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逆鱗のハルトⅡ  作者:
228/308

災厄の宴には。④

◇◇◇


扉を開け放つと、中にいた三人はこっちを振り返り、爆風は歯を見せてにやりと、ロディウルは面白そうに唇の端を持ち上げ、マルレイユは少し困ったような苦笑をして出迎える。


円になって座っている彼らの真ん中には地図があり、どう考えてもなにか話していたとしか思えない。


「……」

仏頂面のグランが立ったまま黙って腕を組むと、爆風が笑った。


「そんな顔をするな、豪傑のグラン? ここは豪快にいかないか?」

「まんまと乗せられた気がするんだが?」

「ははっ、けどまあちょーどいい息抜きになったんちゃうか? こっちの話もまとまったとこや」

ロディウルがこっちを見て紅い眼を細める。

口もとには今も笑みが浮かび、話とやらが順調だったのだろうと想像出来た。


そこで、マルレイユが白髪の三つ編みを押さえながら地図を指差す。

「白薔薇の皆様には大変申し訳ないのですが、最初に討伐に出るのは爆風のガイルディアにします」


その細い指先が示すのは、樹海。

双子の裏ハンター審査官が様子を窺っていたはずの、巨木が連なる広大な森だ。


「……参考までに聞かせてくれ。どうして爆風なんだ? 樹海の災厄は数人でなんとかできるのか?」

グランは面白くなさそうに鼻を鳴らし、腕を組んだまま三人を見下ろす。

答えたのはロディウルだった。

「せやなぁ……爆風のガイルディアは、サーディアスに『仲間』やと言われた……それは間違いないやろ? 災厄を狩るのには、相応の強さがないとあかん。同時に、万が一の万が一には『贄』になれる者が望ましかった」


ぴくり、とグランの腕が小さく跳ねる。


「ええか、生贄になるんは本来、その役目を負った者たちや。けどな、そいつらだけではどうしようもない可能性はある。……血が、薄まっている場合やな。そして、俺らユーグルが万が一のスペア。それでもあかんかった場合は爆風……ってことになるわけや」


俺は顔をしかめた。

この話をするために、爆風は俺たちを外に出したのかもしれない。

……そんなの、誰も生贄になんてならないのがいいに決まってる。


――知らず手をぎゅっと握り締めていたらしく、ディティアの手の甲がこつんとあたり、気が付いた。

ちらりと見ると、彼女は小さく頷いて、少し悲しそうな……ともすれば怒ったような顔で前を見る。


「……それから、樹海の災厄のことやな。こいつは二足歩行のトカゲ型、災厄の走龍クァンディーン。体高は豪傑の二倍程度やと思う。俺の知識によれば……かなりの速さやけど、氷のブレスに注意すれば相手できる……はずや」

「はずって……なんだよそれ」

思わず言うと、ロディウルは伸び放題の緑髪をわしわししながら首を振った。

「俺かてユーグルの里の伝聞と、古い資料でしか知らへんのや……予想しかできひん。悪いな、逆鱗のハルト」


きっぱりと言い切り、真っ直ぐに俺を見る紅い眼に、俺は唇を横一文字に結んで、黙るしかない。

……確かに、言われてみればそうだ。


そこに、グランの横から水色のローブ……ファルーアがするりと前に出た。


「それで? ほかは誰が行くのかしら。まさか爆風とユーグルだけではないでしょう?」

彼女がコツリとヒールを鳴らすその横で、フェンがそれを守るように寄り添う。


爆風は一度立ち上がり銀狼に近付くと、その頭をぽんぽんと撫で……ええ? なんで普通に撫でさせてるんだよお前。

一瞬、フェンと目が合ったような気がしたけど、するりと逸らされた。


「うん、やはり賢いな、フェンリルは」

「わふ」


爆風は満足したのかフェンから手を放すと、低くて渋い声で言った。

「――伝達龍を飛ばして仲間を手配したところだ。心配するな」


******


結局、話し合いの結果俺たち白薔薇は、災厄の破壊獣……名はナディルアーダというらしい……の討伐に赴くことになった。


実際、既に起こされているのはわかってるもんな。


一度俺が見ているし、そこまでの強さはないだろうこと、そして、討伐後に砂漠の災厄へと進路を取ることができるのが利点だ。


砂漠の災厄討伐がもし長引いているなら、樹海からもトレイユからも、比較的援軍に行きやすいだろうからな。


「俺たちユーグルは、偵察隊と、爆風を運ぶ隊に分かれるで」

ロディウルに言われて、俺たちは頷く。


「そうと決まれば、いつから動くのー?」


ボーザックが聞くと、マルレイユが答えてくれた。


「討伐部隊を集めることから始めます。白薔薇の皆様には手伝っていただきます」


26分です!

よろしくお願いします。

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