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逆鱗のハルトⅡ  作者:
269/308

虫けらを屠るには。④

――やばい!


そう思ったときには、遅かった。


カッ……!


白い光。

なにもかもを呑み込む痛いほど眩い光に、俺は腕で目を庇う。


音さえ呑まれたような……一瞬の静寂。


そして……。


ズゴオオオォォッ……ドゴオオォォンッ!


「うわあああぁぁッ!」

「キャアアァッ!」

爆風が巻き起こり、地面が揺れて土煙が広がっていく。

あちこちから悲鳴が轟くけど、それすら一瞬。


近くにいたメイジたちが、逃げようとしながらも次々と土煙に巻き込まれて、声は掻き消された。


俺は咄嗟にありったけの速さでバフを練り上げ、一気に広げる。


誰でもいい。

とにかく、できるだけ多くの人を……!


「肉体硬化! 肉体硬化……ッ、うぅっ!」

抗えないほどの、風……いや、空気の濁流が体を押し流す。


地面に張り付くようにして頭を庇ったけど、小石や砂、土が、体中にばちばちと叩きつけられた。


必死で土や草を掴むけど、駄目だ、流される……!


「……ッ、……!」

地面から体が浮いて、転がっていく。


ようやく止まったときには、激しい回転で頭が揺さぶられ、何度も地面に叩きつけられていて、立ち上がれそうになかった。


――やられた。完全に、これを狙っていたんだ。


アルバスがヤールウインドを連れていたのか……それとも、ユーグルに、裏切り者がいたのか。


わからない、わからないけど……。


視界が悪く前すら見えない状況で、俺は「楽しそうな笑い声」を聞いた。


「あはははっ! すごい、さすが災厄の破壊獣! ねえ、生きてる人たち、よかったね! あなたたちは虫けらじゃなかったんだ。だってあたしは『虫けらを屠る』ために爆発させたんだもの!」


ふざけるな、と。

土の味がする唇を噛み締める。


でも、声を出すことができなかった。

ぐらぐらと視界が揺れて、意識が掠れていく。


――皆、無事だろうか。

――誰ひとり、失っていないだろうか。


頭が、がんがんと殴られているみたいだ。


俺の意識は、そこでぷつりと途絶えた。


******


「状況は…………だ」

「……は、かなり……」

話し声がする。

グランとボーザックのものだ、と、ぼんやり思う。


「……くそ。厳しいな」

「医療物資もヒーラーも追い付かないんだって」


俺は、ゆっくり目を開けた。

見えたのは布張りの天井。……俺たち白薔薇のテントだ。


「かといって、ここにずっと留まるわけにはいかねぇ。砂漠の救援に向かわねぇと」

グランの声に、目だけを向ける。

彼らは向かい合って胡坐をかき、その間に地図を広げているようだ。


頭を突き合わせるようにして覗き込むふたりの影が、地図に薄らと落ちている。

その影と布越しの光から、どうやら夕方だとわかった。


ぼんやりと瞬きして、ふたりの会話を頭のなかで反芻した俺は……息を呑んだ。


なにが起こったのか、はっきりと思い出す。


「爆発……! グラン、ボーザック……被害は……?」

「起きたか、ハルト!」

「ハルト! ……大丈夫? 痛みは?」

グランとボーザックは俺に気付き、ぱっと顔を上げる。

なんとか両手を使って起き上がると、まだ頭がくらくらした。

「痛みは……ない、けど」

眉間を指で挟み、少しだけ目を閉じる。


「無理するなハルト。頭を打ったみてぇだからな」

グラントがそう言って、自分の頭をがしがしと掻く。


ボーザックはホッとしたような顔をしたけど、すぐに眉尻を下げて、手元に視線を落とした。

「えっとね、ハルト。実は、大きな被害が出ちゃったんだ」

「……!」

はっとして顔を上げた俺に、ボーザックは項垂れて続ける。

「その……メイジたちのなかに、命を……落とした人もいる。かなり大きな爆発だったから……ハルトはどこまで覚えてる?」


がつん、と。


頭を殴られたみたいだった。


いま、なんて言った?

命を……落とした?


「…………」

口を開いたけど、声は出てこない。

俺は乾いた唇を湿らせて、ギュッと目を閉じる。


「ファルーアとユーグルは無事で、俺たちも皆大丈夫だったんだけど……」

重々しく言い募るボーザック。


詳しく聞くためには、俺が先に話さなければならい気がした。


「アルバスが上空から魔法を放った。完全に盲点だった……。災厄の破壊獣ナディルアーダが爆発して、メイジたちが巻き込まれたんだ。……俺も一緒に吹っ飛ばされて、そのあと……アルバスの声を聞いた」

話すと、グランが顎髭を擦る。

「記憶はしっかりしてるようだな。……そのあと、アルバスはどこかへ飛んでいった。恐らくは砂漠の災厄のところだ」

「そうか……。それで、いまはどんな状況なんだ? その、どのくらいの被害が……?」


俺が捲したてると、グランは小さくため息を零して、ぽんと膝を打った。


「見たほうが早ぇからな。行くぞ……覚悟しとけよ」


俺はごくりと息を呑み込んで、そのあとに続いた。



本日分です!


よろしくお願いします。

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