血色の結晶には。④
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俺たちが寝泊まりしているのは中央治安部隊の館だ。
率先して中央治安部隊とトレージャーハンター協会が外で過ごしてくれているからである。
特に白薔薇にはフェンもいるため、魔物嫌いな人への配慮でもあるからと言われれば断れるはずもない。
ぱちぱちと爆ぜる焚火の横を通り、館へと入ると、既に眠っている人も多かった。
館の中にはぽつぽつと灯る魔力結晶。
初日に比べれば呻き声は激減している。
薄暗い廊下を抜けてディティアを誘導し部屋に入った俺は、ベッドにボーザックを転がした。
泥まみれだからシャワーくらいさせたいところだけど、すっかり安心した顔で眠っているのを起こすのは少し可哀想だな……。
なんだかんだいって、肉体労働を毎日続けている。
疲れていないわけがないのだ。
この部屋には魔力結晶はなく、グランが設置したランプの灯りがテーブルの上で揺れている。端っこに置かれた俺たちの鎧がそれに合わせて影を落としていた。
「……ディティア、俺ちょっと体洗ってくるけど……どうする?」
「あ、いいなあ。場所わからないから、私も一緒に行っていい?」
「おう」
彼女の口調は戻ってきている。
酔うのも早いけど、酒の消化も早いのかもしれないな。
そんなことを思いながら着替えを引っ張り出し、部屋を出ようとしたとき……。
くんっ、と、腰のあたりを引かれた。
「うん?」
「あの、ハルト君」
首を捻ると、ディティアが申し訳なさそうに俺の服の裾を引いている。
「どうした?」
「……ガイルディアさんに、会っていかない?」
「爆風に?」
「また別行動だし、少しお話したいなぁって思って」
「あー、そっか。じゃあ先に声だけかけて、体洗ってからちゃんと行こう」
「うん!」
ぱあっと笑顔になった彼女に、思わず苦笑する。
ディティアは目をぱちぱちしてから、自分の頬を触った。
「……へ、変な笑顔だったかな」
「ふふ、いいや。悔しいくらいにいい笑顔。……言ったろ? 花みたいだって」
「……!」
真っ赤になって俯く彼女の頭に、俺は振り返ってぽんと手を置いた。
「楽しみにしとけよ? 俺たちにもその笑顔、絶対させてやるからさ」
彼女はこれでもかというくらいに首を竦め、呻いた。
「わざとじゃないのが……ずるい……」
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部屋で双剣を磨いていた爆風に声をかけて、今日はなんと風呂が使えるようになったというので早速入りに来た。
再開した宿が無料で開放してくれたというその風呂は広く、人はそれなりにいるものの開放的で、疲れている分沁みるものがある。
「……っはぁ~……」
体をすっかり洗い、湯船に浸かれば……思わずため息がこぼれるほどの極楽感だった。
「うん、いい湯だな」
「おう……」
隣には……一緒に来た爆風。
鍛え上げられた体には無数の傷と、薄ら残る紫色の蔦の痣。
じろじろと見るのもあれだけど、やっぱり伝説の冒険者……凄まじい生き様を物語っているようだ。
目を閉じて上機嫌な爆風は、ふう……とため息を吐き出しながら、肩までじっくりと湯に浸かった。
「そういえば、薬はどうなんだ? 順調なのか?」
「……ん、ああ。もう大丈夫だろう。あとは医者の仕事だ」
「そっか……寝たきりの人たちもなんとかなる……のかな」
「そこまではわからないが……元は俺の血だからな、なんとかなるかもしれないぞ」
軽口を叩く爆風は、少しだけ目を開けてちゃぷちゃぷと揺れる湯を眺める。
いろいろ、思うところもあって、俺は少しだけ笑って、頷く。
だって、ここにいるのは伝説の爆の冒険者だ。
その討伐は不可能と思われていたはずなのに、たった四人で成し遂げた英雄。
「爆風の血だもんな、あり得る」
「……ふ、だろう?」
歯を見せて笑う男は、屈託のない声でそう応えた。
俺はそこで、ふと、聞きたいことを思い付く。
「そういえば、仲間って……誰なんだ?」
確か爆風は、少人数での討伐をするのに、仲間を手配したと言っていた。
……相手は、災厄の走龍クァンディーン。
思い付くのはバフが使えるヒーラー、リューンと、真っ黒な鎧の獣みたいな男、ガルニアだ。
爆風は俺の質問を聞くと、唇の両端を持ち上げたまま、ふふ、と鼻先で笑う。
「それはまたのお楽しみだ。……お前は災厄の破壊獣ナディルアーダのところに行くんだったな。勝算はあるのか」
唐突に返され、俺は肩を竦めた。
その動きに合わせ、湯がちゃぷりと跳ねる。
「どういう状況になってるかわからないからな……トレイユと連絡が取れないのも、正直不安しかない」
特産品の赤い果物、ペールの香りを思い出して、俺は目を閉じる。
大きな水車があり、柔らかな風が吹き抜ける美しい町。
皆で行けたらいいなと思っていたけど、それは決してこんな形ではない。
「……そうか。衝撃を加えるとそこから爆弾が生み出されるようだったしな……一気に凍らせるか、湖や海に落とすか……と思ったが、近くにその地形がないことを考えると得策ではないだろう。であれば、山の深くに埋めてから山ごと潰すのがいいかもしれんが、問題は山から出てしまっていた場合だな」
俺は一緒に考えながら、地図を思い浮かべる。
「災厄がどうやって移動するかはわからないけど、むしろあの辺りは平原だから……誘き寄せて一気に爆発させたらいいんじゃないか?」
「ふむ……どれほどの威力なのか予想が付かないからな。どこまで誘き寄せ、どうやって巻き込まれないように爆発させるのか……対策が必要だろう」
「そっか……やっぱり海みたいな深いところじゃないと……」
そこまで言って、俺はふと思い当たる。
見ると、爆風が琥珀色の目をこちらに向けていた。
……まるでその先を既に知っているかのような、試すような視線。
「……平原にデカい落とし穴みたいなものを掘って、そこで爆発させたらどうかな」
言葉にすると、彼は満足そうに大きく頷いた。
「うん、面白い案じゃないか? 逆鱗」
9日分です。
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