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逆鱗のハルトⅡ  作者:
279/308

砂の下に眠るもの。④


「見てください。これは調査隊のある日の調査内容です。この丸印が魔物の目撃場所。色は四色ありますが、各調査隊ごとに色分けしたものです。その横の数字が目撃時間。その下が、なにに見えたか……です。ちなみに、どの隊も『影が見えただけ』で、追いかけたのに見失っています。遭遇したわけではありません」


「――うーん。時間も場所もバラバラだね」

ボーザックが言うと、シエリアが頷く。

「本当にいろいろな魔物がいるようですね」


「でも王子様。龍はここと、こっちにもいるわ。そっから移動して……見て、今度は鳥を見付けてるのね!」

「シュレイスさんっ、だ、駄目ですよう邪魔したら! 大事なお話みたいですからぁ!」

自分も話に加わりたかったのか、シュレイスがシエリアの隣から身を乗り出して、その裾を慌てたようにテールが引いた。


けど、俺は首を傾げる。


「ん……でも、それだとおかしいだろ。ここに龍がいて、その先は部屋になってるけど……その部屋、道が二本しかないぞ。別の道の先には別の調査隊がいるのに、そいつらがそのあとに見付けたのは鳥……? 龍はどこいったんだ? 追いかけたのに見失うなんてありえるか?」


「あら、本当ね。時間はバラバラだけれど……よく見ると……これ、時間ごとに結んでいけるんじゃないかしら?」

ファルーアが感嘆の声を上げると、ディティアが唸った。


「……えっと、でも……そうすると災厄は何匹も一緒に移動しているか……どの魔物にも見えちゃう容姿……ってことかな? 擬態する能力とかもあったりしそうだね」


「そう、そこなんですよ疾風さん!」

「わあ!」

突然、ストーが眼鏡を光らせて叫ぶので、地図を覗き込んでいたディティアが仰け反った。


「おっと……」

思わず支えたものの、彼女が驚いた顔で俺を見上げて……。

「ご、ごめんハルト君!」

赤くなり、慌てて離れる。


俺はというと、どういうわけか、ちょっと緊張したというか、なんというか……。

すると、右側にいたグランに、背中をばしりと叩かれた!


「いっ……て! なんだよ?」

「……」

なぜかにやにやしている無言の大盾使いに、俺はふんと鼻を鳴らす。


面白がられているってことは、やっぱり、ちょっと気にしすぎってことだよな?

くそ、グランのせいだぞ。


俺はそれどころじゃないのに、ちら、とディティアを窺う。


ディティアは両手で赤くなった頬を包み込んでいた。

……その仕草が、いつも通り、まるで小動物のようで、俺は頬が緩むのを感じる。


そうそう。

やっぱりそんなところも可愛いのだ。


すると、ディティアが横目で俺を見た。

なんとなくもじもじしながら、彼女は口にする。


「あのう、ハルト君」

「……ん?」

「微笑ましいものを見るようなその視線、とっても刺さります……」

「あ、ごめん?」


俺は、それがあまりにも不意打ちだったので、笑ってしまった。

こんなときなのに、皆も笑っていたので、気付く。


ディティアは大切。皆だってそのはずだよなって、それはわかってたけど。

そっか。やっぱりそうなんだな!


いまいち自信がなかったのが、唐突に腑に落ちてしまったのだ。

なら躊躇う必要はない。


「いや、ほんと可愛いなお前。そうそう、そうだよな。皆お前が大切だってわかった。俺も大切に思ってるよ」


「えっ、ええっ!? な、な……っ!」

飛び上がり、絶句するディティア。


「……ハルト。あんた馬鹿なの? 間違ってはいないけど、なんでいまそうなったのかしら?」

ファルーアが呆れ顔で言う。


「なんだよ、皆もいま笑ってただろ?」

「苦笑だ、気付け……」

今度はグランに突っ込まれる。


「え、でも皆だってディティアが大切だろ? な、ボーザック?」

「ぶっ、お、俺に振るの!? え、ええ、と……そりゃ、勿論そうなんだけど! そうなんだけどさあ!」

「ほら」

「ほ、ほらじゃないよ! お、俺まで照れるじゃんか……! あの、ティア……なんかごめんねっ」

「うう……ううう」

湯気が出そうなほど赤くなったディティアが、呻きながら頭を抱える。


グランが、どこか遠くを見遣ってぼやいた。

「言葉選びを間違ったつもりはねぇんだが……なにが悪かったんだ」

「うまく作用したかと思ったけれど……変な方向に突き抜けたわね」

「ふすう……」


ファルーアとフェンが呆れ返り、シュレイスは大袈裟に肩をすくめてみせる。


「なんなのかしらこの空気。王子様はしっかりしなきゃ駄目よっ!」

「はい、シュレイス。まあ、さすがに僕はあそこまで鈍感ではないですよ?」

「……ふ、ふん! ならいいけど、間違えたら罰金ものだと思うわ!」

「うふふぅ、シュレイス、赤い顔も面白いわねぇ」

「うるさいわよラミュース! あ、赤くなんて……!」


「……すまないねぇ、飛び火しちまったよ」

ぼやくラウジャに、ストーは苦笑して、肩をすくめた。

「出鼻を挫かれた感じが満載ですねぇ」


「いや、もういいぞストー。こいつらはほっといて進めてくれー」

グランは諦めたように肩を落として、顎髭を擦った。


なんだよ、俺のせいみたいじゃんか。

腑に落ちない。


ストーはもぞりと座り直すと、咳払いをひとつ落として頷く。


「……えー、それでは進めますね。災厄についてなんですが……ひとつ仮説を立てました。……姿を変えることができるのではないか……とね」




本日分の投稿です!

よろしくお願いします。


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