表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルトⅡ  作者:
244/308

黒い龍とは友達です。③

******


首都からしばらくは平原が続く。

土と草の濃い匂いのなか、時折花のような甘い香りが鼻を掠める。


ただし、感じる風はかなりのものだ。

頬を撫でるのではなく、殴る勢い。俺たちは文字通り空気を切り裂いている。


それでも、輸送龍たちは、驚くほど滑らかに疾走していた。

跳び上がることもなく、急激な加速があるわけでもなく。


最初に比べたら雲泥の差だ。


「お前たち、頭いいんだなあ!」

ごうごうと、風の音が耳の奥まで響いている。


ボーザックの後ろで大声を上げると、俺の乗る輸送龍は一瞬だけこちらに視線を向けて、得意気に『ピュイッ』と鳴いた。


◇◇◇


しばらく走っただろうか。


「乗り心地は?」

前に座るボーザックに聞くと、黒髪の頭が、ぴくりと小さく跳ねる。


彼は振り向かずに、風で掻き消されそうなほど小さく答えた。

「……馬と空は、平気だったんだ……」

「げっ」

俺は慌てて精神安定バフをボーザックに投げてやる。

「ありがとう……」

「お、おう。なんだろうな。あれか、馬車みたいに安定した感じが駄目とか……?」

思わず言った俺に、ボーザックはちょっとだけこっちを見た。

「……そう、なのかな? 跳んだりしてくれない、かな……」

「まあ、こいつらすごい跳ねるけど――――うぉわあっ!」


ターンッ!


『ピュウィーッ!』


聞こえていたのだと思う。

輸送龍はまるで小動物のような声で嘶くと、一気に踏み切った。


地面があっという間に離れていき、胃がひっくり返りそうな浮遊感に体が竦む。

……かと思ったら、次の瞬間には着地の衝撃が走り、俺は呻いた。


「うぐっ! い、いって……っうわあぁ!」


再びの跳躍。

ぐんぐんと加速していく黒い龍は、心なしか楽しそうだ。


俺は慌ててバフを広げ、しっかりと鐙を確かめる。


「に、肉体硬化っ、肉体強化ぁッ……痛ッ!」


「あっはは! うわ、すごいんだけどハルトー!」

ボーザックが笑い出すけど……。


「いや、お前っ……これはさあっ!」

怒鳴り返して、さらに足を踏ん張る。


輸送龍の跳躍は、凄まじいものだ。

手綱をしっかりと握り、鞍に打ち付けないように尻を上げておかねばならない。

膝は衝撃を受け止めるために軽く曲げて、少しでも体にかかる負担を減らそうと試みる。


しかし。


「筋トレになるかもー!」

あっという間に元気を取り戻したらしいボーザックが、同じような体勢で、生き生きと叫んだ。


「なるっ、かもしれないっ、けどっ……無理だからッ! 止まれえぇっ!」

『ピューゥイーッ!』


筋トレになるとかそういう問題じゃないんだよ。

それとこれとは別問題であり、俺は輸送龍の上でまで筋トレしたいわけじゃない。

加速して先頭となった輸送龍の上で、俺は情けない悲鳴を上げた。


「なんだお前らーっ、楽しそうだなあっ!」

グランの笑い声が聞こえるが、完全に面白がっている。


覚えてろよ……。あとで代わってもらうからな!


◇◇◇


――結局、休憩するまでの時間を、俺とボーザックの乗る輸送龍はずーっと跳び回っていた。

地面に降りたときには足が震えて立てないほどで、汗をだらだらと流しながら、俺とボーザックは柔らかい草の上にひっくり返る。


「はーっ、はあっ、はっ……ああーッくそーーッ!」

大の字になり、呼吸を整えるために空気をたくさん取り込んで、俺は叫んだ。


疲れたとかいうのは、とうの昔に越えていた。

そこにあるのは、やり切ったという、謎の達成感。


どこまでも広がって見える平原にはいくつかの岩場や凹凸があり、白い雲が大きな塊となって、ゆったりと流れている。


「はぁあ~……俺、強くなった……気がする~」

「今は、めちゃくちゃ……弱ってるけど、なっ」

同じように転がっているボーザックの言葉に同意して、俺は上半身を起こした。


腹筋も使っていたからか、脱力感が凄まじい。

思わず顔をしかめたところで、ディティアが俺の前にやって来る。


「あはは、すごかったね……はい、お水。ボーザックも」

「お、ありがとな」

「ありがとうティアー」


彼女が差し出してくれたコップの水を一気に飲み干して、俺はようやく人心地ついたような気持ちになった。

ファルーアのお陰で水にはそうそう困ることがないのは、本当にありがたい。


爆風との旅の間は、水分の確保には注意が必要だったもんな。


考えながら見回すと、カンナは輸送龍たちの体を拭ってあげていて、グランとファルーア、フェンは揃って休んでいた。


災厄と戦うためにこうしているのに、長閑で……いつも通りの旅路。

長く離れていたような気がするのに、いざ始まってみればなんの違和感もなく、むしろこれが当たり前のような気がする。


――しかし。


『ピュウィーッ』

『ピュウッ』

『ピュイッ』


俺が物思いに耽っているのを無理矢理引き戻すように、突然、輸送龍たちが鳴き始めた。 


「なんだ!?」

思わず立ち上がり、輸送龍を窺う。

黒い龍は、鼻息荒く首を上下させ、前脚の爪で地面を掻いていた。


「五感アップ!」

俺は慌ててバフを広げ、息を呑む。

いくつもの気配が固まったようなものが、あちこちで感じられるけど……姿が見えないのだ。


――これは。


「……地中です!」


「お前ら、やるぞ!」


ディティアが双剣を抜き放つのと、グランが大盾を構えるのは、ほぼ同時。


次の瞬間、俺たちから少し離れた位置で、地面がボコボコッと盛り上がった。



本日分です。

この先、仕事が少し立て込みそうです。

更新状況は活動報告にあげますね。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ