ディティア! 災厄は離れていってるか?」

「うん、大丈夫」

「はい。遠のいていると思います」

ふたりの返事に頷いて、グランは俺に向き直った。


「……ハルト、お前、もう足は平気なんだな?」

血塗れて破れた服に、グランの視線が落ちる。


「ああ。傷は塞がってる。……ごめん」

俺が答えると、白薔薇のリーダーは珍しくほっとしたような顔をして、顎髭を擦った。


見ると、ディティアも、ボーザックも、苦笑している。


……かなり心配させちゃったみたいだな。

本当に不用心だった。


「すぐに拠点に報告に戻る。災厄の対処法はわかったが、通路も部屋も狭すぎるからな。態勢を整えるぞ」

「賛成です。ハルト君、僕の服でよかったら、枚数はあるのでどうぞ。背もそんなに変わりませんよね、たぶん」

指揮を執るグランに、シエリアが頷く。


俺は肩をすくめ、思わず戯けてみせた。

「俺のほうが、高くない?」



本日分です。

今週もよろしくお願いします!

評価、ブクマ、感想、ご意見などなど、いつもありがとうございます。

お待ちしてます!

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