王を冠するもの。⑤
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はっきり言って、城はすごかった。
いや、なにがすごいって、その外観というか。
町の建物と同じ地味な色をした、恐ろしいほどに高い外壁は要塞のよう。
そのくせ入口は小さく造られていて、人が二人並んで通ればキツキツな上に、門番が二人、しっかりと道を塞いでいた。
彼らに声をかけると、アルヴィア帝国兵を思い起こさせる甲冑の門番のうち、右側の奴が案内してくれるという。
兜の左右には二本の角のようなものが生えていて、緩く波打ちながら上ではなく、頬に向かって伸びている。
そして、ようやく門を通れたと思えば、正面にはまた壁。
外壁沿いに、道が造られているらしい。
「すげぇ造りだな」
グランが感心するのもわかる。
ここは、簡単に攻め入られないようにできているんだ。
要塞のようだと感じたのは間違いではなかったらしい。
――そんなことを思いながら、門番の案内に従って細道を何回か曲がったり直進したりすると、広場に出た。
案内の門番が、「城へ入るなら、広場を抜けた先の入口にいる別の騎士に話してくれ」と言って戻っていく。
俺たちはお礼を言って、改めて広場を見回した。
……そこでは溢れんばかりの人が、思い思いに過ごしていた。
着の身着のまま出てきてしまったような格好だったり、しっかりと装備を整えていたり、その服装はさまざま。
けれど、どの人も疲れた顔をしていて覇気がない。
この人たちが、トレイユが襲撃されたことで逃げてきた人たちだろう。
「……想像以上だね」
「うん……。こんなにいるなんて」
ぽつりとこぼしたボーザックに、ディティアが応える。
暗い空気に気持ちが沈みそうで、俺は眼を伏せた。
まだ夜の帳は下りていないし、そこかしこで煌々と焚き火が燃えているのに、ここに満ちているのは真っ暗で……窓のない部屋に閉じ込められているような息苦しさだ。
俺は深く息を吸ってゆっくりと吐き出してから、顔を上げる。
俺たちは、なんとかするためにここに来た。
彼らに希望を取り戻すことができるのは、俺たちしかいないんだ。
沈んでいる場合ではない。
「……あそこに、村の人たちがいる」
そこで、後ろにいたカンナが左のほうを指差した。
「本当か! よかったなカンナ」
グランが言うと、彼女は小さく頷いて輸送龍と一緒に歩き出す。
俺はばちん、と自分の頬を叩いて、気持ちを切り替えた。
『……ピュゥイ』
気にしてくれたのか、黒い巨体に頭をふんふんされる。
「大丈夫、ありがとな」
俺は輸送龍の首筋を撫でてやった。
◇◇◇
「カンナ!」
「遅くなった。無事?」
村の人は固まって過ごしていたようだ。
大きな焚き火を囲むように座っていた集団が、カンナと輸送龍を見て立ち上がる。
「俺たちは大丈夫だ。トレイユがやられたらしい。……一応、凶悪な魔物が現れたと説明は受けたが……その、『あれ』はなんだったのか知らないか? ……見たことがない魔物だったんだ」
村人のうちのひとり、小柄な男性が言う。
カンナがこっちを振り返ったので、俺は一歩前に出た。
「災厄の破壊獣ナディルアーダって呼ばれている魔物なんだ。俺たち白薔薇は、そいつを討伐するために来た。……どんな奴だったか、教えてもらえないか?」
「……討伐……。王がトレージャーハンター協会と協力して討伐隊を集めているが、あなたたちも参加するのか?」
「ちょっと違う。彼らはその討伐隊を『率いる』ために来たんだ」
眉をひそめた男に、カンナが助け船を出してくれる。
なぜかそこで輸送龍が俺の顔を横からべちょりと舐めたので、思わず咽せた。
堆肥のようなむわりとした臭いは健在だ。
「げほっ、ごほっ。くっ……さ! な、なんだよいきなり!?」
「……」
見ていた男の眉がますます寄せられるけど、不可抗力だぞ……こんなの。
『ピュイ』
俺の思いなんて関係なく、輸送龍が頭を下げ、少しだけ屈んだ。
――確か、前にも舐められたことがあった。
そのときは、こいつらは……。
俺は思い当たって、その背に手を掛けた。
乗れ、と言ってくれているのだ。
「……おお」
そのまま輸送龍の背に乗った俺に、初めて、男の表情が驚きに変わる。
『ピュウイィッ!』
鳥のように高く明るい鳴き声が、紺色に染まろうとする空に響き渡った。
集まる人々の視線が、一斉にこちらへと向けられるのがわかる。
輸送龍は堂々と首を伸ばし、胸を張るようにして、その視線を受け止めた。
こいつらは、龍だ。
その姿は人々を畏れさせ、期待させ、自然と静寂が満ちていく。
当然、それを御しているように見える俺たちにも、それと似た感情を抱くだろう。
「彼ら白薔薇は、災厄の破壊獣ナディルアーダを討伐する部隊を率いる『冒険者』。少しでも災厄の情報が、ほしい」
カンナが、決して大きくはない声で告げる。
それは満ちた静寂に浸透し、俺たちを見詰める人々へと、確実に届いたはずだ。
「……ああ、なんという幸運……! 逆鱗のハルト様、ご無事でしたか! 飛龍タイラント討伐の英雄、白薔薇よ……よくぞ参られました!」
思わぬ合いの手が入ったのは、そのときだった。
昨日分……です……
遅れていてすみません。
よろしくお願いします!




