責任と葛藤の先には。④
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カムイの話では、この界隈で動きのある災厄は、おそらくこの砂漠の個体で最後。
砂漠の下に広がる洞窟に眠らされていたそうだ。
実は、その実態がはっきりしていないらしく、カムイの説明はたどたどしかった。
「剣を持った巨人だとか、大きな獣だとか……龍だって話もあるんやでェ。どれが本当なのか、俺たちユーグルですらよくわからんのや……」
項垂れるカムイを責められるはずもなく、俺たちは気にするなと首を振る。
歴史が霞むほどに、長い年月が経っているってことだよな。
「仲間の話では、まだロディウルと爆風のガイルディア様は合流していないとのことです。私たちもすぐに合流し、作戦に加わりましょう」
セシリウルは話を引き継ぐと、手元のグラスを煽った。
「ぷはぁ……ッ。ここから砂漠までヤールウインドなら一週間程度でしょう。皆さんがよければ、明日には発ちます」
たん。
グラスを置き、口元を拭うセシリウル。
「なあ、美味そうに呑んでるが……それ、酒か?」
グランが聞くと、彼女は首を傾げた。
「……? 当然です。ほかになにかありますか?」
「そ、そうか」
「ああ、お飲みになられますか? すぐにグラスを……」
「いや、いい。今日は、大丈夫だ」
この状況で酒とは、さすがユーグル。
慌てふためき苦笑を返したグランに、俺はこっそり安堵した。
いま呑んだら、ファルーアが恐い。
酒ではなく、冷たい視線をグランに注ぐ彼女に、ディティアも身を固くしているほどだ。
「とりあえず、私たちはヤールウインドで一緒に移動できるということね?」
当のファルーアが軌道修正して、自分の皿を置きながら言った。
「せやなァ」
カムイが頷くと、ボーザックがその隣で、肉の塊を口に放り込んだ。
「んぐ。……ほかの部隊も、あとから移動させる予定だったけど……この状況だと厳しいよね」
……確かに。
俺も肉を口に運びながら頷いてみせる。
犠牲者は部隊の四分の一にもなっていて、少なからず、ここからすぐに出発できる状況ではない人は多い。
……柔らかく調理された肉は、本当に美味かった。
これが、勝利の余韻であればよかったのに、と……どうしても思ってしまう。
「そうだね。援軍は私たちだけだって伝えておかないと」
ディティアがそう言って、ふと手を止めた。
「カムイさん、セシリウルさん、ヤールウインドでは何人まで運べるんですか?」
「あァ、いまいるのは報せを持ってきた奴も含めて七頭やからなァ。全部で十三人、あとは食糧ってとこやでェ。俺らユーグルは、最悪俺とセシリウルだけでええ。そうすると、白薔薇で五人と一匹。あと六人はいけるなァ」
ディティアは少し考えると、俺の顔を覗き込んだ。
「……。ねぇ、ハルト君。王子様たちを連れて行かない?」
「えっ? シエリアたち?」
俺が驚いて口にすると、彼女は大真面目に頷く。
「うん。王子様たちは十分戦えるし、ヒーラーもいる。……砂漠の地下洞窟の広さはわからないけど……小回りが利くほうがいいんじゃないかなって思うの。私たちと一緒に、少数で動ける部隊が必要じゃないかな」
これに、グランが唸る。
「確かにな。……それに、討伐部隊には帝国からの参加者がいるはずだ。冒険者を好まねぇ奴もいるんだろうよ。こう言っちゃなんだが、信頼できる奴がほしい」
「そうだね……。俺としては、帝国でお世話になった『あのふたり』がいたとしても、いろいろとやりにくい気がするなぁ」
ボーザックは相変わらず肉を囓りながら応える。
『あのふたり』ってのは、たぶん、最初に爆風と一緒にいたふたり……ヒーラーのリューンと、獰猛な魔物のような黒鎧の男……ガルニアのことだろう。
うん。確かに、あのふたりだと心許ないな……。
いや、腕はいいんだろうけど。
俺は考えながら、少しだけ心配した。
「……シエリアは、暗殺されかけてたからな。未だにその任務を遂行している奴がいないとも限らないし……それはちょっと気になる」
「あ……そっか。そうだね」
ディティアが頷く。
すると、ファルーアがいつものように妖艶な笑みをこぼした。
「私はいいと思うわ、ハルト。王子様は、なかなか強か者よ?」
「え? なんのこと?」
思わず聞き返す。
「あぁ。お前らは災厄を誘き寄せに行ってたから知らねぇんだな。……実はな、シエリアと話す時間があったんだが、トレージャーハンター協会から、お達しを出してあるんだと」
グランが続けて、腕を組む。
「内容としては、『トレージャーハンター協会の若手筆頭だったサーディアスは謀反を働き投獄……彼の者からの依頼に関わり、ドゥールトラーテを合言葉にする者は、直ちに行為をやめるように』……ってな具合だ」
「しかも、その行為を行った者は問答無用で投獄されるし、その行為を止めた者には、シエリアからの褒賞が付くらしいよ」
ボーザックがにやりと笑った。
「わあ……なるほど。トレージャーハンター協会からの正式な指示として出したんだね……!」
ディティアが目を丸くする。
俺は感心しつつ、舌を巻いた。
あいつ、いつのまにかそんなことまでしてたんだな!
あえて『その行為』と言って『暗殺』って言葉を使っていないのなら、助けられるのは事情を知っている奴らだけだしな。
……褒賞付きってのはたぶん、シュレイスの指示だろう。
金に目がない奴だし。
「最後に決めるのはシエリアたちだ。……話をする価値はあるだろうよ」
グランはそう締め括って、デカい肉を一気に口に押し込んだ。
25日分です!
いつもありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします!




