幸運の星が輝くので。⑤
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サーディアスは既に捕らえてあることを話しながら、中央治安部隊の館へと戻る。
入ってすぐの広間で、シエリアとラウジャを除く四人が、早速手伝いを始めているのを見つけた。
治療用の器具を点検し、運ぶ作業のようだ。
「シュレイス、皆は?」
「ああハルト。……上の部屋でなにか話してるわ。私たちは追い出されちゃったのよね」
「ハルトさん、お久しぶりです」
「うふふ、久しぶりね~。シュレイスの悔しがる顔、酷かったのよ」
「いいから手を動かせー。よう、無事に再会できたようでなによりだ。よかったな」
答えてくれたのはシュレイスと、黒髪を輪郭に沿って丸く整えたぱっちり蒼い眼のテール、深緑の長い髪を高く結い、落ち着いて見える同じ色の眼をしたラミュース、短く刈った茶髪に紅い眼の、なんとなくグランに似たダンテ。
彼らはシエリアとラウジャと共に、ここ、自由国家カサンドラを目指していたのだ。
「お前らも元気そうでよかった! まさかディティアと一緒にいるとは思わなかったよ」
俺が応えると、シュレイスがからからと笑う。
「まあ、いきなり襲いかかってきたから驚いたわよね!」
その言葉に、ディティアがうっ、と言葉を詰まらせた。
「もう、可哀想ですよう。……ディティアさん、とりあえず上へ行ったほうがいいと思います。右の、突き当たりの部屋ですよ」
助け船を出してくれたのはテール。
短かった黒髪は、少しだけ伸びたようにも見える。
前髪は真っ直ぐに切り揃えられていて、眼にかかるほどに長い。
「わかった。ありがとなテール。……行こう、ディティア」
「うん」
俺は礼を言って、ディティアと一緒に教えてもらった部屋へと移動した。
屋敷の中はまだ怪我人がいるものの、一週間前に比べれば雰囲気は明るくなっている。
酷い怪我ではなかった人のほとんどが、動けるようになると首都の復旧に力を貸してくれるようになったんだ。
そのお陰か、結束力のようなものも生まれているみたいで、それだけでも、生きる希望のようなものが満ちてくるんだろう。
◇◇◇
「……おーい、いるかー?」
目的の部屋で扉をコンコンと叩き声をかける。
中で気配が動き、がちゃり、と扉が開いた。
顔を出したのは、額にうっすらと蔦の痣を残した、白髪混じりの黒髪の……。
「ガイルディアさん!」
「爆風」
ディティアとふたり、ほとんど同時に名前を呼ぶ。
彼はにっと歯を見せて笑うと、入るように促した。
「元気そうだな、疾風」
「……はい、ガイルディアさんも。……無事でよかったです」
すれ違いざまにかけられた言葉に、嬉しそうなディティア。
彼女は差し出された爆風の手をぎゅっと握って笑う。
「お、来たね逆鱗」
俺に向かって最初に手を上げてくれたのはラウジャだ。
手をひらひらさせて応えると、彼女はにやりと笑った。
部屋はかなり広い。
中にはマルレイユは勿論、白薔薇の皆、シエリアとラウジャ、爆風、そしてロディウルがいるけど、それでもまだ余裕があった。
とはいえさすがにその数の椅子はないので、皆思い思いに床に腰を落ち着けている。
「ちょうど今までの話を聞いたところよ」
ファルーアが妖艶な笑みを浮かべて言うので、俺はその隣に行って胡坐をかいた。
「……気を遣ってくれたのは感謝する」
こっそり言うと、彼女の笑みが驚きに変わる。
「もしかしてハルト、まさか、あなた自覚が芽生えたの?」
「は? なんだよ自覚って……? ディティアには話さなきゃいけないこともあったから、時間もらえたのはありがたかったなって……」
「待ちなさい。話さなきゃいけないこと? ちょっとハルト、どういうことよ。聞かせなさい」
「……? 俺のせいで爆風が危険な目にあったのは聞いたんだろ? ちゃんと、それは俺の口から伝えておきたかったんだ」
「……それで?」
「それだけだけど?」
そこまで伝えると、ファルーアは右手で額を押さえ、項垂れた。
「…………そうよね、ハルトよね」
なんか残念そうに見えるけど、なんでだ?
首を傾げていると、ロディウルがばしんと膝を叩いた。
「よっしゃ! これで役者は揃ったってことやな。……災厄の毒霧ヴォルディーノは討伐済み。予想以上の快進撃やで」
快活なその言葉。
俺は意識を切り替えて、久しぶりに見るユーグルのロディウルをまじまじと見つめる。
ヤールウインドと同じような、濃い緑色の髪。
長めに伸びてあらゆる方向に跳ねたその髪の間から、ルビーのような紅い目がのぞき、きらりと光った。
軽そうな革鎧と、腰に挿した短剣。
胡坐をかいて、堂々とした表情をしている。
彼が、俺たち白薔薇をトールシャに誘った張本人なんだ。
……ようやく、ここまで来られた。そう、思う。
「ほな、本題といこか」
俺がここまでの道程を思い返していると――聞き慣れない訛りでそう言って、ロディウルは、意味深に俺たちを見回した。
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