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逆鱗のハルトⅡ  作者:
243/308

黒い龍とは友達です。②

******


――輸送龍。


黒く硬そうな鱗で守られた皮膚を持つ彼らは、俺たちが向かうソードラ王国トレイユ……その近くの小さな村で育てられている。


首は長めで、馬に近い形の体躯。四足歩行で、爪先には地面を掴むためなのか鋭い爪が前に向かって三本、後ろに向かって一本生えている。俺が腕を広げても抱えきれないほどの頭からは、白い角が二本、すらりと空へ向けて伸びていた。


まだ実用段階になかったけど、トレージャーハンター協会会長マルレイユの許可で、俺と爆風を運んでくれたのがこの龍だ。


その面倒を見ているのが、カンナ。

彼女は、短く切り揃えた落ち着いた色の茶髪と、同じ色の眼をしている。中性的な顔立ちで、少し頬が痩せてはっきりとした輪郭。

肘丈の服から出ている肌は健康的な小麦色で、腕にはくっきりと筋肉による線が浮き、それなりに鍛えられているのがわかった。


口数は少なめだけど、俺はそれなりに打ち解けている……と思う。


今回、俺たち白薔薇は、カンナと輸送龍たちと一緒に自由国家カサンドラ首都を発ち、ともに戦う人たちより一足先にソードラ王国へと向かうのである。


******


「近くでみるとやっぱでっかいなー」

ボーザックが眼をきらきらさせながら、自分より高い位置にある輸送龍の頭を見上げると、輸送龍は首を捻ってそっぽを向いた。

「……嫌われてるのかな、俺」

ちょっと悲しそうに嘆くボーザックの足下で、フェンが「あおん」と慰めるような声で鳴く。


いや、フェン。お前いつも俺にやってるからな、それ。


カサンドラ首都の西門……俺が最初に通ってきた場所の外側で、白薔薇、カンナ、輸送龍三頭が顔を合わせた。

昼を少し回った時間帯で、太陽は頭上に輝いており、輸送龍が動くたびにその体が鈍く光る。


崩れかけた門の修繕は進んでいるようで、道の端には材木が積まれていた。

大工たちが汗を滴らせながら作業するのが見えるけど、その表情は明るい。


「……そういえば馬車は使わないんだな」

俺がきょろきょろしながら言うと、黙ってボーザックを眺めていたカンナがこくりと頷く。

「そう。あれは、まだ改良しないと」


……なるほど、だから輸送龍たちに鞍や鐙が装着されているのか。

俺たちは輸送龍の背に乗るんだろう。


確かに、黒い馬車はベルトなしではとても乗れたものじゃない。

座っていても尻を強打し続けるばかりで、喋れば舌を噛むほどの揺れである。


それを考えれば、彼らの背中は馬よりも広く快適だ。


「またよろしくな」

俺が輸送龍の傍に寄って、一頭の首にぽんと手を置くと、彼らは揃って、頭をぐいぐいと寄せてきた。

「な、なんだよ?」

『ピュイ』

『ピューイ』

『ピュイー』

「ちょっ、やめろって!」

次々に鳴きながら、輸送龍たちが俺の腹や背中、肩を鼻先で突いてくる。


後退する俺に、カンナが感心した声を上げた。

「挨拶だ。会うたびに仲間意識が強くなるね、あんた」


いや、俺は仲間意識なんてないぞ。


思わず突っ込もうとすると、近くで見ていたボーザックが眉根を寄せた。


「ハルトに負けた気分だよ、俺」

「あはは、でも本当に好かれてるね、ハルト君」

ディティアがその隣で笑うと、少しだけ離れた場所にいたグランとファルーアが、足下に置いていた荷物を背負った。


――地図を見ながら、備品の確認をしてくれていたのである。


「よし、そろそろ行くぞー」

「カンナだったわね。改めてよろしく」

「こちらこそ」


グランの号令に、ファルーアが妖艶な笑みを浮かべながらカンナに右手を差し出す。

カンナはそれをしっかり握り返すと、ぎこちなく笑った。


******


三頭の輸送龍がいるので、ふたりずつがその背に乗る。


フェンはいつものように先頭で速度を調整……とグランは考えていたみたいだけど、輸送龍たちのほうが遥かに速い。


悩んだ挙げ句、カンナとディティアとフェンが一頭に乗ることになった。


あとの二頭は、俺とボーザック、グランとファルーアである。


「あははっ、ハルトと一緒に乗るとか新鮮なんだけど。俺前でいい? 景色見たいし!」

歯を見せて、心底楽しそうにボーザックが笑う。


俺ははいはいと頷いて、輸送龍の後ろの鞍に跨がった。


『キュイ?』

「お手柔らかに頼むな」


首を捻りこちらを振り返る輸送龍に、頷いてみせる。


ボーザックが俺の前によじ登る間、俺はこいつらと馬の違いに、首の可動域がかなり広いところも付け足さねばならないな……などと、どうでもいいことを考えた。


「皆、いいね。行くよ」

短くカンナが言う。


「おう、いいぞ」

「いけるよー!」

グランとボーザックの返答。


――輸送龍は揃って、ゆるりと走り出した。


まずはソードラ王国首都。

そこで、トレイユに向かう部隊を追加招集しなければならない。


マルレイユいわく、伝達龍を飛ばしたので討伐に動くことは伝わっているはずとのこと。

加えて、王にはユーグルからも連絡が行っているだろう。


流れる景色がだんだんと速くなり、頬を撫でる風が強くなっていく。

振り返れば、カサンドラ首都はぐんぐんと遠ざかっていった。


いざ、災厄の討伐へ。

俺たちは、ようやく動き始めたのだった。



本日分となります。

毎日おかしな暑さですね。

熱中症に注意です、少しでもふらっときたら適切な水分をとり、体を冷やしてあげてくださいー!


よろしくお願いします。


このあと、活動報告にちょっとした報告をあげる予定です。

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