作戦は迅速に。③
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アルとフィリーのお陰で、準備にはそう苦労はしなかった。
出発までの三日間のうちに、集まったトレージャーハンターたちにも自己紹介を済ませ、念のため裏ハンターであることも先に伝えておく。
これは『なにかあれば、裁けるぞ』という牽制になるという、トレイユ支部長からの助言だ。
それだけでなく、支部長は残念な報せもくれた。
最初に災厄の破壊獣のことを教えてくれた、俺と爆風が戦って連れ帰ってきた男……トレイユが壊滅したとき、一緒に城に避難してきたはずなのだが、ここ数日見ていないらしい。
紅い粉……血結晶を呑み、おかしくなっていた男のことだ。
「回復に向かっていたから大丈夫だと信じたいですが……申し訳ありません」と、支部長は項垂れていたけど、それはどうしようもなかっただろう。
俺は首を振って、支部長に応えた。
「自分のやったことが恐くなったのかもしれない。……大丈夫。どこかでやり直そうとしてるんだ……きっと」
◇◇◇
そうは言っても、急に知らない奴の下に付くのが嫌な奴もいる。
当然、実力が知りたいなんて言ってきた輩がいたんだけど、ディティアが模擬戦を申し込み、問答無用で叩きのめした。
やれることなら俺がやってやりたいんだけど……勝てなかったら残念すぎるしなあ。
――情けない限りである。
ちなみに、差別的な発言をする奴もいたけど、そいつにはさらにきつい制裁が待っていた。
「アイシャだからと馬鹿にしたのに、簡単に負けたわね。恥ずかしくないのかしら? 私、同じトールシャの人間として恥ずかしいわ。……ほかにも誇示したいお馬鹿さんはいるの?」
無様に地に這った相手を見下ろして冷たく言い放つのはファルーアではなく、フィリーだ。
彼女は仕事ができるだけではなく、どうやら男性からの人気も厚いらしい。
歓声すら聞こえたので、俺はげんなりした。
罵られて歓声上げるとか、意味がわからない。
「ますますファルー……もが」
思わず呟くと、横からグランのでかい左手が俺の口を塞いだ。
「黙っとけ。ああいうのは、とばっちりを受けた奴が一番損するようにできてんだよ」
「もが……」
俺は数回頷いて、小さく両手をあげる。
――グランの向こう側で、ファルーアがにっこりと微笑んだのが見えた。
とばっちりを受けた奴が一番損をする……これは本当だと思う。
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出発日。
ユーグルの偵察隊が代わる代わる報告に来るので、災厄の様子はちゃんとわかっていた。
……やはり、未だ動きがないようだ。
その途中、平原に輸送龍がいることも確認できたので、カンナは胸を撫で下ろしていた。
街外れの広場には、列を成したトレージャーハンターたちと資材や食糧を積んだ馬車、馬。
そして、はしゃいでいるアルと、さらに列なる甲冑……。
「まさか城の騎士がアルの手配した人だとは思わなかったよ」
俺が苦笑すると、隣にいたボーザックがからからと笑った。
「本当だよね。アルもなんだかんだ味方になってくれる騎士がいるなら安心かもしれないね」
そこに、部隊の確認をしていたディティアが戻ってくる。
「こっちは準備できたみたい。グランさんたちは?」
「お疲れ。グランとファルーアはまだ荷物の確認みたいだ」
俺のすぐ後ろでは、フェンが輸送龍のそばに座っていた。
カンナは鞍や鐙の状態を確かめている。
「拠点までは三週間程度。馬車隊は白薔薇と一緒に先に行きます。歩兵隊は無理のないように」
フィリーが坦々と説明している間に、グランたちが戻ってきた。
こっちも問題ないようだ。
カムイとセシリウルは、ヤールウインドに乗ってすでに空を旋回。
先行する俺たちの先導役である。
「よぉし! 出発するぞー!」
グランが指揮を執る。
……俺たちは、災厄の破壊獣ナディルアーダ討伐へと出発した。
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輸送龍の背に乗るのは俺たち白薔薇とカンナだ。
自由国家カサンドラからソードラ王国に移動してきたときと同じ振り分けである。
「精神安定!」
「ありがとーハルト」
今日は最初からボーザックにバフを。
さすがに輸送龍に跳ばれたら困るからな……。
俺たち白薔薇全員には五感アップをかけ、警戒しながら進む。
なにせ今回は馬車が一緒だ。資材は守らねばならない。
拠点を築く場所までの道程は、最短距離であれば平原を突っ切ることになる。
けれど、途中までは街道を進んで、そこから平原へと道を逸れる予定だ。
足場の悪い平原を長く進むよりは速いはずだからな。
空は快晴、後ろに続く馬車も順調そうだった。
なにもなければ長閑な旅路なんだろうな……と思いながら、あたりに気を配っておく。
俺たちは迅速に、かつ、慎重に……街道を進んだ。
本日分でした!
今更ですが、トレージャーハンターは本来間違っていて、正しいのはトレジャーハンター。
気にされている方も多いかと!
いつもありがとうございます!
よろしくお願いします。




