責任と葛藤の先には。⑤
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結局……というか、勿論、というか……。
シエリアは二つ返事で一緒に行くことを決めた。
彼はラウジャを含めた残り五人には自分で決めるようにと念を押したけど、誰も「行かない」とは言わない。
元々は巻き込まれただけの、グランに似た雰囲気のダンテですら当たり前のように行くことを選択したんだよな。
いつのまにか、立派なパーティーになっていたのである。
そうして俺たちは、翌朝にヤールウインドで飛び立つことになった。
まだ薄らと明るい空はこれからどんどん明るくなるはずだ。
そよそよと吹く柔らかな風が、俺たちの築いた拠点を抜けていく。
――見送りに来たのは、ここでの責任を全うするというトレージャーハンター協会のフィリー。
輸送龍たちと、その面倒を見ているカンナ。
ここに残るユーグルたち。
最後に、仲間を亡くしたという……あの少年だった。
「見てるからな、白薔薇」
そう言った少年の、苦悩と決意に満ちた表情。
俺は唇を引き結んで、精一杯の誠意を込めて頷いた。
『ピュウイ』
『ピューゥ』
「ありがとう。お前たちにも、たくさん助けてもらったな」
鳴き交わす黒い龍の巨大な鼻先を、ぽんぽんと撫でる。
彼らは、俺の腹に鼻を突き込んで……たぶん、別れを惜しんでくれた……んだと思う。
フェンが、彼らと鼻先をちょんと合わせ、頭を垂れる。
輸送龍たちは長い尾でフェンを一撫ですると、そっと送り出した。
「……よし。行くぞ、お前ら!」
『おぉっ!』
グランの声に、俺とボーザックが応え、俺たちは踵を返す。
ヤールウインドたちは既に待機していた。
グランとカムイ、ディティアとファルーアにフェン、俺とボーザックに分かれて、もふもふとした背に固定された寝袋のような筒に潜り込む。
シエリアたちもそれぞれがヤールウインドに乗ったようだ。
準備ができると、すぐに浮遊感があり、大きく円を描きながら高く高く上がっていくのがわかった。
「あ……ハルト!」
隣で頭を出していたボーザックが、身を乗り出して指差す。
「……あ」
思わず、声がこぼれた。
離れていく拠点の、築きあげた建物の外。
たくさんの『仲間』が、俺たちを見上げていたのだ。
『頼んだぞ』
『気を付けて!』
小さくだけど、激励の声が聞こえる。
胸が一杯になって、喉元が支えたような感覚になって……俺は。
ちょっと恥ずかしいことに、込み上げてくるものを感じ、ぎゅっと目を閉じた。
「――なあ、ボーザック」
「うん」
「俺たち、責任重大だな」
「……そうだね」
その光景を、目に焼き付けて。
朝特有のひんやりとした空気を、胸一杯に吸い込む。
俺たちは砂漠へと進路をとった。
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ここからはもう、ほとんど空の旅だった。
休憩を日に何度か挟み、また飛ぶ。
ヤールウインドは夜も飛ぶことができるが、ちゃんと眠らせる時間も確保した。
大事なときに倒れちゃっても困るしな。
ボーザックは空は平気らしく、酔わないでくれたのもありがたい。
……隣で吐かれたら最悪だ。
寝袋のような筒は、ふたり入れば少し狭いくらいの大きさで、今回はそれが二つ並べて取り付けられている。
体があまり動かせないってのはあるけど、固定具を装着しておけばとりあえず眠っても落ちることはない。
「なんか、俺たち最近歩いてないよねー」
ボーザックが言うので、俺は苦笑して返した。
「確かに。輸送龍かヤールウインドばっかりだったもんな」
「体が鈍ってたら嫌だなー。ねえハルト、いまできる筋トレってないかなー」
「いま? うーん……腕立てとか?」
「あー、確かに腕を伸ばしきるのは難しいけど、中途半端な感じにすれば……あっ、いい感じ!」
「えっ、そうか? ……う、おお……これ効くな!」
俺たちは体が鈍らないよう、あれやこれやと意見を出し合っては実行に移した。
砂漠までの旅路は、束の間の休息であり、同時に、嵐の前の静けさってやつだった。
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「見えたよ、ハルト」
ボーザックが隣で声を上げた。
眼を凝らすと、遠く、砂丘のようなものが見え始めている。
出発から一週間の空の旅が、ようやく終わりを告げる瞬間だ。
太陽はギラギラしているし、討伐が地下でよかったと思うべきだろう。
「まずは砂漠の部隊と合流しないとだな。爆風ももう来てるかも」
俺はそう言って、ぐんぐん近付いてくる砂漠から目を逸らさなかった。
責任は重い。
それでも、俺たちはやらなくちゃならないんだ。
知らず、俺はぎゅっと拳を握り締めていた。
26日分です!
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