災厄の宴には。①
シエリアは、しっかりと頷いてから俺を見た。
少し肩の力が抜けたようにも見えるその姿に、俺もなんだかほっとする。
まだ危険がなくなったわけじゃないんだけど、それでもシエリアが家族のもとへと帰れるのなら、それはきっと幸せなんだろう。
「これで、僕の逃亡生活は終わりそうですね……ハルト君……僕の幸運の星。必ずお礼をします、希望はありますか?」
「いや、お礼とかいいって。サーディアスが捕まったって、まだ危険がなくなったわけじゃないんだし」
「ふふ、ハルト君らしいですね。では、このあと僕とラウジャ、シュレイスやダンテたちは、このままカサンドラ首都復興を手伝います。……どうですか?」
「うん、どうしてそうなったのか全然わからないし、俺に聞くのもわからないな」
「君なら、それを望む。そう思っただけです」
三白眼を細めて笑うシエリア。
俺は思わずうっ、と詰まって、ファルーアの向こう側に座るグランを見た。
確かに、俺なら……俺たちなら言いそうな気がする。
しかしグランは顎髭をじっくりと擦りながら、半笑いだ。
助ける気はないらしい。
「ま、まあ……お前がそうしたいならすればいいんじゃないか?」
ごほんごほん、と咳払いをしながら、言葉を投げる。
シエリアは今度こそ声をあげて笑い、立ち上がった。
「そうと決まれば。……ラウジャ、僕たちは外に出ますよ」
「えっ? 出るのかい?」
驚いたラウジャが、皆の視線にデカい体を縮こめる。
「はい。これ以上は僕たちの入る話ではありません。ただし……ハルト君、必要になったそのときは、必ず僕を呼んでください。……約束です」
シエリアは当然のようにきっぱりと告げて、俺に右の拳を突き出す。
「……ああ、約束する」
ゴツン、と俺の拳をぶつけると、三白眼の王子様は今までにないほど凶悪……もとい、爽やかな笑顔で、俺たちにぺこりと頭を下げた。
「それでは白薔薇の皆さん、爆風のガイルディアさん、ロディウルさん、トレージャーハンター協会会長、僕たちは階下に」
「ま、乗り掛かった船だからね……一緒に行くさ、シエリア。……爆風のガイルディア、あたしのこともなんかあったら呼んでくださいよ?」
「ははは、断る」
「ええ……相変わらず酷い扱いですよそれ」
爆風のガイルディアと雄姿のラウジャがカラカラ笑うと、自然と周りも明るい空気が満ちる。
彼らが出て行ったあとも、その余韻はしばらく部屋に残っていた。
◇◇◇
「では、話がなんとなく途切れたところで、次は私から皆様にご提案です」
次に話し出したのはトレージャーハンター協会会長、マルレイユ。
彼女は豊かな白髪で編まれた三つ編みを揺らし、地図を取り出した。
……自由国家カサンドラの地図ではなく、南西のソードラ王国、南から南東にかけてのアルヴィア帝国、そして東からアルヴィア帝国の南にかけて広がるカールメン王国も網羅したものだ。
「次に行うのは、各地の災厄の討伐。そうですね? ユーグルのウル」
「ああ。せやな」
「では、各地から返ってきている伝達龍の情報を開示いたします」
マルレイユの声は慈愛に満ちて優しいものだけど、今日聞く声は幾分強張っているように感じた。
俺も自然と肩に力が入っていたようで、右隣にいたボーザックと目が合い、へらっと笑われて気が付く。
見透かされている気がするのはちょっと情けない。
「まず、カサンドラ各地からは問題ない旨の報告が。物資も人手も、中央治安部隊と各地の治安部隊によって次々に到着しています。私たちトレージャーハンターたちも動いています。次に、アルヴィア帝国。こちらからは、支援金と……皇帝勅命の使者の安否確認が。後者については無論、丁重にもてなしていることを返事として飛ばしました」
そこで、マルレイユは一旦言葉を切った。
ぐるりと見渡す彼女の小さな黒い双眸が、静かに、俺たちを映している。
誰かが、ごくり、と唾を呑み込んだ。
「そしてソードラ王国……実は、災厄がいるとされる山脈付近の町、トレイユと連絡がつきません。さらには、カールメン王国とは、砂漠の町も樹海の町も含め、全ての連絡がついていない。まだ伝達龍が到着していないだけ……という可能性も捨てきれませんが、警戒するに越したことはないでしょう」
放たれた言葉は鋭い矢のようで。
突き刺されたような衝撃を、感じた。
誰も言葉を発しない。
不安が渦を巻き、暗い気持が連鎖する。
――このままじゃ、駄目だ。動け、少しでも早く!
俺は意識的に息を大きく吸い込んで、ばん、と膝を叩いた。
「考えられることは、災厄の復活。ロディウル、ほかにはなにがある?」
ちょっと過ぎましたが19日分です。
我らが日本代表が勝ちましたね!
半端ない!
いつもありがとうございます。




