災厄の宴には。④
◇◇◇
扉を開け放つと、中にいた三人はこっちを振り返り、爆風は歯を見せてにやりと、ロディウルは面白そうに唇の端を持ち上げ、マルレイユは少し困ったような苦笑をして出迎える。
円になって座っている彼らの真ん中には地図があり、どう考えてもなにか話していたとしか思えない。
「……」
仏頂面のグランが立ったまま黙って腕を組むと、爆風が笑った。
「そんな顔をするな、豪傑のグラン? ここは豪快にいかないか?」
「まんまと乗せられた気がするんだが?」
「ははっ、けどまあちょーどいい息抜きになったんちゃうか? こっちの話もまとまったとこや」
ロディウルがこっちを見て紅い眼を細める。
口もとには今も笑みが浮かび、話とやらが順調だったのだろうと想像出来た。
そこで、マルレイユが白髪の三つ編みを押さえながら地図を指差す。
「白薔薇の皆様には大変申し訳ないのですが、最初に討伐に出るのは爆風のガイルディアにします」
その細い指先が示すのは、樹海。
双子の裏ハンター審査官が様子を窺っていたはずの、巨木が連なる広大な森だ。
「……参考までに聞かせてくれ。どうして爆風なんだ? 樹海の災厄は数人でなんとかできるのか?」
グランは面白くなさそうに鼻を鳴らし、腕を組んだまま三人を見下ろす。
答えたのはロディウルだった。
「せやなぁ……爆風のガイルディアは、サーディアスに『仲間』やと言われた……それは間違いないやろ? 災厄を狩るのには、相応の強さがないとあかん。同時に、万が一の万が一には『贄』になれる者が望ましかった」
ぴくり、とグランの腕が小さく跳ねる。
「ええか、生贄になるんは本来、その役目を負った者たちや。けどな、そいつらだけではどうしようもない可能性はある。……血が、薄まっている場合やな。そして、俺らユーグルが万が一のスペア。それでもあかんかった場合は爆風……ってことになるわけや」
俺は顔をしかめた。
この話をするために、爆風は俺たちを外に出したのかもしれない。
……そんなの、誰も生贄になんてならないのがいいに決まってる。
――知らず手をぎゅっと握り締めていたらしく、ディティアの手の甲がこつんとあたり、気が付いた。
ちらりと見ると、彼女は小さく頷いて、少し悲しそうな……ともすれば怒ったような顔で前を見る。
「……それから、樹海の災厄のことやな。こいつは二足歩行のトカゲ型、災厄の走龍クァンディーン。体高は豪傑の二倍程度やと思う。俺の知識によれば……かなりの速さやけど、氷のブレスに注意すれば相手できる……はずや」
「はずって……なんだよそれ」
思わず言うと、ロディウルは伸び放題の緑髪をわしわししながら首を振った。
「俺かてユーグルの里の伝聞と、古い資料でしか知らへんのや……予想しかできひん。悪いな、逆鱗のハルト」
きっぱりと言い切り、真っ直ぐに俺を見る紅い眼に、俺は唇を横一文字に結んで、黙るしかない。
……確かに、言われてみればそうだ。
そこに、グランの横から水色のローブ……ファルーアがするりと前に出た。
「それで? ほかは誰が行くのかしら。まさか爆風とユーグルだけではないでしょう?」
彼女がコツリとヒールを鳴らすその横で、フェンがそれを守るように寄り添う。
爆風は一度立ち上がり銀狼に近付くと、その頭をぽんぽんと撫で……ええ? なんで普通に撫でさせてるんだよお前。
一瞬、フェンと目が合ったような気がしたけど、するりと逸らされた。
「うん、やはり賢いな、フェンリルは」
「わふ」
爆風は満足したのかフェンから手を放すと、低くて渋い声で言った。
「――伝達龍を飛ばして仲間を手配したところだ。心配するな」
******
結局、話し合いの結果俺たち白薔薇は、災厄の破壊獣……名はナディルアーダというらしい……の討伐に赴くことになった。
実際、既に起こされているのはわかってるもんな。
一度俺が見ているし、そこまでの強さはないだろうこと、そして、討伐後に砂漠の災厄へと進路を取ることができるのが利点だ。
砂漠の災厄討伐がもし長引いているなら、樹海からもトレイユからも、比較的援軍に行きやすいだろうからな。
「俺たちユーグルは、偵察隊と、爆風を運ぶ隊に分かれるで」
ロディウルに言われて、俺たちは頷く。
「そうと決まれば、いつから動くのー?」
ボーザックが聞くと、マルレイユが答えてくれた。
「討伐部隊を集めることから始めます。白薔薇の皆様には手伝っていただきます」
26分です!
よろしくお願いします。




