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逆鱗のハルトⅡ  作者:
259/308

作戦は迅速に。⑤

******


輸送龍を引き連れて戻った俺たちを、カンナが珍しく興奮気味に出迎えた。

よっぽど嬉しかったのか、あれこれと話しながらせっせと個々の体調を確認し始めた彼女に、思わず笑ってしまうほど。


黒く艶めく美しい黒龍は、満更でもなさそうだ。


これで輸送龍は十二頭……災厄討伐に向け、幸先のいい一歩であった。


******


それから約一カ月をかけ、俺たちは拠点をがっつりと造り上げた。

兵舎、食糧庫、水場などなど、ちょっとした村並みだ。

トレージャーハンター協会のフィリーが先導し、なんと男女別の浴場まで作られたほどである。


いや、ありがたいんだけどさ。


食糧や水は馬車たちが王都を往き来して運んでくれることになっていて、後続隊が順次出発してくれているそうだ。


アルバニアスフィーリア……アルとその騎士団たちは拠点の周りを警備してくれており、適材適所での作業ができている……と思う。

驚いたことに、アルは弓の扱いに長けていて、魔物の襲撃に備えた見張り台の上で眼を凝らしている姿を何度も見かけた。

……あとは、騎士たちが甲冑を脱いでいるところを誰も見たことがないってのが、ちょっとした噂になってて面白いんだよなあ。


兜すら脱がないらしいけど、実は脱いでいても誰も気付かないだけじゃないか?


そして、ソードラ王都からの歩兵隊、自由国家カサンドラからの別部隊も合流。

拠点は一気に賑やかになる。

もちろん、ドーン王国の第七王子であるシエリアやその仲間たちも無事だ。


――そんななか、俺たち白薔薇は自分たちのテントに集まっていた。

昼飯を終え、少しの間、休憩時間があったのだ。


「穴掘りさえすんじまえば、あとは実行あるのみだ」

グランが、円を描いて座る俺たちの真ん中に置かれた地図を見下ろして言う。


「そうだねー。まだ災厄が動いてないのは気になるけど」

ボーザックが言いながら、隣に寝そべっているフェンの頭を撫でた。


「穴掘りは順調よ。崩落もないし、あと二日もあれば目的の大きさになるわ」

指揮を執っているファルーアがふふ、と妖艶な笑みをこぼす。


ちなみに、穴はここから半日程度の距離に掘られているので、ファルーアが拠点にいないことは多い。ゆっくり話すのはなんだかんだ久しぶりなんだよな。


「じゃああとは……災厄を連れてくるだけだね」

「ああ。輸送龍は増えたけど、連れてくる方法もちゃんと決めておかないとな」

頷くディティアに俺が応えると、誰からともなく沈黙が降りた。


……そうか。

俺たち、また災厄と戦うんだな……。


俺たちの故郷とも言えるアイシャで、大地に鎖で繋がれ、埋められていた黒い龍を思い出す。


あのとき、俺たちは満身創痍だった。

――今回はどうだろうか。


災厄を起こして、ドゥールトラーテとかいう魔法都市国家を蘇らせようとしていたサーディアス……トレージャーハンター協会の若手筆頭とまで言われていた男は……もうなにもできないだろう。

あとは、まだ見付けられてすらない、黒幕と思しきアルバスという男だけ。


早いところそいつも見付けて、終わらせたいと思った。


そこで沈黙を破ったのは、俺たちのリーダー。

紅髪紅眼の巨躯の、厳つい男だ。

胸を張るように大きく息を吸い、彼は俺たちをぐるりと見回した。


「俺たちは、やれる」


放たれた言葉は、力強く……胸の奥から熱くさせるような音。


「なんたって、彼の飛龍タイラントを屠ってるんだからな」

彼が持ち出したのは、俺たちがアイシャを回るきっかけとなった大規模討伐の対象だ。


グランは顎髭を擦り、にやりと不敵な笑みを浮かべる。


「俺たちは強くなった。これからもっと強くなる。そのためにはこの作戦を迅速に終わらせて、次の冒険に出ねぇとな」


「……そうね。まだトールシャの端っこしか見ていないんだもの」

応えたファルーアは、金色に輝く龍眼の結晶をそっと指先でなぞった。


「せっかくだからさー、美味しい食べ物があるところがいいよね」

ボーザックが戯けてみせて、フェンがふす、と鳴く。


俺の隣で、ディティアがくすくすと柔らかい笑顔をこぼした。

「うん。……まだまだ、これからやりたいことたくさんだね」


「そうだな。……はは、行き当たりばったりっぽいのも俺たち白薔薇らしいな!」


笑った俺に、皆も笑い出す。


ひとしきり笑うと、グランはそのゴツくて大きな手で、膝をばん、と叩いた。


「そうと決まりゃ、行動あるのみってな!」



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