幸運の星が輝くので。①
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自由国家カサンドラ首都。
壊滅とまではいかずとも、大きな傷を負った町は復興のために動き出していた。
中央治安部隊の中枢が生きていたのが大きいようだ。
小隊が編成され、すでに被害状況の確認や、倒壊の危険がある家屋の撤去などが進んでいるらしい。
そんな中、俺たちはトレージャーハンター協会と一緒に活動にあたることにした。
勿論、爆風もなんだけど、彼は医者への協力を続けているから、あまり顔を合わせてはいない。
これからのことを考えるにも、ディティアたちと合流しないことには決められないからな……。
その間、サーディアスは厳重に監視され、その取り巻きたちは中毒症状でそりゃあもう酷い有様だとマルレイユが教えてくれた。
それから、倒した災厄は、ユーグルたちが回収するそうだ。
トゥトゥがその指揮を執っているので、すでに彼らは首都にいない。
マルレイユは渋い顔をしたけど、倒したのはユーグルと俺たち白薔薇だからな。
所有権とやらがあるのはこっちだ。
……アルヴィア帝国からは研究協力の申し出があると思いますよと、彼女は苦笑していた。
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そんなこんなで、一週間、ひたすら首都で肉体労働が続いた。
少し遅めの昼を終えた俺たちは、次の作業へ向かうべく歩いてたんだけど……。
各地からの返事が届き始め、ぽつぽつと逃げ出した商人や町の人が戻る中、今日はやけにざわざわと騒がしい場所がある。
「なんだろうあれ?」
ボーザックが人だかりの向こうを覗こうと、全身をありったけ伸ばしながら言った。
「見てみようぜ」
「そうだな」
気になって言うと、グランも同意してくれる。
はたして、覗いてみた先には、今日やって来たらしい集団がいたんだけど……うん。
その中に、輸送龍を連れたカンナが混ざっていた。
いや、カンナは普通にしてるけど、かなりの注目度だぞ……。
「……おいハルト。お前、あれに乗ってきたのか?」
「あ、ああ、うん。あれが輸送龍……」
「うわー、すげーでかいね!」
「……行ってやれ」
グランに苦笑されて、俺はとりあえず輸送龍がちゃんと三頭いるのを確認してから近寄った。
「よお、無事だったか、ありがとなー……うぶっ」
黒く艶めく巨躯は、そのまま巨大な鼻先を腹に突き込んでくる。
「……それ、愛情表現か?」
思わず聞くと、少し後ろでボーザックが笑った。
「あははっ、ハルトにそれ聞かれるとか、可哀想じゃない?」
「はぁ? なんでだよ」
俺が口を尖らせると、グランが肩を竦めて、顎髭を擦る。
「お前、本当にブレねぇなあ」
……失礼な気がするんだけど。
そうこうしていると、カンナがすぐ傍までやって来た。
「……無事だね、よかった。……あいつは?」
「カンナもな! 爆風は別の場所を手伝ってるよ」
「そう」
落ち着いた色の茶髪と同じような色のきりりとした眼。
中性的な顔立ちで、小麦色の肌をさらした女性のカンナは、それを聞いて頷く。
少しは口元が緩んだのがわかって、彼女なりに心配していてくれたんだと思う。
「……会長に到着を報告する。どこ」
「ああ、マルレイユ会長ならたぶんあの大きな建物だと思う」
「わかった。……あとで手伝うよ」
中央治安部隊の館を指差すと、カンナは輸送龍を連れてそっちへと歩き出した。
あとに続く輸送龍たちが、黒塗りの馬車をガラガラと引いていく。
一カ月、一緒に旅したんだもんな……なんだか感慨深い気もする。
いろいろあったもんな……。
俺はぼんやりと考えながら見送ろうとして、はっとした。
……そうだ、俺、トレージャーハンター協会に報告することがあったんだ。
地図を引っ張りだし、そこに印があるのを確認して、俺はグランたちを振り返る。
――その印は、ゾンビ化してしまった男を埋葬した場所だった。
誰にも知られないままゾンビになったんだとしたら、それは可哀想だから。
爆風とふたり、トレージャーハンター協会で調べられるようにとそうしていたのだ。
……申し訳ないことに、いろいろなことがありすぎてすっかり記憶の奥底に埋もれてしまっていたけど。
「悪い、ちょっと報告し忘れてたことがあるから、俺も会長のところに行ってくる」
「おう、俺たちはこのあたりでもうひと仕事しとくぞ」
「いってらっしゃいハルトー」
ふたりは快く送り出してくれて、俺はカンナを追いかける。
それに気付いた輸送龍が、『ピュウイ!』と鳴いた。
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すみません、昨日投稿できませんでした!
今日は区切りよくしたかったので少し短めです。
いつもありがとうございます!




