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逆鱗のハルトⅡ  作者:
252/308

王を冠するもの。⑥

人混みをかき分けるようにして、頭に包帯を巻き付けた男性がこっちへ向かってくる。


口髭を生やした、人のよさそうなおじさん……といった風貌だけど、顔色はかなり悪かった。


「支部長……!」

思わず、輸送龍の上から声をかける。


彼はトレージャーハンター協会トレイユ支部の支部長で、俺に裏ハンターの証としてペールの種をくれた、裏ハンター審査官だ。


よかった……避難してたんだな。


支部長は俺たちのもとまでやってくると、両膝に手を突いて体を屈め、肩で息をした。


「だ、大丈夫ですか!?」

しんどそうな動作にディティアが慌てて近くに寄ると、彼は「失礼しました、大丈夫です」と片手を上げ、どこかぎこちなく微笑む。


頭に巻かれた包帯は赤黒く染まっていて、もしかしたら貧血気味なのかもしれないな……と思い当たった。

あまり無理をさせないほうがよさそうだ。


「トレイユ支部長……いま、なんと?」

村の人たちは、どうやら支部長を知っているらしい。

さっきまで眉をひそめていた男性もようやく表情を和らげ、質問を投げた。


「白薔薇は、彼の飛龍タイラントを屠った冒険者です」

きっぱりと告げる支部長に、俺たちを眺めていた人々がざわりと動く。

カンナも一緒になって身動いだから、俺は苦笑した。


そういえば、話してなかったかも。

なんていうか、この感じは久しぶりだ。


好奇心と、一抹の不安を孕んだ期待の眼差し。

俺たちを認識した人々の囁き声が重なって、風が吹き抜けるようなさわさわとした空気の流れが生まれる。


「……あなたたちが、討伐部隊を率いてくれるのですね」

念を押すように、人々を安心させるように、支部長が興奮した声で言う。


俺がグランを見ると、紅髪紅眼の大男は、ゆっくりと集まった人々を見回した。


「おう。俺たち白薔薇が、共に戦う。……ただし、災厄は決して弱くねぇ。俺たちは自分の命で手一杯かもしれねぇ。――危険な討伐になるのは間違いない。参加するかどうかは自分で決めてくれ」


息を呑む気配が、そこかしこで滲む。


きっぱりと、任せておけと言えないのは情けないかもしれない。

呆れた人、落胆する人もいるだろう。


それでも、嘘はつけなかったんだ。


支部長は微笑んだまま、何度も頷いた。

「そうですね。トレージャーハンターは、いつでも危険と隣り合わせです。冒険者も同じ。自分の行動は、自分で責任を取ればいい」


「ええ。そうしてもらわないと困るわ。……あなたも、無理はしないでもらいたいわね。座りましょう」

ファルーアが、左腰に手を当て、右手で龍眼の結晶の杖をくるりと回す。


支部長は苦笑すると、その場に腰を下ろし、細く息を吐き出した。

「……私の怪我はマシなほうで、重傷の人たちが城内に保護されています。ここにいるのは比較的動ける者たちばかり。できることといえば、災厄の情報を渡すことくらいです」


「なら、俺たちはそれを聞かないとねー。……カンナの村の人も、ほかの輸送龍がどうしてるかわかれば教えてくれる?」

ボーザックがそれに応え、村人たちへと視線を向ける。


人懐っこい笑顔を向けられた村人は、目をぱちぱちさせた。


「あ、ああ。……輸送龍は扉を開け放って草原に……災厄とやらからは、多少距離を置いているとは思う」


答えた男性に、カンナが頷く。

俺の乗る輸送龍も首を上下させ、前脚で地面を掻いた。


……早く行きたいよな。

偵察のユーグルにも聞いてみたらいいかもしれない。


支部長はそれを見届けてから、手短に話し出した。


******


山脈にある洞窟に災厄を閉じ込め、俺と爆風が出発してから約一カ月ほど。

俺たちが自由国家カサンドラ首都に辿り着いた頃、突然、大きな揺れが町を襲った。


ほどなくして山脈の中腹での爆発と、噴煙。


騒然とするトレイユの町で、支部長は直ちに原因の調査をするための部隊を編成し、避難の準備をするよう町に掛け合った。


このときは、まだ山脈での爆発だけだったから……町の人もそこまで心配していなかったらしい。


ところが、そこから半日ほどで、調査隊から異形の魔物が確認されたと報告があがる。


それは、光る苔の山を背負った平たい岩盤のような形で、獣の頭を持つという。

ネズミの尾のような、肌が露出した形の脚が無数に生え、百足のように波打たせながら動いていたとのこと。


トレイユへと向かっていることがわかり、馬を必死に走らせてきたそうだが……既に災厄の破壊獣はペールの果樹園へと侵入。


大きな爆発が町を襲い、逃げだそうとする人々で町は大混乱に陥った。

その課程で起きた二次災害も多かったらしい。


トレージャーハンター協会で働く、受付のおばちゃん……よく喋る、頭の天辺で黒髪を大きな団子にした恰幅のいい女性だ……は、仲間を引き連れて討伐に乗り出したあと、連絡が付いていないそうだ。

……人々の避難とともに撤退していればいいのですが、と……支部長は肩を落とす。


彼は町の人々の避難を手伝い、炎上する町を奔走しているときに爆発に巻き込まれたという。


そのとき、災厄の破壊獣が爆発する苔玉を噴射しながら進むさまを目撃しているそうだ。

その大きさは俺の頭ほどで、それだけでもかなり大きな爆発が起こるらしい。


俺たちが顔を見合わせると、支部長は続けた。


「ソードラ王から、各国と共同で討伐部隊を編成するとお達しがあったのは二週間ほど前でしょうか。先ほど、ユーグルが城へ飛んでいくのを見ました。城の中でお待ちなのでしょう。なにか手伝えることがあれば申し付けてください」




また朝になってしまいました!

すみません。


よろしくお願いします!

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