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逆鱗のハルトⅡ  作者:
210/308

再会はそのあとで。⑦

◇◇◇


宣言通り、爆風はしばらくすると皆と一緒に戻ってきた。

まだ痺れているって言ってたけど、足取りはしっかりしているように見える。

彼は俺に向かってにっと歯を見せて笑うと、自分のベッドに腰掛けた。


「ハルト、体はどうだ」

「大丈夫?」

グランとボーザックの声。


なんとか首をもたげると、縛られて猿ぐつわを噛まされたサーディアスも引きずられてきていて、ふたりがその左右をがっしりと押さえている。

マルレイユも、穏やかな笑みを称えたまま、その傍に控えていた。


「逆鱗のハルト、あなたのバフで何人もの命が救われました。感謝します」

「あー、うん、ごめん。先に起こしてもらえないかなー」


普通に話が始まりそうなので思わず言うと、ボーザックがぶふっ、と噴き出した。

彼は笑いながらグランに頷くと、俺を起こしてくれる。


「……笑いすぎだぞ」

「ふふっ、いや、ハルトっぽくてさ!」

「失礼なやつだなあ」


ボーザックがサーディアスの横に戻ると、グランがその猿ぐつわを外す。

すると、早速サーディアスはにやりと口元を歪めた。


「逆鱗のハルト。情けないね、君は」


……この状況でよくも言えたもんだな、こいつ。

ある意味感心すらしてしまう。


「それで、話はどこまで?」

無視してマルレイユに話しかけると、彼女はちらりとサーディアスを見て首を振る。

「まだ、なにも。あなたに話したと笑うばかりで」


俺は苦虫を噛み潰したような顔をしたはずだ。


……いや、確かに聞いたけどさあ。

黙秘するならまだしも、なんで俺を出すんだよ。


「……で、なにか聞いてるのか? ハルト」

グランに聞かれて、俺は訝しく思いながらもなんとか頷く。


「ドゥールトラーテ。古代の魔法都市国家らしいけど、それを蘇らせたいらしいぞ。ついでにウルになるんだってさ」

「ええ……それまるっきり災厄の黒龍のときと被ってるじゃん」

答えた俺に、ボーザックが心底呆れたような声音でこぼす。


サーディアスは鼻を鳴らした。


「一緒にしないでもらおうか。あれは咎人のウルがおこなった不完全なものだと聞いているよ。見ただろう? 僕の連れてきた災厄は、誰も贄としてはいない完全体なのさ」

「……ほう? お前はアイシャの情報も持ってるんだな」

グランが顎を少し持ち上げた状態で、サーディアスを冷たく見下ろす。

「ふん、期待外れだったよ、白薔薇。君たちが災厄の黒龍を討伐したと聞いて、家臣にしてもいいと思っていたんだが」

「こっちから願い下げだ、少し黙れ」

グランが吐き捨てると、サーディアスは口元を歪めたまま押し黙った。


……なんで、こいつはこんなに余裕綽々なんだろうか。

不安が胸を掠めていく。


俺は小さく首を振って、言葉を続けた。


「俺がたまたま道中で会った奴が、サーディアスに暗殺されかけてたんだ。そいつといる内に、サーディアスが指示を出していることがわかった。しかもご丁寧に、サーディアスはそいつを『咎人のウル』って呼んでたんだよ」


「暗殺って、なんでまた?」

ボーザックが目をぱちぱちさせる。


「さあ? こいつ、咎人のウルが作った毒で、こいつらの血が絶えかけてるって言ってたけど」


俺はそこまで言って、少し考えた。

サーディアスは、血結晶を呑んでいないように見える。

でも、まるでバフを重ねたような強さだった。


それが、こいつの言う『血』とやらのお陰だとしたら、魔力でも含んでるんじゃないだろうな……?


「……ッ」


瞬間、全身が急速に冷えた。

知らず、息を詰めてしまうほど。


グランとボーザックが、視界の端っこで眉をひそめるのがわかる。


思い出してしまった。

血結晶を造るために、なにが必要なのか。


――レイスだ。レイスの、血。そして、もともと人間の血だ。

けど、ある流行病を原因として……とれなくなったんじゃなかったか?

……病気に見えたそれが、毒、だったんじゃないか?


俺は、ある仮説を立てる。


昔の……アイシャの四国が残した物語には、強力な魔法を使う魔法都市国家の人々と、その魔法にすら拮抗するほどの屈強な古代都市国家の者たちが出てきていたはずだ。


目の前で気持ちの悪い笑みを浮かべ余裕綽々な男は『魔法を撃たなかった』。

災厄の黒龍アドラノードになったドリアドは、古代魔法を使っていたのに。


そして、こいつの取り巻きには、なぜかメイジがいなかった。

サーディアスが、魔法を使える奴らに嫉妬していたんじゃないだろうか。


――自分が、魔法を使えないから。


つまり、サーディアスは魔法都市国家側の人間ではないんじゃないか。


……この仮説が正しいなら、サーディアスは古代都市国家のウルになることを選ぶはず。


でも、ドゥールトラーテについて俺が魔法都市国家と言ったとき、サーディアスは否定しなかった。

……なら、誰かが血のことを教え、魔法都市国家のことを教え、サーディアスがウルになるよう誘導したんじゃないだろうか。


「……は」

俺は、そこでようやく、詰めていた息を吐き出し、思い切り吸い込んだ。

空気が体の中を浄化するようで、頭が冴えていく。


いるじゃないか。

まだ『見つけられていない』奴が。

災厄の破壊獣がいるその場所で、名前が出てきた奴が。


「サーディアス」

「……なんだい、逆鱗のハルト?」

「毒って、なんだ? お前、『僕たちのような』って言ってたな。同じような血を持った奴がほかにもいるんだな?」

「……ふ、話すとでも?」

「話せッ!」

思わず身を乗り出そうとする。

しかし、思うように体は動かず、俺はベッドの上に無様に突っ伏しただけ。


俺は布団に埋もれながら、サーディアスに向けて言い放った。


「お前……魔法が使えないんじゃないか?」


なんとか目線を上げると、サーディアスの眼が、ギラリと殺気を帯びたのが見えた。



ぎりぎり本日分です。

伏線を回収していきます。

よろしくお願いします!

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