王を冠するもの。③
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カムイ曰く、ソードラ王国王族とは繋がりがあるため、会うことは意外と簡単なんだとか。
別に、王族や皇族が珍しいわけじゃないんだけど……その気軽さにはちょっと引く。
俺たちはとりあえずトレージャーハンター協会をあとにして、まずは街外れで待っているカンナと輸送龍を迎えに行くことにした。
――カンナの村に人がいなかったのなら、城に避難している人たちのなかにいるかもしれない。
そう考えたのである。
ちょうど同じ方向に、ヤールウインドも控えているらしい。
町はやはりどことなく静かで、寂れた雰囲気すら纏っている。
乾いた風が砂を舞い上げて、視界が霞んだ。
歩きながら、俺は前を進むカムイを眺めつつ、ぼんやりと考えを巡らせた。
……確かロディウルは、ソードラ王国だけでなく、アルヴィア帝国や、さらに北にあるシエリアの故郷……ドーン王国からも、災厄討伐を仕事として請ける許可を取れるって言ってたな。
王族や皇族と繋がっているんだろう。
けど……アルヴィア帝国が魔力結晶の研究に力を注いでいることに、ユーグルは反対しなかったんだろうか。
血結晶の製造施設は破壊対象らしいし、同じように、血結晶の研究所は破壊対象になるんじゃないか?
気になってしまって、俺はつい、前を行く筋骨隆々の男を呼び止めた。
「カムイ」
「おうよォ?」
すぐに歩を止めて振り返るカムイ。
俺はそのまま歩きながら言葉を続ける。
「アルヴィア帝国は、魔力結晶の研究を進めてるだろ。ユーグルにとって、問題はなかったのか?」
「……あァ。研究自体は歓迎してるでェ。正直、伝承だけじゃァもうわからんことだらけやしなァ」
「そうなんですか? 危険に思えますけど……」
思わずといった様子で話に加わったディティアが、俺の後ろでちょこんと首を傾げる。
カムイは追い付いた俺に歩調を合わせて再び歩き出し、歯を見せてにやりとしながら、続けた。
「どう転んでも、魔力結晶を作ることはできひんからなァ。作ったとしたら、俺らユーグルが許さへんし。それに、帝国が『研究材料』と称して魔力結晶を買い占めるんは、こっちとしても助かってるんだぜェ」
「あら。集めた結晶を裏取引きでもしているのかしら?」
ディティアの隣にいたファルーアが、龍眼の結晶の杖をくるりと回す。
結晶が、陽の光を散らしてちかちかと瞬いた。
「ま、そんなところやなァ。あの国には『繋がり』が多いのも確かだぜェ」
カムイは隠すこともなく、さらさらと答える。
そのすぐ傍で歩いているユーグルの女性だけは、なんともいえない、渋い表情だ。
こんなに情報を流すのだ。たぶんだけど、カムイはそんなに頭がいいほうじゃないだろうな……。
俺はそれをいいことに、もっと質問することにした。
「確か、俺たちがアイシャで災厄の黒龍アドラノードを倒したあと、ロディウルは大量の魔力結晶を持ち去ってるはずなんだけど……それはどうしたんだ?」
カムイはそれを聞くと、初めて困った顔をした。
鋭い目が、左右に泳ぐ。
「あー、ありゃあなァ……」
「ここまできて、まだ隠し事か? 兄弟」
……割り込んだのはグランだ。
殿を歩いていた大盾使いは、いつの間にかすぐ傍までやって来ていて、顎髭を擦りながらわざとニヤニヤしている。
その後ろ、ボーザックとフェンは何食わぬ顔をして歩いているけど、しっかりと聞いているのは間違いない。
「まァ……白薔薇とは約束の杯を交わしたしなァ。……あれはなァ、ヤールウインド……フォウルの餌にするんやでェ」
「影。……さすがにそこまでです」
それを、ユーグルの女性が制した。
カムイが怒られた子供のように「しまった」という顔をするのを、女性は氷のような空気で圧倒する。
垢抜けないと思っていたけど、案外恐いぞ……。
「白薔薇の皆様。今の話はロディウルから直接お聞きください。彼はこの通り、ちょっとおつむが弱い」
「お……おう……」
グランが若干……いや、かなり引いているほどで、ディティアとファルーアは苦笑していた。
「――今更ですが。申し遅れました。私はセシリウル。この度の災厄討伐を、微力ながら援護させていただきます」
彼女は少しだけ頭を下げ、そう告げると、カムイのほうをジロリと睨む。
カムイが降参とばかりに小さく両手を上げているけれど、俺は全然違うことが気になっていて……。
「……ねぇ、ウルってことは、君もロディウルみたいに長なの?」
その疑問を、ボーザックが言葉にしてくれた。
彼女……セシリウルは、すっとボーザックに視線を奔らせて、頷く。
「はい。私はロディウルの姉ですから」
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