砂の下に眠るもの。④
「見てください。これは調査隊のある日の調査内容です。この丸印が魔物の目撃場所。色は四色ありますが、各調査隊ごとに色分けしたものです。その横の数字が目撃時間。その下が、なにに見えたか……です。ちなみに、どの隊も『影が見えただけ』で、追いかけたのに見失っています。遭遇したわけではありません」
「――うーん。時間も場所もバラバラだね」
ボーザックが言うと、シエリアが頷く。
「本当にいろいろな魔物がいるようですね」
「でも王子様。龍はここと、こっちにもいるわ。そっから移動して……見て、今度は鳥を見付けてるのね!」
「シュレイスさんっ、だ、駄目ですよう邪魔したら! 大事なお話みたいですからぁ!」
自分も話に加わりたかったのか、シュレイスがシエリアの隣から身を乗り出して、その裾を慌てたようにテールが引いた。
けど、俺は首を傾げる。
「ん……でも、それだとおかしいだろ。ここに龍がいて、その先は部屋になってるけど……その部屋、道が二本しかないぞ。別の道の先には別の調査隊がいるのに、そいつらがそのあとに見付けたのは鳥……? 龍はどこいったんだ? 追いかけたのに見失うなんてありえるか?」
「あら、本当ね。時間はバラバラだけれど……よく見ると……これ、時間ごとに結んでいけるんじゃないかしら?」
ファルーアが感嘆の声を上げると、ディティアが唸った。
「……えっと、でも……そうすると災厄は何匹も一緒に移動しているか……どの魔物にも見えちゃう容姿……ってことかな? 擬態する能力とかもあったりしそうだね」
「そう、そこなんですよ疾風さん!」
「わあ!」
突然、ストーが眼鏡を光らせて叫ぶので、地図を覗き込んでいたディティアが仰け反った。
「おっと……」
思わず支えたものの、彼女が驚いた顔で俺を見上げて……。
「ご、ごめんハルト君!」
赤くなり、慌てて離れる。
俺はというと、どういうわけか、ちょっと緊張したというか、なんというか……。
すると、右側にいたグランに、背中をばしりと叩かれた!
「いっ……て! なんだよ?」
「……」
なぜかにやにやしている無言の大盾使いに、俺はふんと鼻を鳴らす。
面白がられているってことは、やっぱり、ちょっと気にしすぎってことだよな?
くそ、グランのせいだぞ。
俺はそれどころじゃないのに、ちら、とディティアを窺う。
ディティアは両手で赤くなった頬を包み込んでいた。
……その仕草が、いつも通り、まるで小動物のようで、俺は頬が緩むのを感じる。
そうそう。
やっぱりそんなところも可愛いのだ。
すると、ディティアが横目で俺を見た。
なんとなくもじもじしながら、彼女は口にする。
「あのう、ハルト君」
「……ん?」
「微笑ましいものを見るようなその視線、とっても刺さります……」
「あ、ごめん?」
俺は、それがあまりにも不意打ちだったので、笑ってしまった。
こんなときなのに、皆も笑っていたので、気付く。
ディティアは大切。皆だってそのはずだよなって、それはわかってたけど。
そっか。やっぱりそうなんだな!
いまいち自信がなかったのが、唐突に腑に落ちてしまったのだ。
なら躊躇う必要はない。
「いや、ほんと可愛いなお前。そうそう、そうだよな。皆お前が大切だってわかった。俺も大切に思ってるよ」
「えっ、ええっ!? な、な……っ!」
飛び上がり、絶句するディティア。
「……ハルト。あんた馬鹿なの? 間違ってはいないけど、なんでいまそうなったのかしら?」
ファルーアが呆れ顔で言う。
「なんだよ、皆もいま笑ってただろ?」
「苦笑だ、気付け……」
今度はグランに突っ込まれる。
「え、でも皆だってディティアが大切だろ? な、ボーザック?」
「ぶっ、お、俺に振るの!? え、ええ、と……そりゃ、勿論そうなんだけど! そうなんだけどさあ!」
「ほら」
「ほ、ほらじゃないよ! お、俺まで照れるじゃんか……! あの、ティア……なんかごめんねっ」
「うう……ううう」
湯気が出そうなほど赤くなったディティアが、呻きながら頭を抱える。
グランが、どこか遠くを見遣ってぼやいた。
「言葉選びを間違ったつもりはねぇんだが……なにが悪かったんだ」
「うまく作用したかと思ったけれど……変な方向に突き抜けたわね」
「ふすう……」
ファルーアとフェンが呆れ返り、シュレイスは大袈裟に肩をすくめてみせる。
「なんなのかしらこの空気。王子様はしっかりしなきゃ駄目よっ!」
「はい、シュレイス。まあ、さすがに僕はあそこまで鈍感ではないですよ?」
「……ふ、ふん! ならいいけど、間違えたら罰金ものだと思うわ!」
「うふふぅ、シュレイス、赤い顔も面白いわねぇ」
「うるさいわよラミュース! あ、赤くなんて……!」
「……すまないねぇ、飛び火しちまったよ」
ぼやくラウジャに、ストーは苦笑して、肩をすくめた。
「出鼻を挫かれた感じが満載ですねぇ」
「いや、もういいぞストー。こいつらはほっといて進めてくれー」
グランは諦めたように肩を落として、顎髭を擦った。
なんだよ、俺のせいみたいじゃんか。
腑に落ちない。
ストーはもぞりと座り直すと、咳払いをひとつ落として頷く。
「……えー、それでは進めますね。災厄についてなんですが……ひとつ仮説を立てました。……姿を変えることができるのではないか……とね」
本日分の投稿です!
よろしくお願いします。
ブックマークや感想、評価などなど、励みになってます。
ありがとうございます。




