再会はそのあとで。⑧
「……なぜ、そう思ったんだい?」
ガチャリ、と金属の枷を鳴らし、身を乗り出そうとしたサーディアスを、グランとボーザックが左右から床に押さえつける。
その間に、爆風が俺を起こしてくれた。
体は完全によくなったのか、その腕は力強い。
「……強かったから、お前が。紅い粉を呑んでいないように見えるのに、バフを重ねたみたいにな。……それに、お前がメイジをそばに置いてなかったのが不自然だと思ったから。どう考えても変だろ」
「――は、あはっ、あはは!」
言葉を吐き出すと、サーディアスは肩を震わせて笑い出す。
襟足が長い金の髪が、ゆらゆらと揺られていた。
爆風は再びベッドに腰掛けると、黙って腕を組む。
マルレイユも、今は口を挟むつもりはないようだ。
「そうか。そんなことで。……でも、だからなんだっていうんだい?」
「いや、お前。そりゃあおかしいだろうがよ」
いきなり割り込んだのは、グランだ。
「そうだね。アイシャのときは、災厄になった奴が自分は魔法都市国家の末裔だーとか言ってさ、古代魔法使ってたもん」
ボーザックも相槌を打つ。
聞いていた爆風が、鼻先で笑った。
「魔法都市国家と争っていたのは魔法が使えない奴らが集う古代都市国家。つまり、お前は『そっち』だな? ……それなのに、魔法都市国家のウルとやらになるのか。とんだ裏切り者だな」
サーディアスはそれを聞くと、にやりと口元を歪め、醜悪な表情になった。
「違うね。僕が造るドゥールトラーテは、生まれ変わるんだ。『僕たち』でそうすると決めたんだよ。そうだ……君は国民にしてやってもいいよ、爆風のガイルディア。抗毒剤を飲んで、災厄の毒からまったくの後遺症なしに動いているんだろう? ……つまり君も『僕たち』と同じなのだからね」
「…………」
爆風はベッドに腰掛けたまま腕を組み、つまらなそうにサーディアスを見下ろす。
俺は、予想外の言葉に、一瞬意味がわからなかった。
「君は、僕たちの仲間だ。あの毒は、魔力結晶を摂取した奴らと僕たち以外に牙を剥くものなのだから」
……爆風が、サーディアスと仲間? つまり、爆風も古代の人と同じ血を継いでいるってことか?
頭が、じわじわと言われたことを理解する。
「待ちなさい、サーディアス。では、あなたが持っていた『抗毒剤』は……やはり、後遺症が残るのですか」
そこで初めて、マルレイユが声を上げる。……顔色が白っぽくなっているのがわかった。
「は、だからあなたは嫌いです。全てわかっているようなその口ぶりはイライラする――ええ、その通り。全身に麻痺が残るくらいですよ、死ぬよりマシでしょう?」
動けるなら、殴っていたかもしれない。
思わず、ぎりっと歯が鳴るほどに噛み締める。
――けど、その瞬間に動いたのは『伝説の冒険者』だった。
シャアンッ!
気付けば、彼はいつの間に手にしていたのか己の双剣を抜き放ち、サーディアスの首元にぴったりとあてていた。
「……調子に乗るなよ、若造。仲間? 笑わせる。俺は、俺だ。…………狩るぞ」
「…………ッ」
ぞっとした。
冷たく、研ぎ澄まされた刃のような声。
全身が、危険だ、逃げろと訴えるほどの殺気が、部屋中に満ちる。
サーディアスですら、醜悪な笑みを消して身を竦め、言葉を失っていた。
その左右にいるグランとボーザックが、一瞬で額に冷や汗を滲ませたのがわかる。
ここからは背中しか見えないけど、爆風のガイルディアのその眼は、ギラギラと獣のように光っているのだろう。
……俺は息を吸った。
「……落ち着けよ爆風」
「ふ、お前が言うか。逆鱗」
剣を収め、彼は体を起こしてこっちを向く。
その表情は……苦笑。
空気が弛緩して、俺は知らずに力が入っていた肩をゆるゆると下ろした。
「……あんた、変な顔してるぞ」
「ははっ、言うようになったな! 大丈夫だ、お前たち白薔薇が動けるうちは、狩らないでやる」
「いや、本当に心臓に悪いんだけどー」
ボーザックが、我に返って盛大なため息をこぼす。
グランはすっかりおとなしくなってしまったサーディアスを見下ろして、すかさず顎鬚を擦った。
「まったく……勘弁しろよ爆風……」
はっきり言って、俺たちからすれば、爆風の血がどうだろうと全く関係がないのだ。
どうだったとしても、俺は爆風に追い付いて、追い抜く必要があるんだからさ。
ふわりとした濃茶の髪を思い出し、俺は眼を閉じる。
――たぶん再会は、これが片付いた、そのあとだろう。
「と、とにかく皆さん。サーディアスの仲間のことも調べないとなりません。それから、災厄の毒霧もなんとかしないとですから……」
ようやく凍りついていたマルレイユが動きだし、俺たちは再び、サーディアスへと質問を重ねることにした。
……今度こそ、サーディアスは観念したようだった。
書けたので更新しちゃいます!
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