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逆鱗のハルトⅡ  作者:
272/308

責任と葛藤の先には。②

【宣伝失礼します】逆鱗のハルト①は、本日9/21発売です。書き下ろしも入ってます!

そして、本日は発売記念で2本立てにします。

夜にもう1話更新します!

しかし。

彼の腕は、そのまま振り下ろされることはなかった。


「……やめましょう。そんなことしてもあなたにはなにも残りません」


ゆっくりと諭すように言いながら、少年が振り上げた拳を自分の手でやんわりと包むのは……肩に掛かる長さの金色の髪に、冷めた蒼い色をした三白眼の男。

……シエリアだ。


彼の濃い蒼の鎧が、松明に照らされて鈍く光っている。


気付けば、周りには多くの人が集まって、遠巻きにこっちを見ていた。

ちくちくする視線は、いつもとは違う。

困惑や悲しみ、もしかしたら怒りも含まれているのかもしれない。

彼らから見れば、この少年は自分自身の投影だろう。


俺たちが築いた作戦の拠点で、こんな話をしなければならないことが辛くなる。


でも、ここから逃げるわけにはいかないんだ。


「君は、お金を払えば引いてくれますか? 違いますよね。彼らが同じ目に遭うまでやるつもりですか? それも、違うはずです」


少年は、そう言って諭すシエリアを強引に振り払い、まるで威嚇でもするかのように咆えた。


「……なんだよお前ッ!」


「僕は、君の仲間であり、白薔薇の仲間です。今回の作戦において、多くの命が失われました。でもそれは、災厄を蘇らせた者のせいではないのですか?」


シエリアの口調は、最初に出会ったときと変わらず、おっとりしていた。

でも、その落ち着きは……俺たちの故郷であるアイシャのラナンクロスト……その王様を思い起こさせる。


これが王族ってやつなのかな……。

だとすれば、シエリアは王にはなれなくとも、王たる志を持っているんだろう。


少年が唇を噛み締める。

顔色は青いままだったけど、シエリアの言葉は届いたように見えた。


「……そんなこと、わかってんだよ……!」

少年が俯き、肩が震え、それでもきつく握られたままの拳は白くなっている。


――静寂。

松明の炎が爆ぜる音が、大きく、重くなったような錯覚を覚えて……俺は首を振った。


この静けさと、重たさを、少年に背負わせているような気がしたんだ。


「わかってる」ってのは本当だと思う。

でも、それでも……なにかしなきゃ耐えられないことがあるんだよな。


「シエリア」

「ハルト君……?」

「お前が言ってること、正しいと思う。はっきり言って、命がけの討伐だってことは皆が知っていたことだしさ。……でも」

俺は言いながら、痛む頬に触れた。


「やっぱり、仲間がいなくなるのは……キツくて、なにかしてないとつらいんだよな……」


その頭に手を伸ばし、ぽん、と載せる。

少年の肩が、びくりと跳ねた。


「俺は……白薔薇は、なにもできなかったんだ。近くにいたけど、駄目だった。謝ってどうにかなる話じゃないから、謝らない。俺たち白薔薇は、ほかの災厄を倒しに行くから……ここに留まることもしない」

「…………」

俺が続けても、俯いたまま、彼は黙っている。


皆が息を詰め、静かに聞いてくれているのが、背中越しに感じられた。

俺たちにできることなんて、ひとつしかないよな。


「だからひとつ、約束する。こんなことを起こした奴を、必ずなんとかする。……どうかな」

「……ッ」


少年が、顔を上げる。

目にはいっぱいの涙が溜まり、鼻水が垂れていた。


それを見て、なんていうか……安心したんだ。

大丈夫、彼の目は力強い光を宿している。

葛藤して、葛藤して、きっと打ち勝てるだろう、なんてさ。


震える拳が、ようやく解かれて。

少年は、たどたどしい言葉で、俺に言った。


「……な、仲間に……ちゃんと、誓え……仇を取るって、誓えッ! ……お、俺は、弱ぐて……役に、た、たでないがらッ……うぐっ」


ぼたぼたと、堰を切った雫たちが足下を濡らす。

俺は頷いて、好き放題に跳ねた少年の髪をぐりぐりとかき回した。


「任せろ。俺たちは白薔薇だぞ。彼の飛龍タイラントを屠りし英雄……ってのは大袈裟だけど、箔は付いてるだろ?」

「うっ、うえっ、えぇ……ぐすっ……」


少年の声が、嗚咽に変わる。

視線をシエリアに合わせ、俺が頷くと……なぜかシエリアまで涙ぐんでいた。


「……ハルト君……。やっぱり、君はすごいです……!」


いや、なんでお前がもらい泣きしてんだよ。


「……やばい。ハルト格好いいんだけど。俺、グッときた」

「全部持っていったわね」

ボーザックやファルーアが、茶化すようなことを言う。


……でも、その表情は引き締まっていて。

自分たちだって、やる気満々じゃないか。


「そんなわけだから、任せろ。……お前の勇気、がっつり効いたぞ」

グランが、俺と同じで少しだけ腫れた頬を指差す。


「……私も、全力で戦います」

疾風のディティアが、グランの向こう側で頼もしい言葉を口にした。


周りの空気が変わりつつあるのを、俺は感じとっていた。


ここまでこれたのは皆さまのおかげです。

どうぞよろしくお願いします。

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