虫けらを屠るには。②
◇◇◇
「おおおっらああぁッ!」
グランの強烈な一撃が、メイジらしき甲冑を捕らえた。
杖から放たれかけていた炎が、飛龍タイラントの角でできた大盾越しに、至近距離で弾ける。
炎が散り果てたあと、大盾に身を隠していたグランがにやりと笑った。
「……ッ、は、さすが龍の角だな! 炎くらいじゃなんともねぇか!」
そのとき、グランの横、ファルーアの放った炎の玉がすり抜けるようにして、甲冑の手元に炸裂。
ダァンッ!
派手な音がして、甲冑の手から杖が弾き飛ぶ。
「うおぉ!? ファルーア! 危ねぇだろ!」
「あら、炎くらいなんともないんでしょう?」
余裕そうなのは構わないけど……気が散るなぁ。
俺はふたりの会話を聞きながら、目の前の甲冑と組するボーザックを援護していた。
相手も大剣で、その斬り合いは恐ろしく迫力がある。
……甲冑を着込んでいるってのに、その動きは、やっぱり異常だ。
肉体強化しても拮抗する力に、改めて血結晶の効果を実感する。
「やあぁッ!」
ボーザックの一撃が、右下から左上へ白い線を描く。
甲冑は、大剣を振り下ろすことでこれに対抗。
鈍い音と共に刃がぶつかり、ふたりともが剣を弾かれ……いや。
ボーザックは、弾かれる前提だ。
瞬時に大剣の柄を逆手に持ち替えると、右回りにぐるりと体を回して、左から右へと剣を振り抜いた!
ガアァァンッ!
甲冑の右の脇腹に、強烈な一撃。
「ハルト!」
「任せとけ!」
蹌踉めく甲冑の、その隙を……逃すわけがない!
俺は体を低くして一気に距離を詰め、左手にバフを練り上げた。
「五感アップ! 五感アップ! はあぁッ!」
グワアァァンッ!
右の剣で繰り出す、兜への一撃。
聴覚も痛覚も上がった状態で、それは相当な衝撃となる。
甲冑が、ぐらりと傾いで……倒れた。
息を詰め、そいつが動かないことを確認すると、ボーザックは大剣をゆるりと下ろす。
「ふうー。よし、次行こう。逆鱗のハルト!」
「ああ。さっさと災厄まで行かないとな。不屈のボーザック!」
ガツンとお互いの右腕を交差させ、俺たちは次の目標へと走る。
……俺たち白薔薇は、甲冑の処理を受け持つことにしたんだ。
甲冑と対峙していた部隊を災厄へと向かわせ、予定通り配置に付いてもらうのだ。
落とし穴を囲むような配置は、すでに形になりつつある。
何度も爆発音はこだましているが、災厄は穴から這い上がれないのだろう。
アルバニアスフィーリアは結局見付けることができなかったんで、そっちの指揮はカムイたちユーグルに任せてある。
あの短時間だ、そんなに遠くには行っていないはずなのに……どこに行ったのか。
もしかしたら、俺とディティアに向けて矢を放っていたのはアルバスではなく、甲冑のうちのひとりで……本人はさっさと逃げたのかもしれないけど。
そう思いながらも、深く考えるだけの余裕はない。
ボーザックとふたりで次の甲冑を地面に叩きつけ、俺はぐるっとあたりを見回した。
少し離れた場所、吹き荒れる風が目に入る。
「……ふっ、は!」
ディティアはフェンと一緒に、甲冑相手に飛ぶように舞っていた。
連携は十分。
疾風のごとく双剣が閃いたと思ったら、背後から銀の風……フェンの体当たりが襲い掛かるのだ。
このふたりは本当に速い。
相手は長剣を持っていたが、一向に捉えきれなかった。
「あっちは大丈夫そうだねー」
ボーザックが苦笑いをこぼす。
「そうみたいだな。……甲冑はあらかた片付いたみたいだ」
応えて、俺は肩を竦めてみせる。
グランとファルーアの相手する甲冑と、ディティアの相手する甲冑……残りはそのふたり。
甲冑なんて着ていなかったら、実はもっと速かったりするんじゃないか? とは思うけど、脱ぐ余裕は相手にもなかったんだろうな。
「俺は災厄のほうに行ってバフかけてくる。あっちは頼んだ」
俺が言うと、ボーザックは大きく頷いて、グランのほうを見た。
「わかった。……気を付けてね、ハルト」
「おう」
踵を返し、地面を蹴って駆け出す。
見上げれば、上空にはユーグルたちがヤールウインドに乗ってくるくると飛び交い、様子を見てくれているのが見える。
冒険者とトレージャーハンターたちは数組に分かれ、災厄の爆弾が届かない距離に、ほぼ等間隔で並んでいた。
怪我人も十人ほどいたけど、ヒーラーたちのお陰でなんとか戦闘不能者は出さずに済んだ。
あれだけの強さの甲冑と対峙してこれなら、上々だろう。
そのなか、金色の髪に白いマント、青い鎧を纏った男を見付けて、俺は彼の名前を口にする。
「シエリア!」
「ハルト君! よかった、怪我はないですか?」
「ああ、大丈夫!」
振り返った三白眼のシエリアは、その隣にいた大きな女性とともにこっちにやって来た。
その大柄な女性は勿論、雄姿のラウジャだ。
「そっちは上手くいったようだね」
豪快に笑う歴戦の猛者は、小さめの戦斧をぐるんと回して言う。
俺はしっかりと頷きを返し、言葉を紡いだ。
「ああ、勿論。……それじゃあ、こっちも災厄の討伐といこうか!」
言いながら、手の上にバフを広げていく。
この作戦で重要な位置を任せるのは、メイジたちである。
……だから、必要なのは……。
「いくぞ! 威力アップ、持久力アップ!」
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