表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルトⅡ  作者:
260/308

進む先に見えるもの。①

******


災厄の話をしよう。

彼の破壊獣は、硬くなった皮膚にが苔が生えた異形の獣だった。


魔力を吸う苔は、己を守る武器であり、同時に盾である。

弾き出せば爆弾となり、叩かれれば衝撃を吸収する鎧となった。


もとは人間だというが、そんなのは遠い昔のことだ。

魔力の枯渇による暴走から、己が生贄となり同化し、最後は山の奥深く……地の底と思われるような暗い場所で、眠りについた。


長い長い年月が経ち、己が何者かということも忘れかけたそのとき、災厄は自身を呼ぶ声を聞く。


そうして、贄を食し、贄と同化し――己が主のために災厄は目覚めた。


――楽しみだな、と。主は笑う。


そう、楽しみだ。

今は待つ。

ただ、ときを待つ。


******


災厄討伐のため、出発するときがきた。


「逆鱗のハルト、疾風のディティア。……頼んだぞ」

グランに言われて、俺はぐっと拳を握る。


――災厄の破壊獣の誘導を行うのは、俺とディティア、そしてユーグルたちだ。

当然、俺はバフ要員。


ディティアは、最終的に穴まで災厄を連れて行く役目を担っている。


実は、輸送龍はその速さゆえに急に曲がることができない。

そのため、細かい調整は、彼女が行わねばならないのだ。

俺たちのなかで、疾風のディティアが最速なのはわかりきっていた……だから、彼女は引き受けた。


それを痛いほどに感じるから、俺も頑張らないと……って、そう思ったんだ。


そんな俺を見て、グランが手のひらを上にして、人差し指でちょいちょいと呼ぶ。


「なに……うわっ」

近寄ると、そのまま首に腕を回され、がっちりと固められた。

ひんやりとした篭手部分が肌に触れている。


「ハルト。いいか、よく聞け。――はっきりとはわからねぇが、嫌な予感がする。順調にいきすぎてるからかもしれねぇが……。お前は、お前の大切な存在を守れ。わかったな」

「……え?」

なんだよ、と言いかける俺の耳に届いたのは、ディティアに聞こえないくらいの小さな囁き。

グランの声は低く、真剣で……俺は間抜けな返事しかできなかった。

「――行ってこい」

「いッ……て!」

グランは俺の背中をバチンと叩くと、解放する。


「気を付けて行くのよ、ハルト」

「こっちは任せてといてー」

その間、ディティアと話していたファルーアとボーザックは、口元に小さな笑みだけを浮かべ、頷いた。


……嫌な予感がするっていうのを、もうグランから聞いていたんだろう。


そんなこと知ったら、ディティアが不安になるかもしれない。

災厄を御さねばならない彼女に、心配事を増やさないよう……それを、彼らは俺に託したんだ。


すると、珍しく俺の足下にフェンがするり、と寄ってきた。

「フェン」

「…………」

フェンは聡明な蒼い月の色をした眼で、俺をじっと見詰めると、いつものように尻尾で俺の足を叩く。

……しっかりするように、と、念を押されている気がした。


だから、三人と一匹に伝わるよう、しっかりと頷いてみせる。


「……じゃあ行ってくるな。行こう、ディティア」

「うん。……いってきます皆!」


俺たちは輸送龍のところへ移動する。


グランたち以外、見送りはいない。

ユーグルたちは先に飛んでいるし、ほかの皆も持ち場に付いているからだ。


「頑張ろうね、ハルト君」

「おう」

差し出された彼女の小さな左の拳に、俺は笑って自分の拳を軽くぶつけた。

手首に揺れるブレスレットが、陽の光をちらりと控えめに返す。


ディティアは嬉しそうに笑うと、輸送龍の鐙に足をかけ、一気に跨がった。


それを見て、いま言おうと決め、俺は言葉を紡いだ。


「……ディティア、ごめんな」

「えっ?」

「本当はお前に任せきりなのは、ちょっと情けないって思う」

彼女と同じように輸送龍に跨がると、彼女の驚いた顔が目に入る。

「……あれ。驚くようなこと言ったか?」

「わ、そ、そうじゃなくて! あっ、そうなんだけど!」

俺が思わず苦笑すると、ディティアは大慌てで首を振る。

濃茶の髪がふわふわと舞い踊った。


「……ええと、ね。任せきりだなんて、全然思ってなくて。……その、私は私でやることがあって、ハルト君はハルト君でバフがある。グランさんたちは残りの部隊をそれぞれ率いてるし……だから、ね? 皆で戦ってるんじゃないかな?」

小首を傾げ、ちょっとだけ困った顔をしている彼女に、俺は気持ちが温かくなるのを感じた。


「そっか……ディティアがそう思ってくれてるならよかった。……でもやっぱり」

俺は、ディティアを危険に晒すようなこと、したくない。


言いかけた言葉を、呑み込む。


それはきっと、ディティアにとっても同じなんだよな。

俺もディティアも、同じようにお互いを守りたいと思っているってことで……それは、すごく大切な……。


「……?」

瞬きをして、不思議そうに言葉を待っている彼女に、俺は目を向けた。

きらきらと輝くエメラルドグリーンの眼が、俺を捉える。


……大切、な、存在。


「…………」

なんだろう。急に胸が熱くなって、俺は思いきり息を吸った。


「ハルト君?」

黙った俺を変に思ったのか、ディティアが呼ぶ。


「あ、うん。……成功させなきゃなってさ」

俺は笑い返して、そっと息を吐く。


グランに言われた内容を……いまさらになって、ちょっとだけ意識してしまったらしい。


いざというとき、俺が彼女を守れるようにしよう。

俺はひとりで頷いて、輸送龍の歩みを開始させた。


******


28日分です。

いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ