表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルトⅡ  作者:
216/308

毒を制する者。⑤

******


「さぁて、災厄が出てきたら一気に叩くぞ」

災厄がいると思しき場所から少し離れた位置に、俺たち白薔薇は降ろされた。


肩をぐるぐる回してから、グランが白薔薇の大盾を構える。

俺とボーザックも、それぞれ武器を構えた。


「では、掘り起こしますね。……お願いします、ハルト」

「了解、威力アップ、威力アップ、威力アップ!」


ひとところに固まってくれていたユーグルに、バフを広げる。

五感アップは上書きして相殺し、威力アップの三重だ。


ユーグルたちの乗るヤールウインドたちは、トゥトゥの指示で災厄がいると思われる場所の上空まで行くと、ぐるぐると円を描きながら飛んだ。


……場所は開けた平原。

カサンドラの首都がうっすら影となって見え、ぽつぽつと木が生えているのが確認できる。


加えて、空は晴れ渡り、遠くに雲がかかっている程度。

風もなく、毒が流れて急激に広がることはなさそうだ。


討伐には好条件である。


「……俺たちも準備するぞハルト」

「おう。……速度アップ、腕力アップ、腕力アップ、腕力アップ」

なにかあっても躱せるように、速度アップを。

あとは腕力を上げて、剛毛を突破できるようにしておきたい。

爆風のときには腕力アップを四重にしていたけど、たぶん、三重でもなんとかなるだろう。


バフを広げ終えると、俺はトゥトゥに向かって手を上げた。


「トールシャでも災厄の討伐なんて、俺たちホントに有名になっちゃうんじゃないかな?」

軽口を叩きながら、ボーザックが腰を落とす。


「はっ、望むところだろうよ」

グランが、大盾を体の前にして、にやりと笑う。


俺はつられるように唇の端っこを持ち上げて、答えた。

「白薔薇の名前、歴史に残してやろうぜ!」


――瞬間。


ヤールウインドたちの円の中心に、光の球が生まれた。

例えるなら、太陽。

怪鳥がぐるぐる回るうちに、その球はどんどん大きくなっていく。


まばゆい光は、昼間だっていうのに煌々とあたりを照らし、やがてゆっくりと降下……いや、沈み始めた。


……すごい。


思わず、息を呑む。

触れただけで、あっというまに消滅でもしそうなほどだ。


「ファルーアが見たら、なんて言うかな……」

ボーザックが呟き、その言葉が空気に溶けるのと同時に……光の球が地面に触れ……。


ブワアアアアアァァッ!


なにが起こっているのか、わからなかった。

まるで地面が自ら道を開けるかのように削れていく。


空気が衝撃となって俺たちを押し流そうとするのに、両腕を顔の前にして耐えながら、俺は呼吸を忘れて、見入ってしまった。


やがて、光の球はだんだんと細く、長くなり、上空へと一本の槍のように伸びあがると、空に吸い込まれる様に消えていく。


……残されたのは、大きな、穴。



その縁を、ゆっくりとなにかが掴んだ。


――爪だ。


さらに、鼻先が。

巨大な体が。


ゆっくりと、這い出てくる。


「……災厄の毒霧、ヴォルディーノ」


思わず呟くと、ボーザックが苦笑した。

「うわー、さっきの魔法当たったんだよね? 平気な顔してるけど」

「ええ? お前、あれの顔見えるのか?」

思わず聞き返すと、ボーザックは、今度は楽しそうに笑った。

「ううん、毛で覆われてて全然わからないー」

「はぁ? 紛らわしいこと言うなよな……。確かにこいつ、魔法耐性が高いみたいなんだけど」

「……おいお前ら、気の抜ける会話してんじゃねぇよ。行くぞ!」

グランが踏み出す。


俺とボーザックは肩を竦めると、そのあとに続いた。


一気に距離を詰め、その緩慢な動きの魔物へと、白い大盾が閃く。

「おらぁッ!」


ガツン、と音がする。

けれど、グランは飛び退いて顔を顰めた。

「毛が邪魔で殴った感触がねぇ」


「そんじゃあ俺がっ……たあぁっ!」

その横を駆け抜け、ボーザックが無防備に置かれた前脚へと斬りかかり、大剣で横に薙ぐ。

「……ッ、もう、いっちょ!」

足を踏ん張り、瞬時に引き戻した大剣を今度は下から上へと振り上げ、ボーザックが飛び離れると、少し遅れて、斬られたほうと反対の爪がボーザックのいた場所へと突き込まれた。


「多少は斬った感触があるかな。動きも遅いし、何回かやればいける」

ボーザックが軽い足取りでこっちに戻ってくる。


「爪にも毒があるらしいから気を付けろよ」

思い出して言うと、グランが大盾を構えた。


「なら爪は任せろ! ボーザック、ハルト、脚を集中して狙え」

「任せといて!」

「おう」


◇◇◇


「おらおら! こっちだ!」

グランが声を上げ、前脚の爪を大盾でぶん殴る。


災厄がその大きな体を震わせ、グランへと爪を振ろうとするそのときを、俺とボーザックが狙う。

振り上げた爪とは逆の脚に、一気に攻撃を仕掛けるのだ。


「おおおっ!」

「たああっ!」


何度かそれを繰り返しているうちに、ついに、その瞬間が訪れた。


――ゆっくりともたげられた頭。


災厄の脚には傷が穿たれている。

にもかかわらず、災厄の毒霧ヴォルディーノは鳴き声ひとつあげなかった。


……いや、あげられないのだろう。


巨大な口の中には、びっしりと紫色のイボのようなものがある。

音を出す機関は、用意されていないのだろうと思った。


――開いていく。


俺はその動きを確認して、一気にバフを練り上げた。


「速度アップ、速度アップ、速度アップ、走れッ!」



本日分の投稿です。

いつもありがとうございます。

ブックマークや評価など、とてもはげみになっています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ