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逆鱗のハルトⅡ  作者:
254/308

王を冠するもの。⑧

◇◇◇


少女は、ひとりだった。

「あたしはアルバニアスフィーリア。アルって呼んでよ」

にやにやとしたまま、さっさとそう言って……彼女はカムイとセシリウルの間にちょこんと座る。


寝そべっていたフェンが、ふす……と鼻を鳴らすのが聞こえた。


……紅髪紅眼。見た目は優しそうだけど、話し方は快活。

短く切られた髪のせいか、ともすれば少年のようでもある。

俺よりも頭ひとつ分は低い背で、細い体付きだった。

纏うのは黒い……たぶん、ドレス。……装飾がほとんどない、普段着のような気もするものだ。


「アルバニアスフィーリア様、どうしてここに?」

セシリウルは彼女を知っているらしい。

カムイも無言ではあるが、口を挟まないところを見るに知っているんだろう。


「どうもこうも、あたしオウサマの代わりだもん。今日はその話をしにきたんだよ、セシリウル」

アルはそう答えて楽しそうにお茶を淹れた。


「代わり……とは」

セシリウルが尚も続けると、アルは優雅とは程遠い動作でお茶をがぶりと飲んだ。


「やだなあ。最初に会ったとき、話したよね。もともと、災厄を鎮めるための代わりとして城に連れて来られたんだって。だからオウサマが雲隠れしちゃった代わりに、あたしが来たってわけ」


セシリウルは露骨に顔を顰めた。

……当然だ。アルと名乗る少女は、自分が生贄になるためにここに来たと言っているのだから。


「そんなわけだから、ちゃっちゃとやろう。あたしが災厄を鎮めるんで、ユーグルからは生贄は出ないし。白薔薇ってあんたたちだよね? その間に煮るなり焼くなりしてくれる?」

「ちょっと待ちなさい…………ええと、アル。あなたは、お姫様だということ?」

話があまりに読めず、ファルーアが聞いてくれる。

その向こうで、グランが眼を閉じて髭を擦っていた。


「んー、正確には違う。所謂、妾の子供ってやつ? 何年も前のある日、突然城に連れて来られたんだ。今のオウサマって、前のオウサマが突然死んでオウサマになったんだけどさ、災厄が恐くて自分の代わりを捜してたんだって。平和なあいだはずっと好き勝手させてもらえてたんだけど、今回は城に軟禁状態だよー」


けらけらと笑い飛ばしながら、アルはなんでもないことのように言い切った。

セシリウルが、困ったような怒ったような、複雑な感情を顔に滲ませている。


アルはそれを見てどう思ったのか、小首を傾げてみせた。

「災厄の知識は全部もらったよ? だから大丈夫」

さらにはそう言い切って、また楽しそうにお茶を淹れている。


「――悪いが嬢ちゃん、災厄は狩らせてもらう。鎮める必要はねぇから大人しくしてていいぞ」

グランがようやく目を開けて言うけど、アルはにやにやと頬を緩ませた。


「……そんなこと言わせないよ? 仲間を集めているんでしょう? ふふふ、あたしのほうで集めておいてあげたから感謝してよ。つまり、あたしを連れていかないと、彼らも来ない」

「え……? 集めておいたって……どういうことですか」

セシリウルが慌てたように聞き返すと、彼女は右手の人差し指を立てる。


「ソードラ王都のトレージャーハンター協会が、いま三十人くらい集めてるって聞いてねー。あたしは二十人くらいを手配できてるよ」


……自由国家カサンドラから向かっている部隊は、四十人弱のはずだ。

そうすると、アルの言った人数を合わせれば、マルレイユ会長の宣言通り百人ほど集まることになる。


これも協会とユーグルの根回しなのか?

……いや、セシリウルの反応を見るに、ユーグルは関わってなさそうだ。


「へぇ……アルって人脈あるんだねー?」

ボーザックが感心したように呟くと、アルは薄い胸を張った。


「まあね。それで? 追加の人員はいつ来るのかな。作戦は?」


――困ったな。完全に、アルに主導権を握られてるぞ。


俺たち白薔薇は顔を見合わせて、どうしようかと首を捻る。


アルは生贄になることが楽しみだとでも言いたげで、腑に落ちない。

それが、生まれはともかく、彼女が『王を冠するもの』だからなのか……ただ感情が欠落しているのか、わからなかった。


そこで、見かねたのか黙っていたカムイがため息をこぼした。

「……はァ。おう、アルよォ。まァなんだ。俺らは災厄を倒すんや、生贄は必要あらへんでェ」

「そうですね。ですから、そんなに軽々しく鎮めるなどと言うものではありません。あなたは物事を簡単に考えすぎです」

セシリウルも助け船を出すけど……俺は思わず、さっきまで喧嘩していたのはどこのどいつだよ、と心の中で突っ込んだ。


ディティアが苦笑している。


「……とりあえずよォ、白薔薇。作戦はあるのかァ?」

肩の高さで両手をひらひらさせ、カムイがため息を重ねる。


まあ、当然、道中で話はまとめてあるんだけどな。


……シエリアやラウジャを含めた追加の人員は、馬車や馬で直接トレイユに向かっている。

そうすると、あと一カ月程度で到着だ。


――それまでにやることは当然あるわけで。


「……グラン」

俺が呼ぶと、俺たち白薔薇のリーダーは肩を竦めて、作戦を話し出した。



いつもありがとうございます。

先週あまり投稿できませんでしたので!


よろしくお願いします。

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