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逆鱗のハルトⅡ  作者:
251/308

王を冠するもの。⑤

******


はっきり言って、城はすごかった。

いや、なにがすごいって、その外観というか。


町の建物と同じ地味な色をした、恐ろしいほどに高い外壁は要塞のよう。

そのくせ入口は小さく造られていて、人が二人並んで通ればキツキツな上に、門番が二人、しっかりと道を塞いでいた。


彼らに声をかけると、アルヴィア帝国兵を思い起こさせる甲冑の門番のうち、右側の奴が案内してくれるという。

兜の左右には二本の角のようなものが生えていて、緩く波打ちながら上ではなく、頬に向かって伸びている。


そして、ようやく門を通れたと思えば、正面にはまた壁。

外壁沿いに、道が造られているらしい。


「すげぇ造りだな」

グランが感心するのもわかる。


ここは、簡単に攻め入られないようにできているんだ。

要塞のようだと感じたのは間違いではなかったらしい。


――そんなことを思いながら、門番の案内に従って細道を何回か曲がったり直進したりすると、広場に出た。


案内の門番が、「城へ入るなら、広場を抜けた先の入口にいる別の騎士に話してくれ」と言って戻っていく。

俺たちはお礼を言って、改めて広場を見回した。


……そこでは溢れんばかりの人が、思い思いに過ごしていた。


着の身着のまま出てきてしまったような格好だったり、しっかりと装備を整えていたり、その服装はさまざま。

けれど、どの人も疲れた顔をしていて覇気がない。


この人たちが、トレイユが襲撃されたことで逃げてきた人たちだろう。


「……想像以上だね」

「うん……。こんなにいるなんて」

ぽつりとこぼしたボーザックに、ディティアが応える。


暗い空気に気持ちが沈みそうで、俺は眼を伏せた。


まだ夜の帳は下りていないし、そこかしこで煌々と焚き火が燃えているのに、ここに満ちているのは真っ暗で……窓のない部屋に閉じ込められているような息苦しさだ。


俺は深く息を吸ってゆっくりと吐き出してから、顔を上げる。


俺たちは、なんとかするためにここに来た。

彼らに希望を取り戻すことができるのは、俺たちしかいないんだ。

沈んでいる場合ではない。


「……あそこに、村の人たちがいる」

そこで、後ろにいたカンナが左のほうを指差した。


「本当か! よかったなカンナ」

グランが言うと、彼女は小さく頷いて輸送龍と一緒に歩き出す。


俺はばちん、と自分の頬を叩いて、気持ちを切り替えた。


『……ピュゥイ』

気にしてくれたのか、黒い巨体に頭をふんふんされる。


「大丈夫、ありがとな」

俺は輸送龍の首筋を撫でてやった。


◇◇◇


「カンナ!」

「遅くなった。無事?」

村の人は固まって過ごしていたようだ。


大きな焚き火を囲むように座っていた集団が、カンナと輸送龍を見て立ち上がる。


「俺たちは大丈夫だ。トレイユがやられたらしい。……一応、凶悪な魔物が現れたと説明は受けたが……その、『あれ』はなんだったのか知らないか? ……見たことがない魔物だったんだ」


村人のうちのひとり、小柄な男性が言う。

カンナがこっちを振り返ったので、俺は一歩前に出た。


「災厄の破壊獣ナディルアーダって呼ばれている魔物なんだ。俺たち白薔薇は、そいつを討伐するために来た。……どんな奴だったか、教えてもらえないか?」


「……討伐……。王がトレージャーハンター協会と協力して討伐隊を集めているが、あなたたちも参加するのか?」

「ちょっと違う。彼らはその討伐隊を『率いる』ために来たんだ」

眉をひそめた男に、カンナが助け船を出してくれる。


なぜかそこで輸送龍が俺の顔を横からべちょりと舐めたので、思わず咽せた。

堆肥のようなむわりとした臭いは健在だ。


「げほっ、ごほっ。くっ……さ! な、なんだよいきなり!?」


「……」

見ていた男の眉がますます寄せられるけど、不可抗力だぞ……こんなの。


『ピュイ』

俺の思いなんて関係なく、輸送龍が頭を下げ、少しだけ屈んだ。


――確か、前にも舐められたことがあった。

そのときは、こいつらは……。


俺は思い当たって、その背に手を掛けた。

乗れ、と言ってくれているのだ。


「……おお」

そのまま輸送龍の背に乗った俺に、初めて、男の表情が驚きに変わる。


『ピュウイィッ!』

鳥のように高く明るい鳴き声が、紺色に染まろうとする空に響き渡った。


集まる人々の視線が、一斉にこちらへと向けられるのがわかる。

輸送龍は堂々と首を伸ばし、胸を張るようにして、その視線を受け止めた。


こいつらは、龍だ。

その姿は人々を畏れさせ、期待させ、自然と静寂が満ちていく。

当然、それを御しているように見える俺たちにも、それと似た感情を抱くだろう。


「彼ら白薔薇は、災厄の破壊獣ナディルアーダを討伐する部隊を率いる『冒険者』。少しでも災厄の情報が、ほしい」

カンナが、決して大きくはない声で告げる。


それは満ちた静寂に浸透し、俺たちを見詰める人々へと、確実に届いたはずだ。


「……ああ、なんという幸運……! 逆鱗のハルト様、ご無事でしたか! 飛龍タイラント討伐の英雄、白薔薇よ……よくぞ参られました!」

思わぬ合いの手が入ったのは、そのときだった。



昨日分……です……

遅れていてすみません。

よろしくお願いします!

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