虫けらを屠るには。④
――やばい!
そう思ったときには、遅かった。
カッ……!
白い光。
なにもかもを呑み込む痛いほど眩い光に、俺は腕で目を庇う。
音さえ呑まれたような……一瞬の静寂。
そして……。
ズゴオオオォォッ……ドゴオオォォンッ!
「うわあああぁぁッ!」
「キャアアァッ!」
爆風が巻き起こり、地面が揺れて土煙が広がっていく。
あちこちから悲鳴が轟くけど、それすら一瞬。
近くにいたメイジたちが、逃げようとしながらも次々と土煙に巻き込まれて、声は掻き消された。
俺は咄嗟にありったけの速さでバフを練り上げ、一気に広げる。
誰でもいい。
とにかく、できるだけ多くの人を……!
「肉体硬化! 肉体硬化……ッ、うぅっ!」
抗えないほどの、風……いや、空気の濁流が体を押し流す。
地面に張り付くようにして頭を庇ったけど、小石や砂、土が、体中にばちばちと叩きつけられた。
必死で土や草を掴むけど、駄目だ、流される……!
「……ッ、……!」
地面から体が浮いて、転がっていく。
ようやく止まったときには、激しい回転で頭が揺さぶられ、何度も地面に叩きつけられていて、立ち上がれそうになかった。
――やられた。完全に、これを狙っていたんだ。
アルバスがヤールウインドを連れていたのか……それとも、ユーグルに、裏切り者がいたのか。
わからない、わからないけど……。
視界が悪く前すら見えない状況で、俺は「楽しそうな笑い声」を聞いた。
「あはははっ! すごい、さすが災厄の破壊獣! ねえ、生きてる人たち、よかったね! あなたたちは虫けらじゃなかったんだ。だってあたしは『虫けらを屠る』ために爆発させたんだもの!」
ふざけるな、と。
土の味がする唇を噛み締める。
でも、声を出すことができなかった。
ぐらぐらと視界が揺れて、意識が掠れていく。
――皆、無事だろうか。
――誰ひとり、失っていないだろうか。
頭が、がんがんと殴られているみたいだ。
俺の意識は、そこでぷつりと途絶えた。
******
「状況は…………だ」
「……は、かなり……」
話し声がする。
グランとボーザックのものだ、と、ぼんやり思う。
「……くそ。厳しいな」
「医療物資もヒーラーも追い付かないんだって」
俺は、ゆっくり目を開けた。
見えたのは布張りの天井。……俺たち白薔薇のテントだ。
「かといって、ここにずっと留まるわけにはいかねぇ。砂漠の救援に向かわねぇと」
グランの声に、目だけを向ける。
彼らは向かい合って胡坐をかき、その間に地図を広げているようだ。
頭を突き合わせるようにして覗き込むふたりの影が、地図に薄らと落ちている。
その影と布越しの光から、どうやら夕方だとわかった。
ぼんやりと瞬きして、ふたりの会話を頭のなかで反芻した俺は……息を呑んだ。
なにが起こったのか、はっきりと思い出す。
「爆発……! グラン、ボーザック……被害は……?」
「起きたか、ハルト!」
「ハルト! ……大丈夫? 痛みは?」
グランとボーザックは俺に気付き、ぱっと顔を上げる。
なんとか両手を使って起き上がると、まだ頭がくらくらした。
「痛みは……ない、けど」
眉間を指で挟み、少しだけ目を閉じる。
「無理するなハルト。頭を打ったみてぇだからな」
グラントがそう言って、自分の頭をがしがしと掻く。
ボーザックはホッとしたような顔をしたけど、すぐに眉尻を下げて、手元に視線を落とした。
「えっとね、ハルト。実は、大きな被害が出ちゃったんだ」
「……!」
はっとして顔を上げた俺に、ボーザックは項垂れて続ける。
「その……メイジたちのなかに、命を……落とした人もいる。かなり大きな爆発だったから……ハルトはどこまで覚えてる?」
がつん、と。
頭を殴られたみたいだった。
いま、なんて言った?
命を……落とした?
「…………」
口を開いたけど、声は出てこない。
俺は乾いた唇を湿らせて、ギュッと目を閉じる。
「ファルーアとユーグルは無事で、俺たちも皆大丈夫だったんだけど……」
重々しく言い募るボーザック。
詳しく聞くためには、俺が先に話さなければならい気がした。
「アルバスが上空から魔法を放った。完全に盲点だった……。災厄の破壊獣ナディルアーダが爆発して、メイジたちが巻き込まれたんだ。……俺も一緒に吹っ飛ばされて、そのあと……アルバスの声を聞いた」
話すと、グランが顎髭を擦る。
「記憶はしっかりしてるようだな。……そのあと、アルバスはどこかへ飛んでいった。恐らくは砂漠の災厄のところだ」
「そうか……。それで、いまはどんな状況なんだ? その、どのくらいの被害が……?」
俺が捲したてると、グランは小さくため息を零して、ぽんと膝を打った。
「見たほうが早ぇからな。行くぞ……覚悟しとけよ」
俺はごくりと息を呑み込んで、そのあとに続いた。
本日分です!
よろしくお願いします。




