表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルトⅡ  作者:
262/308

進む先に見えるもの。③

翌日の早朝。

まだ平原は薄ら暗く、ただでさえ静かな空間がぞくりとする存在感を持っていた。


――嫌な予感がする。


グランの言葉通りなのか、不穏な空気が肌に纏わり付いてくる。

俺は頭を振って、弱気になるなと自分に言い聞かせ、輸送龍に向き直った。

「……頼むな」

輸送龍の首を撫でて言うと、彼らは『ピュウイ』と応え、鼻息を荒らげる。


うん、よかった。こいつらのやる気は十分みたいだな。


「ディティアはいけそうか?」

「うん。準備万端!」


シャアンッ


いつもの澄んだ音を響かせて双剣を抜き放ち、一度くるりと回して再び刃を収めた彼女は、「ほらね」と微笑んでくれた。


……準備万端。


その言葉に、ちょっとだけほっとする。


「準備はええかァ?」

カムイとセシリウルがこちらにやって来たのはそのときで、俺たちは頷き合って答えた。

「おう。行けるよ」

「大丈夫です」


彼らはいつも俺たちがするように、拳を差し出す。

「おぉしっ、やったるでェ!」

「ご武運を。援護は任せてください」


「ああ、頼んだ。カムイ、セシリウル」

「お願いします」


俺たちの拳も突き合わせ、お互いしっかりと視線を交わし、頷く。


災厄の破壊獣ナディルアーダ討伐、その根幹の作戦が始まった。


******


平原に日が昇る時間はもうすぐだと、明るくなりつつある東の空が語る。

深い緑の翼を広げたヤールウインドが、空気を切り裂くように飛んでいくのがよく見える。


その景色のなかでぼんやりと黄緑色に発光する物体が、巨大な苔玉であることはすぐにわかった。


「あれが、災厄の破壊獣……」

流れていく風の音に混ざり、ディティアの声が微かに耳に届く。


待機させる四頭の輸送龍を確認して、俺は手の上にバフを練り上げた。


「……行くぞディティア! 反応速度アップ、速度アップ、肉体硬化!」

自分たちを包むバフを感じながら、俺は双剣を抜き放つ。


瞬間、俺たちの左手……東の空から、黄金の光が広がり始めた。

命が目覚める、その力強い輝き。


夜明けの境界線が、俺たちを照らし出す。


「災厄の速さを確認して、厳しそうなら輸送龍にもバフ食わせる。無理はするなよ!」

「わかった。……行きましょう、逆鱗のハルト!」

「おおっ!」


速度を上げていく黒い龍。

吹き抜けるのは疾風。

輝きを反射させて煌めく彼女の双剣は、神々しいほどで。


それどころじゃないけど――見とれた。


「はあぁッ!」

気合一閃。

左手は手綱を握ったまま、彼女の右手の刃が閃いて、苔玉に沈む。


ボ、ボンッ


間髪入れず、彼女が切り裂いたあたりから、丸い玉が飛び出す。

「……爆弾だ!」


援護すべく、彼女の少し後ろを走っていた俺は、駆け抜けながら確認する。

色は黄色っぽく、そのまま地面にぼとりと落ちたそれに爆発の気配はない。


たぶん、紅っぽくなったら爆発するんだろう。

爆風と最初に目撃したときのことを思い出し、唇を引き結ぶ。


ディティアは輸送龍を旋回させた。


「……手応えがあんまりなかった。ハルト君、脚力アップを」

「わかった。脚力アップ!」


大きな声で言葉を交わしてから、ディティアは輸送龍になにかを囁いたように見えた。


『ピュルルッ』

応えた輸送龍は、再び苔玉へと進路を取る。


「……はッ!」

「って、おい!?」


ディティアが、輸送龍の背から踏み切って災厄へと跳び乗る。

苔玉に向かって振り上げた双剣が、勢いそのままに深々と苔に突き刺さって――再び爆弾が飛び出した。


「ディティア!」

「――ふ!」


ディティアは災厄に乗ったまま、その苔玉を素速く抜いた剣で地面へと叩き落とし、その背で再び斬り付ける。


転がる苔玉がどんどん増えていき、それは橙色へと変化。

焦ったままはらはらと見守っていると、彼女は声を上げた。


「お願い!」

『ピュウゥイッ!』


ディティアの乗っていた輸送龍が、災厄の元へと駆け抜けていく。

「……っと!」

ディティアは軽々とその背に飛び降りて、すぐに体勢を整える。


か、簡単そうにやってるけど……かなりの速さだぞ……!


「無理はするなって言ったのに……。ディティア! 爆弾が紅くなってきた! 一旦離れよう!」

思わずぼやいてから、声をかける。


彼女は輸送龍の上でこっちに右手を上げてみせ、災厄から距離を取った。


そして。


ドゴオオオンッ!


派手な音をたて、爆弾が弾けた。

誘爆したのか、溜まった爆弾は次々と弾け飛び、熱と光を放射する。


もうもうと噴煙が上がり、ぼんやりと光っていた災厄が完全に見えなくなった。


……どうだ、動いたか……?


俺たちは輸送龍を寄せ、その脚を止める。

眼を凝らし、耳を澄ませ、気配を探る。


……ミチリ、と。


なにかが軋む音がした。



寝落ちしてしまいました……

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ